'02年度 四年生/二学期医 学 生 日 記
8月の4週目から二学期が始まった。今年は7月はフリークオーターがあったし、 夏休みが3週間だった上、いきなり始まってすぐに3つ試験があったので小学生よりずっと少ない夏休み だった。前の大学の半分以下。それでも社会人的感覚からするといっぱい休みがあって楽しかったのだが。「赤毛のアン」の中で、夏休み中、目いっぱい遊んだアンが休み明けに勉強道具を取り出しながら、 今は勉強したい気持ちでいっぱいでワクワクするというセリフがあるのだが、今は本当にその気持ちが よーく分かる。小学校も始まっていないので子供達は学童保育所。しばらくは朝4つのお弁当作りが続く。
このスケジュールは科目などが色々増えた結果今年かららしく、教える方の先生も「もう始まるの。なんか 大変だねぇ。5限まであるの?毎日?へぇ〜」なんて言っているのだった。来年からは減るらしいが・・ (もっとも実習ではないため、だいぶ授業の出席者は減ってきていた。試験さえ通れば進級はできる。)
神経内科というのはあまりなじみがない人も多い科だ。神経の病気を見るところだが精神科ではない。 例えばパーキンソン病や舞踏病などの脳の中の変化が原因で起こる病気や、脳よりもっと先の方の神経が 壊れて麻痺する病気とかとにかく神経(脳も神経の塊)に病変が起こるものを扱うところだ。講義形式の 授業の他に、班ごとに実際に患者さんの診察に参加して、まとめそれを学生講義する実習もある。これも講義と実際にやるのでは大違いで大変勉強になる機会だが、かなり患者さんの協力がいるので 申し訳ない。もちろん事前に主治医が話して許可をもらうのだが、いやですと言いづらい人もいるだろうし。 手を握ったり開いたり、ハンマーで膝やかかとや肘を叩いて反射を見たり、筋力の低下がないか 押したり引っ張ったり。患者さんにしてみれば入院する前から何度もやっていることをまたやるわけだし、 初めてやる学生は何分にも下手で時間がかかる。そして指導教官が、ほら、この反射がこんなに(異常に) 出るでしょう、筋力がこっちだけ落ちてるでしょう、と解説するのにじっと付き合ってくれているのだ。 歩いてもらう、しゃがんでもらう、特徴的な異常があればビデオに撮る。嬉しい人はいないだろう。
一時的な症状で、めでたく治る人もいる一方、遺伝性の病気でこれといった治療法は無く、この先もただ 進行していく、子供を作ればかなりの確率で遺伝するといったことを本人もよく承知している場合もある。 そういう場合、単に愛想よく元気に挨拶していいものかどうか、学生は迷うところだ。結局、妙に黙々と 作業をこなしつつ、あいまいに無表情になってしまったりするのだが。ただし、現在打つ手がなくても ある日すごく画期的な方法が登場することは大いにある。今現在、それで生活が一変した人はたくさん いるのだから。今は、ちょっとでもそこに繋がるように、できることをするしかない。
遺伝病の資料を見ていたら、Pedigreeという単語があった。聞き覚えのある単語だ。ペディグリー・チャム といったら、トップ・ブリーダーも推薦!のドッグフードだったような。でもここにドックフードは出て こないだろうし・・と辞書をひいたら「家系図、血統」だった。なるほど血統証付にふさわしい上等な餌 という意味のネーミングだったか・・。というわけであのCMのおかげでこの単語は大変覚えやすい。それにしても由緒ありげなヘンな語感。と思ったらフランス語経由の結構古い英語で pied de grue crane's foot 鶴の足からきているらしい。家系図のあの線が鶴の足に似ているからとか・・。見慣れたものに、結構色んな 曰くが埋まっているもんだ。
