美術館探索日記。

5月9日(日)
「鏑木清方展」を見に行く。見に行ったのが最終日で美術館に着いたのが閉館まであと1時間という時刻だったので、あまりじっくり見ることができなかったが、来て良かったと思った。清方の作品を実際に見るのはこれが初めてである。

浮世絵の後世に残した影響について語られるときに清方は必ず引き合いに出される画家である。確かに清方の師水野年方は日本画家であると同時に浮世絵師であるし、その師の月岡芳年は最後の浮世絵師の世代の人間とも言える。しかし清方自身が浮世絵師扱いされるのを嫌ったように、彼の画風は俗臭漂う浮世絵の画風とはもう違う。新しい時代の人間である。私は浮世絵師の末流としてではなく、新しい日本画家としての彼の画風が好きだ。

この人の美人画は理想化されており、体重がなく、髪がうすい感じがして、あまり好きではないのだが、「妖魚」という作品に描かれた人魚は肉のついた生身の生き物らしく、日本画のタッチと西洋画のリアリティが両立していて好きな作品のひとつである。

他には滝沢馬琴を描いたものが気に入った。普通の絵描きなら「八犬伝」を描くことはあっても、その作者である馬琴を画題に選ぶことはない。それも晩年の、盲目で息子の嫁に代筆をさせる花のない時代の馬琴を描くあたりの着眼点が渋い。

風俗画には変わった構図の物が多かった。多数の人間が描かれるときに、端にいる人間は簡単に構図から切り取られてしまう。理想化され、人物をバランス良く意図的に配置した従来の日本画とは違う、写真のように大胆な構図。あたかもその時代を切り取ったかのようでもある。

私がこの人の絵で一番好きなのは美人画でも風俗画でもなく、肖像画だ。その人の人格をも表しているような清方の肖像画には近代的な写実の「目」を感じる。肖像画の中には月岡(大蘇)芳年を描いたものもあって、浮世絵師としての芳年しかしらない私には何だか不思議な感じがした。

5月2日(日)
原宿に行ったついでに久々に太田記念美術館に行く。タイトルは忘れたが美人画展をやっていた。作品は皆、実在する遊女や茶屋娘を描いたものである。時代別か作者別に配置してくれればいいものの、描かれている人物(の職種)別に配置されていたので、なんだか分かりにくかった。とはいえ、見たことのない肉筆画が何点か展示されていたので見ることができて嬉しい。
3月31日(水)
伊東の温泉旅館に泊まり、後は帰るだけだったが、折角こちらの方に来たことだし、ということで伊東から熱海へ行って、MOA美術館に行くことになった。ずっと「MOA」はモア」と読むのだと思っていたが、途中で利用したバスのアナウンスで「エムオーエー」と読むことを知った。美術館の設立者、岡田茂吉のイニシャルにちなんでいるらしい。(Aは何だろう…?)

やたらと長いエスカレーターを抜けるとやっと展示室にたどり着く。都心では考えられない広さの美術館だ。展示品も余裕を持って展示されている。2階が企画展示で1階が常設展示となっているようだ。

期待していた尾形光琳の「紅白梅図屏風」は残念ながら2月だけの公開で、現在は見られなかった。浮世絵の公開は5月、肉筆浮世絵の公開も予定では6月となっていた。ちぇ。画集で見た勝川春章の肉筆美人画もここの美術館の所蔵作品と後で知ったので悔しい限りである。

今月の企画展は「茶の湯の道具展」だった。私はこの茶器というのがあまり好きではない。形が不揃いで歪なものは特に嫌いだ。年をとれば分かるもんなのかも知れんが、今の私には全く魅力が感じられない。そんな訳で不揃いな日本の織部焼なんかよりは、シンメトリーな中国の陶器の方が見ていて惹かれるものがあった。ただ、野々村仁清の茶器に少し惹かれる意匠のものがいくつかあった。モダンな感じのする器もあった。色使いなどは今後のデザインの参考にしたいところ。

ミュージアムショップでは所蔵作品をパッケージに使ったデザインの商品があってなかなかセンスが良い。今回展示されていた茶器のレプリカなお土産品なんかがあって、ちょっと笑えた。

