2004.02.18

誤字等No.033

【ファンタジック】(外誤科)

Google検索結果 2004/02/18 ファンタジック:53,300件

これもまた、厳密な意味での「誤字」とはちょっと違うかもしれません。
国語辞典にも載っている、「日本語」としては「認められた」存在と言える言葉だからです。
それでも、間違いから生まれていることは確かです。
そして多くの人が、それを知らずにこの言葉を多用しています。
私はあえて、この言葉を誤字等としてリストアップしておきたいと考えました。
それが、今回の表題「ファンタジック(fantasic)」です。

ファンタジック」は、「幻想的」「空想的」といった意味に使われています。
ファンタジー(fantasy)」の形容詞形として認識されていることになりますね。
しかし、これが「英語」だと思っていると、とんだ恥をかきます。

英和辞典で「fantasic」を調べてみれば分かります。載っているでしょうか。
ファンタジック」は英語ではなく、「和製英語」という名の「日本語」なのです。
本当の、「fantasy」の形容詞形は「ファンタスティック(fantastic)」となります。
こちらもよく使われる言葉ですが、一般的には「素晴らしい」という意味が追加されます。
ハリウッドの映画俳優が、両手を大きく広げながら、歓喜の表情で「Fantastic!」と叫んでいる光景、きっとみなさんも想像できることでしょう。

辞書的には同じ言葉として扱われている「ファンタジック」と「ファンタスティック」ですが、両者のニュアンスにはこのような違いがあります。
日本人が「ファンタジック」という和製英語を作り出すことになった原因が、その「ニュアンスの違い」に影響している、と私は考えています。
なぜわざわざ和製英語を作る必要があったのか、考察してみました。

ファンタスティック」という言葉から原型である「ファンタジー」を連想するには、少しだけ無理があります。
その理由は、「fantasy」の「s」の発音が変化する現象に、日本人がついていけないことにあります。
ファンタスティック」から語尾の「ティック」を除いた「ファンタス」と「ファンタジー」では、発音が違いすぎます。
両者を「同じ言葉」として認識することは、なかなかできません。
逆から考えても、同じことが言えます。「fantasy」は「ファンタジー」であり、「ファンタシー」ではありません。
語尾に「ティック(tic)」を付けても、「ファンタズティック」としかならないのです。しかし、これでは発音しづらいですね。
そういった理由で、耳で聞いた「音」としての「ファンタジー」と「ファンタスティック」を関連付けられなかった日本人は、「ファンタジー」の形容詞形となる「ファンタジック」という言葉を発明せざるを得なかったのです。
さらにその副作用として、「ファンタジック」の登場により「ファンタジー」の意味(空想、幻想など)に縛られることがなくなった「ファンタスティック」は、「素晴らしい」という別の意味が目立つようになったとも考えられます。

こうして、「ファンタジック」は「日本語」としての地位を確立しました。
日本語の文章に登場している限りは、誤字として糾弾できないかもしれません。
しかし、その特権は「ファンタジック」を「日本語」として扱う場合にのみ得られるものです。
fantasic」と英語で表記してみたり、「phantasic」と綴りを工夫してみたり、「ファンタズィック」と発音をひねってみたりする行為は、すべて「滑稽」なものにしかなりませんので、ご注意を…

[実例]

日本人とは、かくも「外国語の発音」に弱いのでしょうか。
このような「外国語の発音」が原因と思われる誤字等の品種を、「外誤科(がいごか)」と命名しました。

[亜種]

fantasic:2,290件
fantazic:52件
fantsic:18件
fantajic:4件
fantagic:36件
phantasic:8件
ファンタズィック:14件
ファンタジィック:14件
ファンタシック:36件
ファンタチック:49件
ファンタヂック:16件

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