わたしの後傾日記


「わたしの後傾日記」と題して、わたしの後傾の歴史を綴ってみました。 歴史といっても、それほどたいそうな事が書いてあるわけではありません。 特に技術的なことに触れているわけでもありませんが、後傾に悩んでいる人には 「もしかしたら」ためになるかもしれません。 一応、「日記」という形式を取っていますが、全く現実どおりではありません。 多少の脚色も入っていますので、あしからず。 なお、このページは他のページに比べて、あまり気合いの入っていないページで、 気が向いたときに書こうと思っているので更新も遅れがちになると思いますが、 もし良かったら読んでみてくださいな。
もくじ
第一話 え、そんなに前?
第二話 怪我の功名
第三話 足首って曲がるんだ
第四話 コブ斜面らくらくテクニック
以下、今後の掲載予定ですが、予定は未定です。

第五話 なんてったってアウトエッジ
第六話 遠くで突き出る怪しいおケツ
第七話 ゴルフのスタンス
第八話 ブーツのせい?
第九話 弧を描け
第十話 プルークスタンスからすべてが始まる

第一話 え、そんなに前?

それまでわたしは普通のゲレンデスキーヤーだった。 週末、会社の同僚となんとなくスキーに行き、 なんとなく全コースを回ったりして、 それはそれで楽しかった。 上手くなりたい、という漠然とした希望はあったが、 これといって上手くなるための努力をしているわけでもなく、 ただ、メールで友人から「今週スキー行かない?」と誘われ、 時にはこちらからも誘ったりして、 流されるように毎週雪山に行っていた。

そんなある日、わたしの高校時代の友人が仙台から戻ってきた。 彼は高校を卒業してから東北大学に行っていたため、院まで含めて 6年間、仙台にすんでいた。なお、ここではこの彼のことを T氏と呼ぶことにする。 仙台といえば東北、東北といえばナマハゲ、ナマハゲといえばスキー。 ん、何か無理があるかな。まあ、いいか。T氏は その仙台にいる6年間、 ひたすらナマハゲ、いや間違えた、ひたすらスキーをやっていたそうだ。当然、わたしより はるかに上手い。SAJの会員でもある。そんな彼と初めて一緒にスキーに行く事になった。

ここでT氏について触れておこう。わたしとT氏は高校1年で同じクラスになった友人。 そんなT氏の特技はなんと「手品」。昔から彼は手品が好きで、 新しいクラスに入ったときの自己紹介のとき、いきなりハンカチを消してみせられたときには、 わたしの中には驚きというより不安のほうが強かった。 世の中にはいろいろな人がいる。そういう人たちともうまくやっていくのが 高校生としての自分に新たに課せられた課題なのか、とも考えた。 しかし、意外に彼は普通の人間だった。その後、彼とは部活も同じになり、 高校時代を通じて最も親しい親友の一人となっていくのである。

話を元に戻そう。T氏とはじめて一緒に行ったスキー場は、ブランシュたかやま。うちは東京の 西のほうにあるので、うちからは約3時間で到着する。以前、SKINOW で上原由 (うえはらゆかり) が滑っていたのを見て 一度行ってみたいなと思っていたスキー場だ。ん、動機が不純ではないか?まあ、そんなもんだろう。 行くスキー場を選ぶ基準とは、大抵そんなものではないかと思う。ただ一つだけ言っておくと、 わたしはユカリストではない。

その日はブランシュたかやまのオープン日で、かろうじて降雪機で雪を敷き詰めた 1本のコースだけで営業をしていた。前日にブランシュたかやまの ホームページを見て、営業するリフトとコースをチェックしていったので、まあこんなもんかな という具合であった。

前日、T氏とわたしは一つの約束をしていた。漠然と上手くなりたいと思っていたわたしは、 T氏に「明日教えてね。」とお願いをしていたのである。上手い人とそうでもない人が一緒に スキーに行けば、よくあることである。そうして、何本か滑った後に T氏のレッスンが始まった。