2月14日(日)
友人から誘いを断ったにも関わらず、一人でBunkamuraまで「オランジェリー展」を見に行く。最終日なだけあって、混んでいて、会場に入るまでに70分待ちの列ができていた。(意外と早く列が流れたので、実際は30分くらいで入れた感じがした。)1枚だけかと思ったルノアールの絵がいくつも見れて嬉しかった。やっぱりこの人の絵は人物画(というか美人画)が一番好きだ。セザンヌは基本的に筆のタッチがあまり好きではなくて、強いて言えば、人物画や風景画よりオレンジを描いた静物画が味があって好き。人があまりに多かったので、絵ハガキを買うのはあきらめた。
10月18日(日)
友人と一緒に江戸東京博物館へ。ここの7階には「八百膳」という和風レストランがあって、「写楽」「広重」といった絵師の名前の定食がある。以前から食べてみたいと思っていたので、今日は店に入って「広重」を注文した。野望達成という感じ(笑)。値段はちょい高めなので、お金があるときにでもどうぞ。(しかし何で「北斎」とか「歌麿」というメニューはないんだろう…。ちぇ。)

時間がなかったので、常設展示しか見なかったが、企画展示では中国の古代文明展をやっていたので、見てみたかった気もする。常設展示の内容が少し変わっていた。新しく、徳川家の鎧が展示されていた。細工がすごく密。江戸時代に作られた鎧なので、実用というよりは装飾用で、派手な感じがした。

他は東京ゾーンにあった車が気になるな。名前は忘れちゃったけど、すごくモダンなデザインの車がありました。

10月7日(水)
「天野義孝展」を見に、上野の森美術館へ。友人達が学校帰り行くというので、後をついて行った。そういえば、5月に有明国際展示場の展示ホールで天野氏の美術展を見た記憶がある。今回見た展示の中で、以前の展示会で見たことがある作品がわずかにあった。

目をひく、を通り越して、避けて通れないと感じた作品は、美術館の壁一面丸々使ったような大きな絵。幅16メートルと書いてあったが、高さはわからない。巨大な布や絡み合う人体が渾然と描かれているが、不思議と気味の悪い感じがしないのは、布や人や果物たちが明るい色彩で描かれているのに対して、背景が黒く塗られているからであろうか。あれだけ大きい作品なのにまとまった感じがするのである。

絵以外にも天野氏がキャラクターデザインを手がけたアニメーションやら(タイムボカンとかヤッターマンとか、今の若いもんは知らねえんだろうなあ)、紙袋に描かれた絵やら、事細かに細工された貴金属やらが展示されていた。個人的には展示会場を生かした大きな展示物が色のキレイさが感じられて見ていてとても気持ち良かった。(FF[のイメージイラストが他の作品と比べてあんまり気合がはいっていないように感じるのは気のせいだろうか。)

8月8日(土)
久々に太田記念美術館へ。ラフォーレ原宿の裏にある、都内で唯一の浮世絵専門の美術館だ。浮世絵にはまった直後は毎月のようにこの美術館へ通っていた時期もあった。考えてみれば、いつも1人で来ていたので、友人と一緒にここへ来たのは初めてのような気がする。

この美術館では毎月、企画展をやっている。今月の展示は浮世絵の描かれた実用品だ。例えば、扇、団扇、封筒、絵半切など。絵半切とは今で言う便箋のことである。浮世絵というのは当時の風俗画全般を指す言葉だから、こんなものまで浮世絵になってしまうのだ。

面白いと思ったのが、北斎が描いた立版古。立版古とは糊付けして家の形などを組み立てる、模型のようなもので、一昔前の雑誌の付録に似ている。これ自体、私は初めて見た。他にもメンコに貼り付ける用の絵や、双六なども展示されていた。こういった浮世絵を総称して「おもちゃ絵」と呼んだりもする。これはもちろん子供の遊ぶものだから、現存しているものが少ない。浮世絵の違った側面を映す、貴重な資料と言えよう。

7月20日(月・祝)
友人と一緒に「竹内碧外展」を見に国立近代美術館の工芸館へ。お腹が空いていたので、美術館に入る前に何か食べるか、と思って探してみても、辺境の地にあるこの美術館の周辺にはレストランがない。適当に歩いていたら神保町の方まで出てしまった。今度からここに来る前には飯を食ってからにしようと決心。

今日が最終日にも関わらず、客の入りは少な目だった。竹内碧外という一般には聞いたことのない職人の名前だが、私も聞いたことがない。単に学校でタダ券がもらえたので、来てみただけであった。美術館では碧外の作品である木工芸品が展示されていた(当たり前か)。

展示されている作品のほとんどは芸術作品というよりは使ってみたい作品であった。変に装飾を施したりせず、木と木を組んでできた硯箱や飾り棚。特に気に入ったのは花の形をした小さな杯。本物の花びらの様に木を薄く削って加工する技術もさることながら、そのデザイン(意匠)にも惹かれるものがあった。