近頃、昼休みによく散歩に行く。暑いし、紫外線は気になるしだが、折りたたみ日傘を買ったらとても快適。 結構(というよりかなり・・)方向音痴なので、ポケット地図帳も買ったら、いろんなところへ探検に行けて 楽しい。秋葉原に5分で着くとか、神田の本屋街へ昼休みに徒歩で往復できるとか、少々競歩ペースにすれば 東京ドームまで行けるとか、いずれも知らなかったので新鮮。なるべくいろんな道を通り、川や橋のつながり もだいぶ分かってきた。古くからの大都市は、最先端のものから古い歴史上のものまでが濃密に交じり合って いて、一本違う道を曲がるだけで意外なものに出くわすことが多く、とても面白い。それと、これは使われなくていいことを祈る用意ではあるが、何か大きな事態が発生して、混乱状態になった ときに病院の周りの地理や状況をなるべく知っておきたかったので。というのもある。
兵庫医大の先生が災害医学の授業に来た。医学的な内容もさることながら、現実にそういう状況でどんなことが 困るか、大変かと言うお話はあの地震の記憶がまだみんなに多かれ少なかれ結構残っているだけに印象的で、 なかでもトリアージ・タグの話がずっしり重かった。トリアージ・タグと言うのは病院に怪我人が殺到した 時など、緊急時に診察や処置の順を整理するために患者につけるカード。怪我の程度によって色分けし、 優先順位を決めて効率的に医療資源を使うための大切なものだが、この優先順位が通常の場合といささか 違う場合がある。大量の患者に少人数の医療スタッフと資源で、なるべく多くの人間を助けるための「戦場の理論」での 優先順位なのだ。つまり、すぐに手当てが必要な重傷で、かつ治療によって社会復帰できる人が優先。 ほぼ死亡、もしくは助かる見込みが極めて少ない、もしくは大量のスタッフと資源と時間を投入すれば 助けられるかも知れないが、今はムリという人は一番後回し(ものすごく負傷者の人数が多ければ順番が 回ってこない可能性もある。)になる。
とにかくどんどん来る人を見て判断して、タグをつけていくのは医療関係者の手があいている人。必要と あらば、医学生もだからね。という先生の言葉にびっくりした生徒達が、でも学生じゃ判断が・・と問うと、 本当に戦場になれば医師や看護師は処置で手がいっぱい。殺気立った場所で素人が優先付けなんかしたら、 暴動になるかもしれないから。ちょっとでも関係者であるものがやらなきゃダメ。とのこと。
例えば、助かる可能性の低い、虫の息のケガ人の必死の家族に「一番後回し」の札を渡す。 心底、そういう状況はいやだと思った。渡す側にしても、渡される側にしても。
& 追加
と、ここまで書いたところで妹から「これでは言葉が足りなすぎ」と散々文句がきたので、もう少し。 これは欧米で第一次世界大戦後にできたシステムで日本に導入されて統一されたのはつい最近。平和な 日本ではまだ知っている人は少ないが、インターネットで検索すればかなりの情報が手に入る。 また、クラス分けは絶対決定ではなく、状況によって変わることもある。最も後回しのグループは「死亡群」。すでに死亡しているか、回復の見込みが殆どないものとされている。 しかしあえて触れられていないが、この見込みのないという判断基準が、現実的には、物理的に否応無く 平和で余裕のあるときとはかなり変わってくるというのが授業で私たちが実際に聞いて一番衝撃だった ところだ。でも、もっといい方法(物理的にも感情、倫理的にも)があるか?と言われれば答えは 簡単に見つからない。
もっとも、トリアージに関しては災害弱者(女性、子供、老人、病人、障害者など)を意識するという 一文もあるらしい。でも意識する、って、どのように?どのぐらい?というと非常にあいまいで難しい。 判断基準や、判断ミスの責任は、といった問題はまだいろいろある。 (ERというアメリカの医療ドラマを見ていたら、大事故でたくさんのトリアージ・タグをつけた怪我人が 運ばれてきたシーンがあった。死亡群の人は見なかったが。あとで担当のスタッフが、今回のトリアージ は良かったと誉められていたので、よくないトリアージもあるって事だろう)
