高血圧について(付記JNC‐Y)



 高血圧症の患者さんは増えつつあります。これは高齢者の増加も一因ですが、皆さんの高血圧に対する意識が向上し、軽症のうちに治療をはじめる人が増えているのも大きな原因でしょう。

 このページをクリックしたの方の中にも血圧の高い方がいらっしゃると思います。興味があったらごゆっくりご覧ください。

 

高血圧は『サイレントキラー』

 血圧が高いまま長く放置すると自覚症状がないまま徐々に合併症が進行し、後に脳卒中や心臓病のような死に至る重大な病気になることが少なくありません。そのため高血圧は『サイレントキラー』(静かな殺し屋)と呼ばれています。 

 時々中年の働き盛りの男性にみられますが、若い頃から血圧が高いと言われているが自覚症状はないし、自己判断だが今のところ合併症もないようだ。自分は高血圧に慣れているから治療の必要はない、自分は大丈夫だ、と思っている人がいます。そして太っていて、タバコも吸うし、酒も多く、かつ運動はしない、このような人が50歳前後で脳卒中や狭心症、心筋梗塞などになるのです。

 あなたの周りでも、今まで血圧は高かったが、他はいたって健康と言っていた人が、突然このような病気で急死したと言う話を聞きませんか?

だから
『サイレントキラー』と呼ばれるのです。

あなたは大丈夫ですか?

 

高血圧の基準

 1978年のWHOの基準が一般的にもちいられています。

正常血圧     収縮期140(mmHg以下省略)以下で、かつ拡張期90以下(両方をみたす)
境界域高血症   収縮期141〜159、拡張期91〜94(いずれか一方をみたす、または両方)
つまり正常血圧領域でもなく、高血圧領域でもない。
高血圧      収縮期160以上、または拡張期95以上(いずれか一方をみたす、または両方)

あなたの血圧は正常ですか?

 

高血圧の種類と原因

●『本態性高血圧』 

  90%が本態性高血圧です。本態性とは原因が分からないと言う事です。

 原因が分からないものの、
『遺伝』『生活習慣』が大いに係わっている事が分かっています。

  ○『遺伝』について

    両親の双方が血圧が高いと子供の約50%に、片方が高いと約35%に高血圧が発症します。

  ○『生活習慣』について

   
 食塩を多く摂る地方では高血圧が多く、食塩をほとんど摂らない民族では高血圧は少ない。

    アルコールをたくさん飲む人(日本酒2合以上)に高血圧が多い。

    肥満の人に高血圧が多く、肥満の方が痩せると血圧が下がる。

    
運動を持続的に行うと高血圧が下がる事が多い。

 以上のことより、最近、高血圧を
『生活習慣病』と呼んでいます。

●『二次性高血圧』

  原因が分かっている高血圧の事で、その原因が取り除かれれば治る可能性があります。

 腎臓病、色々なホルモンの異常、ある種の薬が原因となります。10%がこれです。

 

親が高血圧で、塩辛い物が好きで、太り気味、そしてほとんど運動をしないあなた、かなり高率に高血圧に成りますよ!

 

 

高血圧のリスクファクター

 糖尿病、高脂血症、食塩、アルコール、肥満、運動不足、などは高血圧を発症させ悪化させる『リスクファクター』(危険因子)と呼ばれています。タバコも大いに関連しています。

 

高血圧の症状

 自覚症状の出る事が少なく、症状の感じ方も個人差が大きく、少しだけ血圧が高くても症状がある人もいれば、ビックリするほど高くても症状のない人もいます。

 もっとも多い症状は
後頭部痛(頭痛と言うよりも、頭が重い感じが多い)と言われています。他に肩こり、耳鳴り、めまい、どうき、息切れ等がありますが、特徴的な症状はありません。

血圧は高いが、まだ自覚症状がないと言う理由で放置しているあなた、手遅れになりますよ!

 

忍び寄る合併症

 高血圧というのは血管の内圧が常に高い状態で、その圧力に対し動脈の壁が厚く硬くなり、血液を送り出す心臓も負担がかかります。それが原因となりいろいろな合併症が起きるのです。

●『脳卒中』(脳出血、脳梗塞)

 脳の血管の壁が厚くなり、血の流れに変化が起きて、その結果血管が弱くなって破れてしまう脳出血や、血管の内腔がつまってしまう脳梗塞

●『心臓病』

 心臓の筋肉に血を送っている血管が狭くなって血流の不足で起きる狭心症。血流が途絶えて起きる心筋梗塞
 心臓の壁が厚くなる
心肥大、それが続くと心臓の収縮力が落ちる心不全

●『腎不全』

●『死の4重奏』ってなに?

