★大序曲「1812年」

 の、ヘンな題名の曲を作ったのはチャイコフスキーでございます。1812年にロシア軍がナポレオン率いるフランス軍を撃退したのを記念して作曲した、まぁ国威発揚狙いのハデな曲でございまして、率直に申し上げて名曲とは到底思えませぬ。しかしけっこう有名な曲でございまして、歴史ドキュメンタリー番組などのBGMに使われるケースもあるようでございます。名曲ではないのに有名な理由はこの対談をお読みになるとお分かり頂けるかも知れませんが…。

対談場所:都内某所・名曲喫茶にて

いわんや「おっ、『1812年』がかかってる」

トホ妻 「名曲喫茶なんだからさ、何もこんな曲かけなくてもいいのにねぇ…」

いわんや「(一応、曲に耳を傾けながら)…しかしまぁ何度聴いても、うるせえ曲だ、こりゃ」

トホ妻 「最後ンところなんてもうメチャクチャだもんね。鐘はガンガン鳴るわ、大砲はズドンズドン鳴るわでさ…」

いわんや「この曲の売りはそこだけだもん。あの最後の大音響っつーか、阿鼻叫喚っつーか(笑)」

トホ妻 「この曲のレコードもみんなそういうことを売り文句にしてんのよね。演奏がどうのこうのじゃなくて、どこそこの有名な大鐘をブッ叩いたとか…」

いわんや「確かさぁ、オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団のレコードって、実際にフィラデルフィアにある“自由の鐘”だか何だかを引っぱり出してきて最後にガンゴン鳴らすんだよな」

トホ妻 「そういうトコしか競い合う部分がないってのもねぇ…。最後に大砲鳴らすのでもさ、本物の大砲持ちだして録音したなんていうのがけっこうあるのよね」

いわんや「そうそう!(笑)アメリカ陸軍だかが本物の大砲ブッ放してるっていうのを俺、FMで聴いたことある!もうスゴかったぜぇ。本物の大砲だからさ、たぶんかなり離れた距離から録音してると思うんだけど…」

トホ妻 「ははは…そりゃそうだ。録音スタジオの中じゃ大砲ブッ放せないもんね(笑)」

いわんや「普通だと、最後のところで大砲が“ドーン”って感じで鳴るじゃん?演奏会だと大太鼓をいくつもいっせいに鳴らしてそれっぽくやるんだよな」

トホ妻 「♪チャーンチャンチャンチャーンチャチャーン♪ドーン!って感じよね(笑)」

いわんや「その本物の大砲を使ったやつなんてさぁ、もう砲音が完全に尾を引いて響き渡ってるんだよな(笑)♪チャーンチャンチャンチャーンチャチャーン♪ドゥッパ〜!!(笑)」

トホ妻 「ひゃはははは…!でもまぁ『1812年』ってのはそういう曲なのよ(笑)。もう演奏なんてどうでも良くてさ、とにかく最後をいかにコケオドシの大音量で盛り上げるかっていう…」

いわんや「オーケストラの問題じゃないんだよな。“軍備”の問題(笑)」

トホ妻 「そのうちさ、『1812年』の新譜紹介とかに“第ナントカ砲兵連隊が全面参加!”とか書かれるようになるよね(笑)」

いわんや「“最新式30センチ砲の発射音をデジタル録音!”とか(笑)」

トホ妻 「あの曲、早い話が戦勝祝いの曲なんだからさぁ、固いこと言わずにハデにやりゃいいのよ。軍隊だろうが市民ゲリラだろうが、みんなで参加して最後にガンゴンやれば」

いわんや「第九と同じじゃん。市民参加型クラシック(笑)」

トホ妻 「みんなで何かデカい音の出るもの持ち寄ってさ(笑)」

いわんや「“府中市民・第九を歌う会”じゃなくて“府中市民・1812年を鳴らす会”(爆)」

トホ妻 「ぎゃははははは…!!!」

 にかくまぁ、こういう曲なのでございます。CDがまだ珍しかった80年代前半、初めてCDプレーヤーを買った知人がその性能を確かめるために「とにかく音がデカくてハデなクラシックを教えてくれ」と尋ねてきた時は、ワタクシ迷わずこの大序曲「1812年」を推薦致しました。どこかの自治体で「1812年を鳴らす会」を募集することがあれば、その時はぜひワタクシもバクダン花火でも打ち鳴らして参加したいと思うのでございます。

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