「じゃ、まずはポジションからだね。普通に立ってみて。」
わたしはいつもどおりに立ってみた。もちろん、自分が真ん中だと思う場所に立った。
「うーん、それじゃ全然後ろだね。もっと前。もっと。もっと。」
ん、そんなに前?そんなに前じゃ、全然真ん中じゃないじゃないか。それでも T氏は「もっと前」と言う。 彼が執拗に前だというので、わたしは半分意地になって全身の体重をすべて脛とブーツが当たる場所、 つまりブーツのタンの部分に掛けてみた。なお、当時のわたしには足首を曲げるという概念はない。 脛に全体重を掛けているので、脛が痛い。これほど脛に圧を感じるのは初めてだ。いくらなんでも こんな格好じゃ滑れるわけがない。きっとT氏もこれを見て「それはやりすぎだ」と言うに決まってる。しかし、一応 教えてもらっている手前、こっちが意地になって体重を前に掛けているのを表に出したくはない。親しき中にも 礼儀あり、である。そこでわたしは、「これじゃいくらなんでも前すぎでしょ」と喉まで出かかった言葉を一旦戻して、 「どう?」と丁寧に言ってみた。

「そんなもんじゃない。」

わたしは、自分の耳を疑った。と同時に、自分の体の神経の伝わり方も疑ってみた。わたしの体の感覚では とても滑れる状況ではないほど前傾している。ブーツのタンにこれほど圧を掛けたら、ニュートラルポジションなんて あったものじゃない。いままで自分の頭はブーツの真上にあるという感覚だったが、いまではブーツとスキーの トップの中間くらいにある。いまにもスキーのテールが浮いてきそうだ。

しかも、つらい。脛が痛いこともあって、このポジションをキープするのは自分にとって非常に不快だ。 これほどつらい思いをしてまで、彼の言うことを聞くべきか、わたしはその岐路に立たされた。 上手くなりたい、という気持ちは変わらないが、彼の言っているこのポジションがどうしても 自分にとって納得のいくものではなかったのである。このまま彼の言うことを聞いてこの辛いポジションを 続けるか、自分の体が教えてくれる真ん中のポジションにするか、わたしはほんの数秒悩んだ末に、 自分を信じることにした。自分の体が教えてくれる真ん中のポジションが真ん中だと信じようと思った。 そして、その胸のうちを正直に彼に伝えた。すると彼はこう言った。

「じゃ、ま、ビデオ見てから。」

そう、彼は家庭用のビデオカメラを持ってきていたのである。そうして言われるままにわたしは 自分の滑りをビデオに撮ってもらった。実際に滑り始めると、さっき悩んだことは全く無意味となっていた。 気を付けるも何も、滑り始めるとそれまでの事はすっかり忘れてきれいにもとのポジションに戻っていた。

今でも、あの感触の違いははっきりと覚えている。今までのポジションとはあまりにもかけ離れていた。 実際、体重をブーツのタンに掛けすぎるのは良くないことだが、後傾の人にはそうでもしないと 正しいポジションを教えることはできないだろう。

わたしの後傾には、ブーツが原因だった面もあるが、それはゆくゆく分かっていく。


第二話 怪我の功名

12月の下旬に、岩鞍に行った。全国的に12月としては雪が少なく、ここ岩鞍でもそれは例外ではなかった。 わたしは、混んでいるスキー場は嫌いなので、岩鞍のように人気があって混むスキー場は普段なら なるべく敬遠するのだが、その日はあまりにも他のスキー場の滑走可能コースが少なかったため、 T氏と相談の結果岩鞍に行くことに決定した。

岩鞍に着いたら意外にもスキー場は空いていて、車はすんなりと第一駐車場に誘導された。岩鞍に来て 第一駐車場に車を停めたのは初めてである。岩鞍の駐車場は確か第四か第五駐車場まであるが、 第一駐車場以外は下が土なので、雪が解けるとブーツが泥だらけになる。その点、第一駐車場は ちゃんとアスファルトで舗装されているので、その心配がない。天気もいいし、ゲレンデも近いし、 これは幸先が良いぞ。

リフト券を買ってリフトに乗り、上へと上がった。このリフトも普段の休日なら20分待ち程度なのだが、 今日は全く誰も並んでいない。雪質も降雪機で降らせたにしては、なかなか上々。 今日はなんだか上手くなりそうな予感。