 高血圧
の患者さんに肥満、糖尿病、高脂血症が合併する事が少なくなく、この4つの病気を合わせ持っている人は狭心症や心筋梗塞になる危険性が非常に高いので、この合併は『死の4重奏』とか『シンドローム・X』と呼ばれ、特に注意が必要です。

 例えば60歳代の男性で収縮期血圧が160mmHgでコレステロール値が300mg/dl以上であれば、10人中4人以上が10年以内に狭心症や心筋梗塞になると言う報告もあります。

 

 合併症の発生に対して、現在血圧がどの位高いかはもちろん重要ですが、
高血圧がどの位の期間続いているかも非常に重要です

軽い高血圧だから心配ないと思って5年も10年も放置しているあなた、合併症が忍び寄っていませんか?

 

薬を飲みはじめる前に

 血圧を下げる薬を飲みはじめる前に、ライフスタイルの改善『生活習慣』の改善、つまりリスクファクターを排除する事が大切です(非薬物療法)。そして高血圧は始まると一生つき合う事になる病気ですから、一時的かつ過激な『生活習慣』の改善では意味が無く、長続きできてあまり負担にならないように習慣を改善しましょう。

 

高血圧の人が食塩の制限を行うと、約3割の方の血圧が下がりますが(食塩依存型高血圧と呼びます)、約7割の方では制限しても下がらないと言われています。食塩制限による有効率は約3割です。しかし食塩は他の病気の原因におおいに関係があるので、制限する価値は大です。

 現在、日本人の食塩摂取量は1日平均12〜13gですが、
7〜8gが理想的です。普通の人ではしょうゆ、漬け物、みそ汁、梅干しなどを今までの半分にし、麺類などの汁は残すようにしましょう。外食やインスタント食品も控えめにしたいものです。過激な減塩(2〜3g)はむりで、あまり意味もありません。少しずつ着実に減らす事、家族全員で薄味にする事が成功の鍵です。

 

●アルコールは飲みだした直後に少し血圧が下がりますが、習慣的に飲んでいる人は、飲んでいない人に比べ血圧は高くなります。高血圧で飲酒習慣のある人が禁酒すると血圧が下がるというデータもあります。 

アルコールの安全量は
日本酒で一合半ビールで大瓶一本半というところです。

 

●肥満の人が必ず血圧が上がるわけではありませんが、標準体重以下の人に比べ肥満のある人に高血圧が多いのは事実です。また肥満は他の病気の原因にも成るので「高血圧」+「肥満」の人は体重を減らす必要があります。 

高血圧な方で標準体重を15%上回っていれば減量すべきです。

標準体重(Kg)=身長(メートル)×身長(メートル)×22

 

高血圧の人が自分でできる血圧を下げる方法の中で、一番効果が期待できるのは運動です。そして 運動は高血圧のみならず、肥満、糖尿病、高脂血症にも効果的です。

『高血圧の運動療法』については後で記載します。

 

●タバコはニコチンが血管を収縮させて、一時的に血圧を上昇させますし、動脈硬化を促進させますので高血圧の人はすぐに禁煙すべきです。

 

その他

 ストレス(不規則な生活、睡眠不足、イライラ、疲れ)は血圧を上げます。ストレスを減らす努力をしましょう。

 寒さは血管を収縮させ、血圧は高くなります。秋、冬の外出時や入浴時は注意しましょう。

 便秘になると力むため、血圧は上がります。便秘を改善しましょう。

 

薬を飲みはじめる基準は

 生活習慣の改善(非薬物療法)で高血圧の人の数割は下がると言われています。非薬物療法は高血圧治療の基本ですが、これで十分に下がらなければ薬物療法が必要です。

しかし、「どの時点で飲み始めれば良いか」と言う基準にまだ確固とした物はありません。

高血圧の期間はより短い方がもちろん安全ですから、なるべく早めに、軽症のうちに治療を始めるべきでしょう。

 

