2004.06.15

誤字等No.084

【分かりずらい】(平誤科)

Google検索結果 2004/06/15 分かりずらい:4,490件

」と「」の間違いは、これまでにも平誤科でご紹介してきました。
この手の間違いは、非常に多くの日本人が、何の疑問も持たずに常用してしまっていることがあります。
今回の誤字等も、その一種です。

「〜づらい」という言葉は、動詞の連用形に続いて、その行為が困難である様子を示します。
漢字で書けば「辛い」となります。
分かりづらい」ということは、理解することが困難である、分かりにくい、という意味になります。

辛い」を単独で読めば、「つらい」となります。
それが連濁によって濁音となった結果が、「づらい」です。
それが「ずらい」になってしまっては、何を意味する言葉なのか分かりません。

づらい」は、「分かる」以外にも「見る」「聞く」など様々な動詞に付けて、「見づらい」「聞きづらい」といった言葉を作ることが可能です。
さらに、万能サ変動詞「する」とつながった「しづらい」の形になれば、「表現しづらい」「説明しづらい」「利用しづらい」などなど、そのパターンは膨大なものとなります。

今回の表題である「分かりずらい」の他、上記の「」を「」に変えた「見ずらい」「聞きずらい」「〜しずらい」は、すべて大量に存在します。
書いている本人たちは、はたして「」と「」で迷うことがあるのでしょうか。
それとも、「」という表記が想像もできないのでしょうか。
このような言葉が入っている文章は私にとっては「読みづらい」のですが、世間一般ではそうでもないようですね。

ずらい」という誤字は、単に「耳から聞いた発音通りに表記する」習慣だけが原因でしょうか。
無論、それもあるでしょうが、もうひとつ、違った側面がありそうです。

分かりずらい」という表記を常用する人は、おそらく、全体を「一語」として認識しています。
もし、「分かる」+「つらい」という二語に分解する発想ができるのなら、「」になるはずがありません。
言葉を、細かい構成要素に分解して認識することが苦手なのでしょうか。
それでは、豊富な語彙を習得することなどは、あまりにも困難であると言わざるを得ません。

もっとも、「困難である」という意味の言葉が「ずらい」であると思い込んでいるのであれば別です。
あるいは「すらい」という言葉があると思い込んでいるかもしれません。
そんな人は、おそらく辞書を引くということは滅多にしないでしょう。
それでも、もし調べてみたとしたら。
ずらい」も「すらい」も載っていない現実に直面して、戸惑ってしまうことでしょう。

先日は、この「分かりずらい」という表記を、とあるTV番組の画面で見かけました。
TVが常に正しい言葉を使っているわけではありませんが、このような事態はとても残念です。
最近は、特にバラエティー系の番組などで、登場人物のセリフがいちいち文字として画面に表示されることが多くなっています。
色や形、大きさに凝ったり、特殊効果を加えたりしたものは、あきらかに「演出」として使われています。
その番組製作現場に、日本語力のあるスタッフがいなくなっているのだとしたら。
あるいは、正しい日本語など知ったことではない、という風潮が蔓延しているのだとしたら。
視聴者の頭の中にも、そんな間違った表記が刷り込まれてしまう心配があります。
TVの影響力は、過小評価できません。

」と「」の使い分けは、現代仮名遣いの決まりごと。
その現代仮名遣いには問題も多く、また表記自体も流動的であるのは確かです。
かつては「」で正しかったものが、「」でも通用するようになり、やがて「」に収束した言葉もあります。
しかし、少なくとも今の時点では、「ずらい」などという言葉は存在しない、と私は思っています。
気付かずに使ってしまっている人には、ぜひ認識を改めてもらいたいものです。
ルールに縛られない自由と、ルールを知らない無知とは、全く次元の違うことなのですから。

[実例]

日本人とは、かくも「平仮名の間違い」に弱いのでしょうか。
このような「平仮名の間違い」が原因と思われる誤字等の品種を、「平誤科(ひらごか)」と命名しました。

[亜種]

見ずらい:2,430件
聞きずらい:918件
話しずらい:291件
読みずらい:891件
書きずらい:493件
歩きずらい:526件
動きずらい:470件
しずらい:13,200件

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