しかし、3本ばかり滑った後に突然その事件は起きた。いつもどおりリフトから降りて、5m くらい進んだときに わたしは突然転んだ。はじめは何が起きたのか分からなかったのだが、転んだわたしの前をわたしの左の スキー板が外れてツーっと滑っていったのである。なんだ、こんなところで板が外れるなんてめずらしいなと 思いつつ、また「こんな平らなところで板が外れている人がいるよ」といった感じの他人の冷たい目線にさいなまれながら わたしは外れた左の板のところまで近寄った。そして、左足をビンディングに掛けようとしたときに、 ようやく事態を把握した。

なんと、ビンディングがなくなっているではないか。トウピースは今までどおり付いているが、 ヒールピースが見当たらない。おそらくヒールピースが付いていたと思われる場所に 虚しく4本のボルトの穴だけがあいている。

わたしの当時の板は、FCO というブランドの板に、チロリアのビンディングを付けていた。 スキーを始めようと思った当時近くのビクトリアに行き、店員にいわれるがままに なんとなく買った板である。それなりに自分で気に入っていた板だが、その板がこんな事になるなんて。 その時、T氏も一緒にリフトに乗っていた。そして、これまでの一部始終を見ていた彼はこう言った。

「なに、ビンディング外れちゃった? まあ、たまにあるよ。」

意外と冷静である。T氏によると、心材まで見えるような大きな傷が出来た板は そのままにしておくとその傷から水分が心材に染み込み、心材が腐ってきて ビンディングが外れることが結構あるということだ。心材まで見えた大きな傷が出来た板をお持ちの方は、 早めのリペアをお勧めする。

話を元に戻すが、そのとき貧乏なわたしは来週からどうやってスキーに行こうかなどということを考えていたが、 その前に一つやることがあった。この斜面を片足で降りなければならない。 岩鞍に行ったことのある人なら分かると思うが、その現場は丁度ゴンドラの終着地点、つまり岩鞍の中で 一番高いところである。そして、その時営業していたのが女子国体コースのみであった。緩斜面ではない。 いつまでもイジイジしてはいられないので、わたしは片足だけスキーを履いて、もう片方のビンディングが 外れた板を肩に担いで、外れたヒールピースを見つけ、ポケットにしまい込んで徐々にその斜面を降り始めた。

片足で立つと、今までのポジションでは立っていられない。バランスが悪すぎる。 なぜバランスが悪いのかは分からないが、今までよりずっと前に立たないと転んでしまう。 丁度、普通にスポーツをするときに片足でジャンプしてみて着地したときのポーズを 想像していただけると分かると思うが、まさにそのようなポーズでしか立つことが出来なかった。 いわゆる「おっとっと」、または「はっ」のポーズである。

ん、このポジションは......悪い予感というか、良い予感というか、不思議な予感と共に ある感覚がわたしの中で再現された。自分の頭がスキーのトップとブーツの中間くらいにある。 ブーツのタンにもかなりの圧が加わっている。そう、前回 T氏に教えてもらったポジションと 全く同じだったのだ。そうか、前回にT氏が言っていたポジションとはこういうことだったのか。

T氏の言っていたポジションが徐々に分かり始めていたわたしは、片足で横滑りをしながら 斜面を降り始めた。最初のうちはバランスを崩してしまうこともあったが、徐々にポジションが 分かりはじめ、そのポジションに乗っていればスムーズに横滑りが出来るということが分かってきた。

初めのうちは右足のインエッジの横滑りしか出来なかったのだが、そんなわたしを見てT氏が 「アウトエッジも使ってみれば」との助言をくれた。試しにわたしは キックターンをしてアウトエッジに乗ってみた。いままでにない感触だ。板がぶれて、すぐに転んでしまう。 言われてみれば、こちらのエッジはほとんど使ったことが無い。アウトエッジを使うという感覚も 今までになかったものだ。あまりにもすぐに転んでしまうので、 アウトエッジで横滑りなんて、絶対出来るはずがないと思った。そうして二、三回転ぶうちに、徐々に 横滑りが出来るようになってきた。ほんの三分前までは「絶対に出来るはずがない」と思っていたことが 徐々に出来るようになっていた。そうして、さらに三分後にはアウトエッジで横滑りをほぼ完璧に 出来るようになっていた。