大規模災害(戦争も含め)というのは、こんなことを人に強いる場なんだ、誰かが悪者で誰かが犠牲者と すっきり決まるものではなく。そういうドロドロをあえてあまり口にするのはやめておきましょう、 専門家に任せて素人は考えずにすましましょうという風潮が殊に日本には強いのが、非常に弱いところだと 大きな災害があるごとによく言われていたが、なにかと物騒な今日この頃、こんな知恵が使われずに すむことを切に願うが、誰であろうとそういう事にも目を向けて、知ったり考えたりしてほしいと思う。
トリアージの説明をしているサイトのいくつかでも「非常時に混乱しないよう、現場がスムーズに 機能するようぜひ知っておいてほしい」とされている。いろんな人が知って、答えが出なくても 考えて、そのうちどこからか、もっといい何かが出てくる事を期待して。もちろん災害の原因が なくなることも含め。
大学祭の4年生の出し物は「寄生虫展」。色々な寄生虫のパネル発表と標本の展示、もうひとつの 目玉は寄生虫博士として学外にも広く名が知れている藤田紘一郎先生のサイン会と本の販売。 (目黒寄生虫館の亀谷了先生とごっちゃにしてる人が結構いますが別人です・・)去年は解剖展で献体して頂いた方の実物標本を使うか否かでかなり倫理的にもややこしい問題が たくさんあり、手放しで楽しむわけにもいかない面があったのだが、今年は五分の魂はあるとは いえ、相手が虫なので大変気軽に色々試みられて楽しかった。
前日の看板作りや当日足りなくなって走り回って増刷したパンフレットなど、8歳の娘と一緒に 色々参加。パネルも担当。私のテーマはエイズと寄生虫。一見関係なさそうだけど、免疫の力が 弱ると寄生虫も一気に増殖するので、末期のエイズ患者さんは結構大変なことになることが多い。 免疫の話も好きなのでなかなか興味深い分野だ。最近 Photoshop という画像ソフトを買ったので それを使って図やパネルを作るのが面白くて色々やって寝不足になった。当日、横浜のラジオの 取材の人たちが来ていて、面白そうに覗いていった。そして、巨大なゲジゲジの標本を借りて いって、外で女の子にそれを見せてキャーキャーいってるところを録音していたらしい。
今回、何か来てくれた人が喜びそうな記念グッズを作りたかったのだが、
「Tシャツなんかどうかな?」
「去年は目黒寄生虫館のTシャツ出してもらったんだけど、結構値段も高いし、買って着る人って 限られるよねぇ。」
「じゃ、安くできて、小さめで割と広く受けそうな・・マグカップとか!」
「寄生虫柄のカップでコーヒーとか飲みたいかなぁ・・」
「う〜ん・・・、じゃ、小ぶりのタオルハンカチとか」
「寄生虫の模様で手をふきたいかなぁ・・」というわけでグッズ販売は実現せず、せっかくなのでシール用のプリンター用紙を買ってきて 私の気に入っているきれいな寄生虫のイラストを入れたステッカーを作った。結構好評で足りなく なったので、もっと作ればよかった〜とそれが心残り。
週末に箱根小湧園へ行った。色んなお風呂やプール温泉が広い敷地にいっぱいで、子供を連れて 行くには絶好の温泉。前から行ってみたいなーとは思っていたけど特に行くきっかけもなく今日 に至ったのだが、最近は子供達がこんなに親とべったりなのも、こんなにしょっちゅう休めて、 家族と遊びにいけるのも、研修が始まるまでと思うと、とにかく今が一番の時期と、きっかけが無く てもいろいろ実行に移している。・・と、そういう理由とは関係なく、色んなお風呂がおもしろ かった。それと、箱根の山に登る電車のスイッチバックが楽しかった。温泉地へ行くと長期の湯治客用の宿屋があったり、色々な効能が書いてあったりと古典的医学の 香りが残っているが(白雪姫の話にも子供が生まれるようにと王様夫妻が効くと評判の温泉にも 行ってみたというエピソードがあった)医学部では温泉医学という項目は無いので、現場で専門 の人が色々研究しているのかなぁと思った。
