浮世絵技法用語説明
当てなしぼかし(あてなしぼかし)
版木を濡らして、その上から絵の具をのせてぼかす技法。印をつけず、見当のみでぼかしを作ることからこう呼ばれる。摺師の技量が問われる技術のひとつ。広重の風景画によく用いられている。

浮絵(うきえ)
西洋の遠近法を使って描かれた浮世絵のこと。手前が浮き出して見えるという意味で浮絵と呼ばれる。奥村政信の創始とされ、のちに歌川豊春、葛飾北斎などが研究し、浮絵を多く手がける。時代が下るほど、パース(遠近法の手法)が正確になる。

漆絵(うるしえ)
墨に膠(にかわ)を混ぜて漆のような光沢を出したもの。墨の部分がいくらか強調されるため、朱の部分を濃く摺ることにより、鮮やかな色調になるものが多かった。部分的に黄銅粉(真鍮粉)をまいて、金色の光沢をつけ、豪華な感じにしたものもあった。

かっぱ摺り(かっぱずり)
江戸の浮世絵ではなく、上方で多く用いられた技法。彩色する部分だけ、渋をひいた紙を切り抜き、その上から刷毛で絵の具を塗りつける技法。(今でいうところの「ステンシル」のやり方と同じ。)彩色の際に使われる渋紙が、雨合羽に使われる油紙に似ていることからこの名がつけられた。

から摺り(からずり)
絵の具を用いずに、版木を強く押し当てて摺ることによって、紙に凹凸をつける技法。それによって、紙に無色の線が表現される。白い着物や白鷺の羽毛など繊細な表現によく用いられた。(現代の印刷でいうと、辞書のタイトルなどに使われる「箔押し」に似ている。)

きめ出し(きめだし)
「から摺り」と良く似ていて、凹面の版木を作り、紙を当てて裏からたたき出して紙にゆるやかな凸面を作る技法。凹面を作る手間がかかるためか、春信の錦絵以後、あまり使われなくなる。

雲母摺り(きらずり)
地潰しの一種で、背景に雲母の粉を摺りつける技法。雲母摺りには2種類の塗り方があり、ひとつは下地に色を摺って、その上に糊を摺り、雲母を振り掛ける方法。雲母粉に膠か糊を混ぜて刷毛で直接摺り付ける方法。前者の方が金がかかる摺り方。

地潰し(じつぶし)
役者絵や美人画など、背景の部分を1色で塗りつぶすように摺る技法のことを言う。背景に摺る色によって「黄潰し」「藍潰し」「墨潰し」などと呼び分けた。

丹絵(たんえ)
墨摺り版画に鉛に硫黄と硝石を加えて焼いた「丹」と呼ばれる朱色を手彩色で加えたもの。彩色は絵師ではなく職人の手によるものであったと考えられる。錦絵以前の初期の浮世絵版画に多くみられた。「丹」以外の色を載せたものも、総称してこう呼ばれた。酸化して「丹」が黒ずんだものを「丹焼け」と言った。

紅嫌い(べにぎらい)
錦絵の一種で、紅や朱などの派手な色を使わず、墨や鼠色を中心に、紫や緑を用いて配色したもの。紫の多い絵を「紫絵」と呼ぶこともある。

紅擦絵(べにずりえ)
版木に見当をつけることによって生まれた錦絵以前の初歩的な多色摺り版画。墨、赤、緑、の3色摺りが多い。錦絵創出以後にも何年か発行されてた。