これはわたしにとって驚きだった。本当に、心の底から「できない」と思っていたことが、すぐに 出来るようになっていくのである。スキーとはこういうスポーツなのか、不思議だなぁと思っていた。 さらにわたしは色気を出して、左足のインエッジ、アウトエッジの横滑りもチャレンジしてみた。 またこれが、最初はとても出来そうにない感覚だったのだが、六分後には出来るようになっていた。 ちなみに、あえて書く程ではないと思うが、六分というのは正確に計った値ではない。 あくまで「感覚量」でね。

スキー番組やビデオなどで、よく片足で滑るトレーニングをやっているが、多分それを真似しようとして ちょっとやってみて、「これは自分にはとても出来そうにない」と思ってすぐにあきらめて反対の足を ついてしまう人が多いと思う。わたしも両足のスキーがまだ元気な頃はそういうこともあった。 しかし、こういう「絶対に片足で滑らなくてはならない状況」に立たされて、転びながらもそれを実践したら、 以外にあっさり出来てしまったのである。多分これはわたしに限らず、世の中のある程度運動神経のある人なら 誰しもに言えることだろう。

わたしが思うに、「片足で滑る」という頭の中の回路が今まで無いだけで、それをほんの数分間でも 繰り返すことによって頭の中の回路が整理され、「片足で滑る」という回路が出来あがるのではないか。 そうして、次回から片足で滑るときにはその回路が呼び出されるだけなのだ。ぜひとも、その回路が 作られるように意識しながら、反復練習をやって欲しい。

結局その日は、わたしは片足ターンにまで挑戦したが、こちらはその日には出来るようにはならなかった。 しかし、その日の横滑りの回路を頭に作り込んだおかげで、次回スキーに行ったときには 片足ターンまで出来るようになった。片足ターンを練習した後には、小回りの両足がビターっと揃ったのには 自分でも驚いた。 初中級者にとって、なかなかアウトエッジを使う場面というのは少ないわけであるが、ぜひとも アウトエッジに乗る感覚を掴んで欲しい。リカバリー能力も上がって、滑りの幅がグンと広がるはずだ。 たった12分で今までの滑りがガラっと変わるのであれば、ぜひとも挑戦しない手は無いぞ。

そんなこんなで大変タメになった岩鞍スキーであった。午前券を買っていたが、10:30に上がった自分に 何だか満足していた。出来ないことが出来るようになった喜びの余韻を体中で味わっていた。

ちなみに、帰りがけにブーツが真っ二つに割れた人を見掛けた。岩鞍は何かと壊れやすいらしい。


第三話 足首って曲がるんだ

T氏と何回かスキーに行くうちに、すっかりスキーにはまりつつあった私は もっといろいろなことを知りたくて、それまで買ったことのなかったスキー雑誌や ビデオなどを買うようになった。

雑誌は主にグラフィックとジャーナルの2大メジャー雑誌。今ではそれで T氏と デモ談義になったりする。 「先月のジャーナル見た?伊藤秀人の記事、あれ、すごくいいよ。」とか言ったりする。 おかげで、デモの皆様の顔もずいぶん覚えてきました。 またたまに、SIA系の本も買ってみたりする。SAJ系の本で言い尽くされているような 議題でも、ちょっと視点を変えて書いてあったりすると「へぇー」なんて 思ったりする。有名な人が言うことが全てではないね。 「名選手、名コーチにあらず」っていうこともあるし。

ビデオの方はすっかりSAJ系。好きなデモのビデオばっかり。 多いのは一樹サンと粟野デモ。サブちゃんもあるよ。 あとは、技選とデモ選。 そんな中、上原由のビデオも、なぜか、ある。 なんで買ったんだろう、とたまに思ったりもするが、 友人が来た時の人気は意外と高かったりする。