整形外科で、実際の患者さんの症例を見る実習があった。ちょうど手術の前後にお会いできたのだが、 背骨(の間の線維)の一部が出っ張って神経が圧迫されていたせいで手足がうまく動かなくなっていた のを、圧迫を取る手術をして戻すという例だった。何もかもが元通りというわけには行かないのだが、 手術の直後から、手がすいすい動いていたので「あ、治ってる!!!」とすごく嬉しかった。 何が嬉しいって、今まで実習で何人もの患者さんに会ったが、「治る」例に当たったことが一度も 無いのだ。悪化してなくなった人、とりあえず急場をしのいだけど一生付き合わなければいけない 慢性病、進行を止めるすべの無いもの・・・実際のところ、医者ができることは限られている。ほんとに初めて味わった、治って嬉しい!だった。
大宮で木下サーカスを見た。なんと最前列で舞台と客席の間が殆ど無いので迫力満点。なんか目に とまりやすいのか家人はピエロさんに構われたり、曲芸のアシスタントに引っ張り出されたりしていた。 この距離でライオン出て来たら怖いんだけど・・と思っていたら、動物の時には高いネットを張り 巡らせて一応仕切っていた。(ライオンやキリンが本気出せば壊れるとは思うが・・)動物園でも ライオンは大抵遠いところに入るので至近距離で見たのは初めて。大きい。サーカスのスタッフの獣医さんって聞いたことが無いけど、動物の具合が悪くなったら旅の先々で 獣医を探すんだろうか。犬はともかく、象やキリンを見られる人はそう多くない気がするけど・・と そんなことを密かに気にしながらも楽しく見物した。
10年使った電子レンジが壊れた。それも、スイッチを入れたとたんに家中のブレーカーが落ちる。 何かものすごく短絡しちゃったんでしょうか・・・。単体で動かないならともかく、家中の電器を 巻き添えにして止まるとはたちの悪い。これが手術器具じゃなくて良かったとつくづく思った。
治療や実際の患部等、見なければ始まらないというようなものが多いので画像を使った授業が多い。 手術もまたその一つ。まだ一つ一つのやり方を覚えるような段階ではないが、大体どのようなことを するのかは見たほうが早い。そして、一般的にはグロテスクな画像、ということになるのだが、学生は もう慣れてそういちいち怖がることはない。が、そんな学生も見ていて「ひえーーー」となる怖い画像とは、 さてなんでしょう?内臓などは、かえって日常と離れているし、手術では麻酔が完全に効いていて痛くも苦しくもないと 分かっているので大丈夫(人にもよるかもしれないが)。初めて見て怖いのは目玉だ。うわーーー刺してる! 刺してる!(ー ー川)切ってるよ〜(> <;;)。もちろんこれも麻酔はしているのだが見てて痛そう。
痛くなくても見えるんだから怖いのでは。そこで、局所麻酔でやるんですか?と聞くと眼科の先生曰く 「どっちでもいいんだけど、ダメって人には全身麻酔するね。特に若い男はダメ。痛がりだし、怖がりだし。 逆になんといってもオバちゃんは強いね。」・・・ふーむ、意外というか納得というか。
あとは事故による怪我。これはもう痛いし苦しいのが分かっているので痛々しい。ある程度見慣れていると、 傷口のぐちゃぐちゃ加減より、痛みが共感しやすい状況かどうかで感情のゆれが変わるのがわかる。よって 性差もある。泌尿器系の事故による損傷、切断などのお話は、ふと振り返ると男の子達はなんともいえない 顔でちょっと前かがみなのだった・・
娘(9)の前歯が若干不揃い。少しぐらい不揃いなのはかわいいと思うのだが、りんごなどをかじる時に首を ねじって横の方で噛もうとする。上の歯が下の歯としっかり合わなくて、前に傾き気味で無理に使うと痛い らしい。確か昔は永久歯が出揃ったぐらいで矯正って始めてたと思うけど、と調べてみたら、ここ10年で だいぶ状況が変わって、もっと早くから矯正した方が負担も少なくてきれいになるらしい。すぐ近所に 小児矯正を掲げた歯医者があったので行ってみた。そこで担当してくれたのは小児の矯正を専攻して勉強したというまだ20代のかわいいお姉さん先生で、 いろいろ見て説明してくれた。生え変わりにあわせて徐々にずらしてあげればあとから生える歯もうまく 並んで良いこと。費用も期間もかなり少なくてすむこと。レントゲンで見ると、歯ぐきの中の歯の数も位置も 正常で、今なら付けはずしできる、針金の付いたマウスピース(歯と上あごの型を取って、オーダーで作る) を付けるだけでいいこと。