一つの目安として(日本医師会雑誌VOL,116 NO,10 P166より)

180/110mmHg以上の高度な高血圧は、速やかに降圧剤を飲みはじめる。

140〜179/90〜109mmHgの軽度・中等度の高血圧は、まず「生活習慣の改善」を行う。「生活習慣の改善」を数ヶ月おこなっても150〜160/95〜100mmHg以上 の場合は降圧剤を飲みはじめる。

合併症や糖尿病などのハイリスクファクターを持っている人、身内に心疾患・脳卒中のいる人140/90mmHg以上であれば降圧剤を飲みはじめる。

30〜40歳未満の若年者では、特に積極的に降圧剤を飲みはじめる必要がある。

80歳以上の高齢者に対する降圧剤の投与は慎重に行う。

 

一般的に、「生活習慣の改善」を行っても常に160/95mmHgを下回らない場合は、降圧剤の服用を始めるのが一般的な考え方です。          

 

目標血圧

●収縮期血圧を140〜150mmHg未満
に、拡張期血圧を90mmHg未満に維持することを目指します。

高齢者や虚血性心疾患、脳梗塞を合併している場合は、下げすぎに注意が必要です。

 

高血圧運動療法について

 近年、いろいろな『生活習慣病』に対する運動療法の有用性が注目されています。中でも高血圧に対する運動療法の有用性が立証され、我々の診療の中でも高血圧治療に『運動療法処方せん』を発行する事が多くなってきました。

●運動療法の効果

 習慣的に軽い運動を行うと、血圧を上げる物質が減少し、血圧を下げる物質は増加するためゆっくり血圧が下降します。また心臓の負担を減らす事も知られています。

 薬で下げた血圧は、薬を中断すると急激に上昇する事がありますが、運動療法では、運動をやめても、すぐに血圧が戻ることがありません。

また、運動は前出の
『死の4重奏』高脂血症、糖尿病、肥満と高血圧のすべてを改善させるので

 効率のよい、重要な治療法と考えます。

 運動療法によって
収縮期血圧で平均11mmHg、拡張期血圧で平均6mmHg程度降圧すると言われています。よって境界域高血圧の方は運動療法によって、ある程度下がることが期待できます。

●運動療法をして良い方

 収縮期血圧が160mmHg以下、拡張期血圧が105mmHg以下の軽度、境界域高血圧の方

 以前かなり高かったが、現在薬を飲んで上記の範囲に入っていれば適応です。

●運動療法をしてはいけない方

 上記血圧を上回る方や狭心症、心不全、腎臓病、重症な眼底変化のある方は危険です。

 どちらにしても事前に医師に重症度や合併症のチェックを受ける事をお勧めします。

●どのような運動を行えば良いのか  

早足のウォーキングやジョギング、水泳、水中ウォーキングなどの長い時間、酸素を大量に取り込みながら行う
『有酸素運動』が適当です。早足のウォーキングが手軽でやりやすいと思います。

筋力トレーニングなどの『無酸素運動』は血圧を下げる効果はなく、逆に上げてしまいます。

●どの程度行えばよいのか

 1回に200〜300Kcalの運動量を必要とされます。そのためには上記の様な『有酸素運動』では、約1時間続けないと消費できません。1回1時間以上で週に3〜4回(30分で毎日でも可)のペースで行いましょう。

 運動の強さの目安としては、
1分間の脈拍数が100〜120になる程度が良いでしょう。

 手軽なウォーキングなら1日に8、000歩から10、000歩が必要と言われています。

 

降圧剤を飲む場合の注意

 近年、安全で良く効く薬が多く開発され、重症の高血圧でもよく下がるようになりました。しかし、副作用の全くない薬はありません。投薬を受ける前にご自分の既往歴やアレルギー歴、現在服用している薬について主治医にお伝え下さい。薬を飲みはじめて何か身体にあわない感じがあったら主治医に連絡してください。

 定期的に診察を受ける事はもちろん大事ですが、副作用をチェックするために定期的に検査を受けることも大切です。

 自分の判断で薬を止めたり、減らしたり、増やしたりする事は非常に危険ですので、その様な必要があると感じたら遠慮なく主治医に相談して下さい。

 自己判断で薬を飲んだり飲まなかったりする人は、全く治療を行っていない人より脳卒中や心疾患で倒れる危険性が高いと言う報告もあります。

 