話を昔に戻しますが、そんなスキーにはまりつつあった中、 私は渡辺一樹デモのビデオを買いました。その中で最初にポジションの話が 出てくるんですが、一樹サン曰く

「ポジションには上下のバランス、前後のバランス、左右のバランスがあります。 そして、前後の微調整は足首で行います。」

とあった。そこで初心者君の私にフツフツと湧いてきた疑問。 なんで?なんで足首が動くの?? 私の意見はこうだ。「スキーブーツって、硬いじゃない。あれって 足首を固定するものでしょ。なのに何で足首が動くのぉ??」 当時の私にはブーツのフレックス(硬度)という概念はなく、スキーブーツは とにかく硬いものだ、と思っていた。そして、なぜ硬いのかなどは 考えたこともなく、単に歩くときに歩きにくいなぁ、と思っていた だけであった。そこで、T氏にたずねてみた。

私: 「なんでスキーブーツは硬いの?」
T : 「それはね、柔らかいと力を板に伝えられないからだよ。」
私: 「はぁ。」

T氏は、たとえ話を交えてわかりやすく説明してくれた。 そして、「スキーブーツが硬い」ということと「足首を曲げる」ということとの 間には、大変密接な関係があったことが明らかになったのです。

仮に、究極的に柔らかいブーツを履いて足首をぐっと曲げる(膝を前に出す)とどうなるでしょうか? 柔らかいブーツだと、何も起きません。自分の体が多少下に動くだけです。カッコ悪いですね。 これではまるで、「はじめ人間ギャートルズ」の主人公「ゴン」の格好です。 しかし、適当なフレックスのブーツを履いて足首をぐっと曲げるとどうでしょう? 多少たわんだブーツから板に伝わったその力は、きっと板の先端を雪面に押しつける力として 伝わっているはずです。 そうして、ブーツを通じてスキー板に力を伝えることによって初めて、 雪面からの抵抗にも負けないスキー操作を行うことが出来るのです。 ここで、ブーツのフレックスが大変重要になってきます。ブーツのフレックスは 柔らかすぎても硬すぎてもいけません。自分の体力にあった適度なフレックスの ブーツを使うと、自分の力を的確に板に伝達し、しかも雪面からの急激な圧力を 吸収してくれます。

一般によくブーツを選ぶときには、「柔らかすぎるくらいが丁度いい」と言います。 それは、ブーツは曲げられて初めてその性能を発揮するからです。 ちゃんとトレーニングを積んでいる人は硬いブーツでも曲げられますが、 我々のような週末スキーヤでは、硬いブーツは曲げられません。 「○○デモと同じブーツが欲しい」というだけではなく、足の形やフレックスが 自分にぴったり合うものを選びましょう。 それと、ブーツの硬さは常温と雪山では驚くくらいに違います。 当然、寒いほうが硬くなります。 お店はおそらく常温なので、お店で履いてみたときには 丁度いいよりは柔らか目のブーツを選ぶほうが良いということになります。

どうでしょう?適度なフレックスのブーツを履いて足首を曲げると 自分の力を正確に板に伝達でき、板を的確に操作することが出来ます。 ただ一点、スネゲが薄くなる、というデメリットがありますが。

初心者君の私には、二つの誤った認識がありました。

1. スキーブーツは(単に)硬い。 => スキーブーツは曲げられる硬度でなくてはならない。
2. 足首は固定されている。 => 足首を曲げることによって、ポジションを直したり的確なスキー操作を行うことが出来る。

そして私は、自分のブーツを曲げてみようと思いました。うっ、硬い...。全く曲がらない。 そうか、これも後傾の原因になっていたのか。 なるほどー、と思って次回神田に行ったときは妙にスキーブーツを曲げてみたくなった私でありました。


第四話 コブ斜面らくらくテクニック

その日は金曜日、会社の飲み会があってほろ酔い気分の私は鼻歌交じりでチャリを漕ぎつつ 上機嫌で家路についておりました。ちぃと酔っていたので「酔い覚ましのデザートでも買っていくかな」と思い、 帰りがけにあるコンビニに立ち寄りました。