30万とかかかるんだろうかと覚悟していたら装具は4万だった。診察と調整は最初は毎週、すぐ半月に一回 になり半年足らずでピシッときれいに歯がいい位置に落ち着いた。早い!さらに同じ半年固定するとのこと で、夜マウスピースはつけているが本人もすっかり取り扱いに慣れていて私のすることは無し。特にまだ幼 い子だと装具を気にして悲しくならないかという事が大抵のお母さんの心配の種だと思うが、結構平気 だった。(でもしばらくは心配で様子をうかがってたけど・・)すっかり生え揃うまでまだ観察はいるものの、 とりあえずよかったよかった。
ところで娘はかねがね自分だけレントゲンを取ったことがない。私も撮りたい撮りたいと言っていたのだが パントモと呼ばれる歯の回りをぐるりとカメラを回転させて撮るレントゲン写真を撮ってもらって大喜び だった。私も、きっちり用意されたまだ見ぬ永久歯が、歯ぐきの奥にきれいにスタンバイしている様子を 見られてとても面白かった。医学部でも一応歯についての授業はあるのだが時間数が少なく、歯学部のように はいかないので珍しいことがいっぱい。
大抵の学生にとって小児科はちょっと厄介な科目だ。大人用では分かれているたくさんの科目が合わさって さらにプラスαされているようなものだからだ。(時間の関係上どうしても広く浅くはなってしまうが) 何人もの先生が「子供は大人を小さくしたものではない」と念を押すように、いわゆる内科に、子供独特の 特徴が加わり、様々な奇形や遺伝病などの先天異常も加わり、脳神経関連の病気も多い。 予防接種など感染症関係も多く眼科、耳鼻科や整形外科系統の知識も要る。 生まれてから一人前になるまでの正常な発達も覚えなければならない。だからテスト対策も、ものすごく 量が多くなってしまうのだ。子供いて、いいな〜いいな〜!とこんなに言われた科目もなかった。とは言ってもうちの子供は一般的な 病気にしかかかったことが無いのだから、カバーできるのはほんの一部である。それでも何ヵ月後に首が座る とか、歩くとかしゃべるとかそんなのはお母さんならみんな知ってることで覚えるまでも無いし、 予防接種に何をやるとか、手足口病とかヘルパンギーナとかとびひとか、冬の白い下痢はロタウイルスの 下痢だとかはそこらの本屋の「ひよこクラブ」「たまごクラブ」といったママ本にいくらでも教科書より 判りやすく載っているのだった。ので、大抵の子が1度はやるような病気や発達に関してはさすがに楽だった。
テストのあとに、とあるクラスの男の子が言うには「母親に、何ヶ月で首が座るとか立つとか聞いたら、 全部知ってて、すげ〜感動した」
耳鼻科の授業で耳に異物が入った場合、というのがあった。「これなんだと思う?」スライドいっぱいに 映った耳の奥のアップ。なにやら黒いまるっこいものがちょこっと顔を出している。よく見るとその両脇に 黒い糸くずのような物も。足?もしや、虫?「これゴキブリなんだよねー。小さいの。昆虫ではゴキブリが結構多いんだ。サイズぴったりだとバック できなくて、本人もあのトゲトゲ足で暴れるもんだから痛いんだよ〜〜。」ひえ〜・・(-_-;)
「この患者さん14、5才位の女の子だったんだけど、うっかり『あ、こりゃゴキブリだ』って言っちゃったら パニック起こしてね〜(そりゃそうだ!)余計なことは言うもんじゃないって思ったね。」
虫はふやかして取り出すらしい。そのゴキブリは一回では取り出せず結局ばらばらにして引っ張り出した そうだが、その女の子も災難だったなぁ・・。ゴキブリだって災難だったわけだが・・。