最後に

 高血圧の方は自己判断せず、信頼できる主治医を持ち管理を受けることが肝心です。

 

次ページJNC‐Y(アメリカの高血圧の最新情報です)

付記 1997年11月に発表されたアメリカにおける高血圧に関する報告(JNC‐Y)を参考として記載します。

T、高血圧の分類

  

分類 収縮期血圧(mmHg)   拡張期血圧(mmHg)
最適血圧

正常血圧

正常高値血圧
120未満

130未満

130〜139
かつ

かつ

または
80未満

85未満

85〜89
高血圧

ステージ1

ステージ2

ステージ3
 

140〜159

160〜179

180以上
 

または

または

または
 

90〜99

100〜109

110以上
 

 

正常血圧と高血圧は収縮期140、拡張期90を境に分けられていますが、正常血圧を3段階、高血圧を3段階に、より詳しく分類されています。

 

U、高血圧のそれぞれの分類ごとのフォローアップ基準

最適血圧と正常血圧 2年以内に再測定
正常高値血圧 1年以内に再測定(生活習慣の改善をアドバイスする)
高血圧ステージ1 2ヶ月以内に確認(生活習慣の改善をアドバイスする)
高血圧ステージ2 1ヶ月以内に診察し現治療を評価する、または専門医に紹介
高血圧ステージ3 即時または1週間以内に診察し現治療を評価する、または専門医に紹介
 

 

V、家庭血圧と携帯用血圧計による24時間血圧

 診察室で血圧を測定すると、それ以外で測定する場合より高くなる事が多い。そのため家庭用血圧計や携帯用24時間血圧計で測定する場合の正常値は以下のように低めに考える。

 

       測定法、測定場所による正常血圧

  収縮期/拡張期(mmHg)
医師による診察室内血圧  140/90
家庭用血圧計による家庭血圧  135/85
携帯用24時間血圧計による自由行動下血圧 昼間活動時 135/85
夜間就寝時 120/75
 

家庭用血圧計での正常血圧は135/85mmHg以下と推奨しています。

 

W、高血圧の治療方針

高血圧の治療をTの高血圧分類と3つのリスク分類(A、B、C)で分ける。

\       リスク分類
  \_______
             \
血圧分類         \
リスクグループA

臓器障害、危険因子
ともにない
リスクグループB

臓器障害はないが糖尿病
以外の危険因子ある
リスクグループC

臓器障害、または糖尿
病ある
正常高値
135‐139/85‐89
生活習慣を改善する 生活習慣を改善する 薬物治療を開始
ステージ1
140‐159/90‐99
生活習慣を改善する
最高12ヶ月まで
生活習慣を改善する
最高6ヶ月まで
薬物治療を開始
ステージ2と3
≧160/≧100
薬物治療を開始 薬物治療を開始 薬物治療を開始
 

 

#正常高値血圧であっても臓器障害や糖尿病があれば直ちに薬物療法を開始する。

#ステージ2と3(≧160/≧100)は直ちに薬物療法を開始する。

#例えば、血圧が142/94mmHgで糖尿病と左心肥大がある場合、血圧分類はステージ1でリス ク分類はグループCとなり、直ちに薬物療法の開始が奨められる。

 

X、Wの臓器障害にはどのような物があるか。

     心疾患(左心肥大 狭心症 心筋梗塞の既往 心臓血管再建術の経験 心不全)

     脳卒中または一過性脳虚血発作

     腎臓病

     末梢血管疾患

     網膜症

 

Y、Wの危険因子(リスクファクター)にはどのような物があるか。

     喫煙

     脂質代謝異常(高脂血症等)

     糖尿病

     60歳以上

     男性、閉経後の女性

     血縁(65歳未満の女性または55歳未満の男性)に心血管系の疾患のある方

 

Z、生活習慣の改善の目標

     肥満の改善

     1日アルコール摂取量30ml以下(例えばビール1本)

     ほぼ毎日30〜45分の有酸素量運動(例えば早足散歩、ジョギング、水泳)

     食塩1日6g以下

     十分なカルシュウム、カリウム、マグネシュウムの摂取

     禁煙

     飽和脂肪、コレステロール摂取制限

(秋山 幸久)