碧外制作の木の組み方の見本や、碧外の仕事道具などが展示されており、どうやって作ったんだろうと思いながら見ていたので、興味深いものがあった。

7月12日(日)
友人と一緒に渋谷のBunkamuraまでピカソ展を見に行く。「ピカソと写真展」のハズじゃなかったのか?どーしたんだBunkamura。と思たら「ピカソと写真展」はもう終わっていたのであった。という訳で「ピカソ展」。

ピカソを見るのは確か2度目。最初は何年か前に新宿の伊勢丹でやっていたピカソ展。そのときは晩年の作品がメインになっていて、どの作品も似たような印象があった。今回は比較的初期の作品から晩年の作品まで幅広く見ることができた。ピカソは1度は見ておいて悪くない画家であると思う。(別に良くもないが。)

ピカソというとキュビズムが有名になりすぎて、変な絵を描く画家という印象が強いが、青の時代や新古典主義やの作品を見ると普通の絵もかけたんだなあ、という感じがする。一人で美術史の時代をたどっているようだ。個人的にはバラ色の時代の豊満(要するにデブ)な女性像が好き。こういうのを見ると、色使いといい、体格といい、スペインよのう、と思う。

7月5日(日)
友人と一緒に江戸東京博物館に久々に行く。企画展示は予告のみで現在はやっていなかった。残念。ここの常設展示はとにかく広い。江戸ゾーンと東京ゾーンが続いていて、江戸ゾーンを念入りに見ていると東京ゾーンを見るヒマがなくなるので、どっちかに的を絞るか、どっちもテキトーに見るか、決めとかないと無意味に疲れることとなる。

ここの博物館にあるミニチュア模型は電動になっていて、建物の中が見えるようになっていたりするものがいくつかあるが、いつも「故障中」で動いてるところを見たことがなかった。今日は運良く、東京ゾーンの明治時代のコーナーで、模型が動くのを見ることができた。嬉しい。

7月4日(土)
友人と一緒にまたまたまたたばこと塩の博物館に行く。我ながらよく来るなあ。しかも毎回一緒に行く友人が違うし。広めたいんか、俺。(単に安いからっつー理由もあるが。)

今回一緒に行った友人は煙草を吸う人だったので、煙草の製造過程のコーナーを見て、こんな感想を言ってくれた。「煙草の箱から取り出した煙草を、もう一度入れると入りにくい。一体どうやって、きっちり入れているのかと思ってた。友達と一緒に『きっと専門の人が手作業でやってんだよ。』とか話してたけど、実際は煙草をそろえてからパッケージで包んでたんだ。」とのこと。私もこんなフニャフニャしたパッケージにどうやって煙草を入れてんだろ、と少なからず思っていたので、目からウロコ。

6月28日(日)
友人と一緒にまたまたたばこと塩の博物館に行く。3階の塩のコーナーで、「これが岩塩だよ。」と私が言った瞬間、その友人はぺろっとなめて「しょっぺぇー。」と駆けずりまわった。恥ずかしいヤツ…。ちなみにガラスケースにはいっている岩塩を見て「あれもこれもなめるとしょっぱいんだね。」とも言っていた。そんなになめたいんか、お前。

前回はまだ見れなかった「インドの伝統芸術展」を見ることができた。主に壁画で、土色の壁に白い絵の具で描かれている。ヒンズー教の神様って、なんかいかしてるねえ。個人的にガネーシャが好き。夢枕獏さんの小説の元となっている絵(と同じ)絵が展示されていた。でもこの人の小説読んだことないです。美術系の学校の生徒さんが集団で来ていたらしく、その場で作品を見て、スケッチしてらした。それを見て私も絵を描きたくなったけど、筆記用具をもっていなかったので断念。うずうず。

5月30日(土)
友人と一緒に北斎〜東西の架け橋〜展を見に日本橋の高島屋まで行く。

北斎の風景画をメインにした展示内容だが、北斎の作だとされる油彩画や、北斎工房作とされる肉筆画、長野県の小布施にある屋台の天井画など、興味深い展示内容だった。

不満としては展示物の順番がバラバラだということ。制作年代順に並んでないので、見ていて混乱しがちである。絵の種類によって分類しているのは分かるが、作画時期によって画風が著しく変わる北斎の絵に、この展示の仕方は向いていないように思えた。