整形外科で人工関節について学ぶ。特に膝と股関節、年を取ればみな多かれ少なかれ痛める上に、生活の 質に大いに関わってくるのでその技術は日進月歩。CDを駆使した画像や、デザインの様子などサイボーグを 作っているようだ。それでも、生体に似せた人工物を造ろうとすればするほど、生体がいかにすごいかを 痛感する。日本では特に膝関節に高度な工夫をして、捻りを加えた動きも出来るいいものを精力的に開発して いるらしい。何故かと言うと「正座ができる」のがミソらしい。そこまでして正座をしたいか日本人・・・ と思ったが、別にしたくなくても日常的にそういう動きを要求される生活様式なんだろうなぁ今でも。 あまり意識したことなかったけど。手術のビデオは他の科と趣が全然違う。なにせ硬いものを切るので。皮や肉はメス、ハサミだが、骨になる と、ノミ、ノコギリ、&トンカチ、電ノコ、ピンを打ち込む、で音もウイ---ン、バキバキ、ガンガンガン! 人工股関節をつける手術はまさに取り付け工事という感じだった。しかも堅いものの周りが、やわらかい上に 複雑で繊細で血まみれなものなので大変。時折、整形外科の手術のあとで、血の塊などが血管に入って 流れていってしまって肺や脳につまって最悪のケースでは死にいたることがあるとは聞いていたが、 ここまでやっても殆どの人にそういうことが起こらないという事のほうがすごいと思った。
ところで、最近読み返したシャーロックホームズの「赤毛連盟」という話の中に「人工膝蓋骨工場」というの が出てくるのに気付いた。人工関節の歴史はまだ数十年といったところで、いくらなんでもビクトリア時代に そんなものは有り得ない・・はず。しかも膝蓋骨、つまり膝のお皿。お皿だけ?でも・・当時の傷病兵の 義足みたいなものでそういうのがあったのだろうか???
でもその謎もネット検索ですぐ解決。さすがシャーロッキアン達、続々出ました。結論は翻訳上の誤解で 布や皮などの膝当てのことらしい。artificial knee-cap 、今は人工関節の部品も指すようだが、当時は もちろんそんなものはない。でもなじみのないもののせいか、博学な翻訳家たちもほぼ全滅らしい。ただ一人 子ども向けの文庫の、日暮雅通氏(講談社KK文庫 1990年)は正しく訳しているそうだ。
このお話はもう何度も読んだのに、初めての発見!。
外科、内科という科目で心臓や肺の勉強はするが、この辺は特に多いので胸部外科、という科目が別にある。 授業も色々ある上、更に班に分かれて発表をするので自分達で調べることも多いのだが、班ごとの指導者も 付いて、準備にかなり時間も手間もかけてくれるので大変面白い。心臓は、筋肉の塊のポンプ部屋というダイナミックである意味単純な面白さもあるし、化学物質や神経からの 信号で極めて繊細に調節する部分もあれば、電気信号を作り出して同期させて動くという電気機器のような ところもあり、進化の歴史を感じるような発生学的な面白さもあって、実に興味深い器官なのだった。
弁膜症という心臓の中のポンプの弁が壊れる病気を調べる班だったせいか、その頃、自分が大〜きな心臓の中に 入って天井を見上げ、弁の様子を見ている夢を見た・・。そしてああ、あんなところに疣贅(ゆうぜい:弁 にくっ付いたコブのようなもので、弁の調子が悪くなる元の一つ)があるなぁ・・なんて感心していた。 今思うと心臓の中は血でいっぱいなんだから、あんなに視界がいいはずはないのだが。
高校の同級生で、すでにベテラン医師となっている女性がいるのだが、10年以上前に何科?と聞いたとき 「麻酔科」と言われ、そこではじめてそういう科があるのを知ったものだった。普段、開業医に行って麻酔 科医に出会うことはないし、マンガのブラックジャックは麻酔も自分でやってるし・・。うまく薬品を使って麻酔をかけるのがお仕事なのだから、結構のんびりしてそう、と思ったのだがちゃんと 勉強してみるとそう簡単なものでもないのだった。私は局所麻酔で虫垂炎(盲腸)や帝王切開の手術を 受けたことはあるが、特に困ることも大変なこともなかったし、意識があるのでとても面白かった。 だからきっと全身麻酔も寝て起きておしまい、と言う風に簡単に考えていたのだ。
そもそも、普通ならどんなにぐっすり眠っていても、切られて気づかないと言うことはない。眠ってるうち に全部すんじゃうから全身麻酔のほうがいいなんていう人もよくいるが、いわゆる「眠り」とはぜんぜん 違うのだ。普通なら眠っているときにでも働いている体の大事な機能をぎりぎりまで落として、すれすれの ところで保ち、なおかつちゃんと元通りに目覚めさせると言う、かなり怖い作業なのだった。