お店に入ると、なぜか周りのお客さんが私を見る。なぜだろう。ん、あ、しまった。まだ鼻歌を歌っていた!! おっといけねぇ。私はとっさに近くにおいてあった雑誌を読むフリをして涼しい顔をすることにした。 置いてあった雑誌をそそくさと手に取り、雑誌を立ち読みしつつ一応周りをキョロキョロ横目で確認していると、 その本棚の隣にあったビデオにパタっと目が止まりました。 そのタイトルはなんと、「コブ斜面らくらくテクニック」。

ガーン。当時、連続コブ記録 6個だった私には、そのタイトルはあまりにも衝撃的でした。 本当か? 本当にコブ斜面がラクラク滑れるテクニックがこの一本のビデオに収められているのか? 一体どんなテクニックなんだ? このビデオを見れば、あんなに大変なコブ斜面をいとも簡単に滑り降りることが出来ると言うのか??
私はすかさずそのビデオを手に取り、タイトル以外はろくすっぽ見ず、 デザートのことなんかすっかり忘れてそのビデオを買い込んで一目散に家路につきました。

家に着いて早速封を開けて、我が家のビデオデッキに入れてみまして。ん、入らないぞ。 おっと、XXビデオが...え、あ、ウソ。あ、一樹さんのビデオが入りっぱなしだ。 落ち着いてテープを入れ替えてっと。さ、一体どんな「らくらくテクニック」が繰り広げられているんだろう? 落ち着きを取り戻して画面を注視していたところ...

ん、なんじゃこりゃ。怪しげな音楽とともに始まったそのビデオは、延々とエクストリームスキーを楽しむ ガイジンさんを写しておりました。しかも、「コブ斜面」と言いながらその大半の時間は高い断崖絶壁から ぴよぉーーんと飛んでいる命知らずのエキストリーマーの映像でした。

ナレーション曰く、「このような形にとらわれない自由な滑りをする若者が出てきたことによって、 フリースタイルスキーの時代が変わる」だそうな。 うーん、言いたいことは分かるけど、私が求めている粟野さんのような華麗なコブのテクニックの解説は いつまで経っても全く出てくる気配さえ無い。「やってもうたぁ。」と私は思った。

しかし、貧乏性の私はもったいないので最後まで見ることにした。相変わらず画面の中では ぴよぉーーん、ぴよぉーーんと ガイジンさんが楽しそうに飛んでいる。まるで小さい頃に遊んだ竹とんぼのようにフワっと浮き上がって、 その後きれいな放物線を描いて落ちていく。 その飛んでいる風景を見て、自分自身がコブで飛ばされたときの映像と頭の中で比較してみた。

私がコブで飛ばされたときは、必ずと言っていいほどお尻を付いて転んでいる。 つまり、重心が後ろに移動して、いわゆる後傾の格好になっているわけである。 しかし、飛んでいる彼らは全くと言っていいほど後傾になっていない。 まるで空中にも斜面があるかように、板の真上にしっかりと体が乗っているのである。

おぉっ、と、閃光のようなものが頭の中をよぎった。そうか、空中でも常にその体勢を取りつづければ、 いつ着地しても転倒することはないんだ。ゲレシュプも同じ理論なんですね。 飛んだときには板の上にからだがあれば良い、そう考えるだけで飛んだときの体勢の保ち方のイメージが ずいぶん簡単になるのではないか。

実際、次にスキー場に行ったとき、ちょっとコブがあったのでジャンプしてみたら (良い子はマネしちゃだめよ) 、「空中で体が板の真上にあるように」と意識するだけで 全然転ばなくなりました。ま、コブ斜面の小回りテクニックとはちょっと違いますけどね。

それ以来このビデオはあまり見てませんが、飛ばされたときのポジションの保ち方を教えてくれた というだけでも収穫があったのかなぁ、と思って一応大事に取ってます。でも、ちょっと収穫が 少なすぎた気もするな...。
ま、いいか。ちぃと酔ってたし。


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Hiroaki YAMAOKA (heroaki@tt.rim.or.jp)
Last Modified: Friday, 06-Nov-1998 18:48:02 JST