また、展示に用いられているガラスケースは立体物用らしく、絵からかなり離れて見なければならないので、線が細い浮世絵はイマイチ物足りなかった。

とはいえ普通は見れないような肉筆画や屋台の天井画が間近で見れる貴重な機会だと思った。特に、北斎の作だとされる油彩画や、北斎工房作とされるに肉筆画は、浮世絵らしくない画風に仕上がっていて、かなり興味深かった。

5月24日(日)
「浮世絵が好きだ。」というとかなり多くの人に「印象派とかも好き?」と言われた。日本人はとりわけ印象派が好きだ。芸術というと印象派しかないような言い方をする。私はこれがかなり不満だった。

最近になって少しは興味が湧いてきたものの、以前はこんなぼやけた絵のどこがいいんだ、と思っていた。とはいえ、実物の印象派の作品を見たことがほとんどないので、少しは勉強しようと思うのだが、「コートルドコレクション」といい、印象派をメインにした展覧会はことごとく見逃している。

ということでオルブライト=ノックス美術館展を見に行くことにした。土日を待っているとまた見逃しそうなので、学校帰りに見に行った。「巨匠たちの祭典」というキャッチコピーにふさわしく、誰でも名前くらいは聞いたことのあるような有名な画家の作品ばかりである。

作品は時代順に展示されていた。写実主義、印象派、後期印象派、までは良かったが、キュビズムあたりから眠くなり、会場内のベンチに座り、警備員の見てないところで菓子を食う。どーもピカソとかブラックとかキュビズムって苦手だ。わからん。さらに謎なのがカンディンスキー。どー見ても、いー加減に書き殴ったとしか思えん絵を何度も同じ構図で描き直したりしている。画集を見てわからんと思ったが、実物を見てもわからん。

一通り見た後で、最初に戻り、絵を囲む額に注目してみる。詳しいことはわからないが、作品に合わせて作ってあるのだろう。写実主義や印象派なんかは豪華な感じの額だったが、キュビズムやシュールレアリズムなんかの額はシンプルな感じの物が多かった。スーラの点描画は額の内側にもうひとつ額があった。その内側の額も作品のひとつであるらしく、額には作品と同じような点描が描かれていた。

最後にダリの絵を見て感動した。ユーモアがあってキレイ。

5月24日(日)
友人と一緒に渋谷のBunkamuraまでモンドリアン展を見に行く。私には聞いたことのない画家だったが、その友人が見てみたいと言うので、いい機会だから一緒に見てみることにした。モンドリアンはオランダの画家で、始めは普通の風景画を描いていたが、そのうち極端な抽象画を描くようになる。今回の展覧会では、初期の風景画から、後期の抽象画まで展示されていたので、その過程を見ることができた。

と、簡単に解説しているが、実際に見てみるとモンドリアンの絵は難解だ。初期の風景画も部屋に飾るような緻密なものではなく、近くで見るとかなり汚ねえ。色彩感覚には優れたものがあることや、テキトーに描いてるように見えてデッサンはしっかりしている、というのは確かにわからないでもないが、「モンドリアンという有名な画家の作品」だという予備知識なしにこの絵を見たら、とても賞賛できる作品とは思えない。

しかし、疲れたので、友達とと展示会場内にあるベンチに腰掛けた時、何となく、モンドリアンの絵がわかるような気がした。離れてみるとちゃんと風景に見えるのである。近くで見た時は、描き殴った絵の具の固まりにしか見えなかった風景画が、離れてみると、ちゃんと風景に見えたのだ。近くで見た時は、風車小屋の背景がまだら模様になっているように見えたが、離れてみると、そのまだら模様が雲とその隙間から漏れる日の光に見えるのである。くそー、だまされた、という気分になった。

気を取りなおして、同じく渋谷にある「たばこと塩の博物館」へ。渋谷という場所にありながら、100円というリーズナブル(すぎる)入館料の博物館である。残念ながら、企画展示は準備中。常設展示を見る。個人的に2階の江戸の喫煙についてのコーナーが好き。ここの博物館に煙管より浮世絵の所蔵作品が多いのは関係者に浮世絵コレクターがいるからではないかと邪推する。

5月20日(水)
本当はご推測の通り「浮世絵鑑賞日記」にするつもりでしたが、ネタが続きそうにないので「美術館探索日記」にしてみました。開催されている美術館や(わかる範囲で)開催期間なんかも紹介する予定ですので、都心やその周辺にお住まいの方の美術館ガイドになったら嬉しいです。(ならねえよ。)