昔から、麻酔の事故のニュースを見るたびに、プロのくせにいったいどんな不注意なことをやってたの かしらと呆れたものだが、こんなにややこしいものだったのだなぁと様々な合併症とその対処法を 学びながら認識を新たにしたのだった。ただし、もちろん人的ミスによる事故だって少なくは無い訳で、 それはどの科に行っても肝に銘じていなければならないわけだが。
あとで、麻酔の先生にお話を聞く機会があったが「僕たちは元気な人を一時的とはいえ状態悪くさせる わけだからね。それに、失敗はありえないと思われてるしね。その辺大変ですよ。でも僕自身はある一定の 期間と時間、一人の患者さんに集中してかかわるこの形のほうが向いてるんですよ。」との事。どの世界も いろんな形のお仕事の連携で成り立っている。
医学部で言うところの「医学」は西洋医学のことだが、日本には古くからある漢方というものもあるわけで、 西洋医学の医師で、かつ漢方もやっている医師による授業というものも一時間だけだがある。一時間だけ なので本当にさわりだけなのだが、また違う視点をのぞけるのも面白い。脈を取る話で、ちょっと失礼、と 前列にいた私の脈をとってしばし首をかしげ「元気そうに見えるけど意外と脈が沈んでますね・・」(それ は何?なんか問題が?年??)私の後ろに座っていた女の子の脈を取って「あれ、弱そうな割にしっかりして ますね〜」(確かに彼女はとても細いけど実はやせの大食い)となぞの発言をしてくれたのだが、あまり 種明かしをせずに去っていったのだった・・(のでずっと気になっていたのだが、半年後聞いたら別に 個人差なので問題はないといわれた。)細かいことはともかく、体全体の勢いや病を観察しつつ、顔色を見る、皮膚のしっとり具合を感じる、 背中の真ん中で体温を感じる、鼓動を見る、表情を見る・・その辺は古今東西のお母さんが毎日やってる ことだなぁと思った。
4年の年内で一応全部の授業が終わると、休み明けにそれらのすべての科目の試験がある。バリアー試験 といわれていて、その全てに通ると実際にベッドサイドを回る実習に進めるという、文字通りの手ごわい バリアーだ。今までの授業をまとめ、授業では手薄だった基本も加え、過去の問題を整理し、模範解答を 作成し、まとめた試験対策本(通称バリ対)をクラスの全員が分担して作る。今までの試験もそうやって ずっと分担してやってきたのだが、今度は総科目一斉なので全員一斉作業だ。 しかも量が多いので科目ごとに製本してもらう。前年までのものもなかなか力作で、内容のすばらしさもさることながら、各人の趣味や遊びがいろいろ 入っていたりして見ごたえがある。これは張り切って作らないと!とみんな思うものの、結構授業が 詰まっていたり、休みに入る前に製本が上がるためにはかなり早めに仕上げなければならなかったりで バタバタ。
私の担当部分は夏休み前に終わっていたので、とっくに出来ていても良かったのに案の定冬になってから 作り始め、ぎりぎりまでいじり回していた。(ちょうどいい漫画を切り張りしたり、いらん雑学をつけて みたりとかとかそういうところに力を注いでいたけど・・)時間の有効利用ということでそのころはずっと 学校にパソコンを持っていって、時間が空くとちまちまと作業をしたのだがこの細切れ時間の積み重ねは 大変重宝だった。私のパソコン(VAIO C-1)はとても小さくて軽いのでこういう時はありがたい。 カメラも付いてるので教室で級友を撮ったり、その画像をいろいろへんてこに加工したりしてよく遊んだ。
12月に授業が終わった。これですべての科について勉強した、ことになるらしい。ホント?という感じだ。 実際、勉強したといってもさわりの基本がようやく一巡したってことなのだが。講義室でみんな一緒に 授業を受けるのもこれで最後と思うとなかなか感慨深く、もう4年近くたったんだというのが信じられない ような気もするのだった。