★アイーダ

 「アイーダ」は、イタリアオペラ作曲界の大御所ヴェルディの作品でございまして、舞台は古代エジプト。エジプトの若き将軍ラダメスと女奴隷アイーダの悲恋を描いた名作でございます。「凱旋の場」など有名な旋律も多うございますが、下記の対談で我々が問題にしておりますのは、ラストで死刑を宣告された主人公ラダメスが地下の墓洞窟に閉じ込められて死を待っているところにアイーダが現われる場面。別名、オペラ史に名高い?「アイーダのパラドックス」と呼ばれる矛盾についてでございます。

対談場所:いわんや家居間(アイーダのビデオを見ながら)

いわんや「このオペラ見るたびに俺、思うんだけどさ、ラダメスはこの墓洞窟に閉じ込められて死刑になるんだろ?つまりここは完全な密室なんだろ?何でそこにアイーダが突然現われて“アナタと一緒に死ぬわー”とか騒いでんだ?」

トホ妻 「(タメ息)…きっと謎の出入り口から入ったのよ、アイーダは」

いわんや「じゃ、何で二人はその出入り口から逃げないのさ?」

トホ妻 「だからさぁ、世界中のオペラファンがこの“アイーダのパラドックス”について内心ヘンだと思ってるわけよ。でもいくらヘンだと思ったって今さらどうしようもないじゃない」

いわんや「どう考えたって矛盾だ。入ってきたなら、そっから出りゃいいじゃん」

トホ妻 「きっとその出入り口は中に入ることはできても外には出られない構造になってんのよ。逆流を防止するための弁か何か付いてるんじゃないの?」

いわんや「弁!(笑)う〜む、新たな解釈かもしれんが、古代エジプトに“逆流防止弁付きドア”があったとはとても思えないぞ」

トホ妻 「ヴェルディもヒドいね。作曲してる時にヘンだって気付きそうなもんだよね」

いわんや「アイーダは実は密閉される前にあらかじめこの墓洞窟の中で待ってたのかな?」

トホ妻 「だったらラダメスが閉じ込められた時点ですぐに現われればいいじゃない。これだけ時間がかかってるってことは明らかに閉じ込められた後に入ってきたのよ」

いわんや「わかった!その出入り口ってのは実は高い所にあってさ、飛び降りて入ることは出来ても飛び上がって出ることはできないってことじゃないか?」

トホ妻 「でもさぁ、このままじゃ二人は死ぬのよ。そんな出入り口があるなら下に足場でも何でも作って何とか逃げようとするよ、普通…」

いわんや「…時空の歪みのスキマを通って入ってきたのかな…」

トホ妻 「ターミネーター2の形状記憶合金男みたいにさ、アイーダは実は液体になることが出来たんじゃないの?…」

(画面では墓洞窟の中で死を前にしたラダメスとアイーダが抱き合って高らかに愛を唄いあげる)

いわんや「…要するにコイツら、バカなのか…」

トホ妻 「…そうよ、この矛盾に気が付かないんだからバカなのよ、この二人…」

いわんや「一番感動的なラストシーンの結論が“主人公二人はバカでした”ってことか…」

トホ妻 「ま、オペラなんてそんなもんよ」

(画面ではオペラ終了。盛大な拍手とアンコールに応える歌手たち)

 のような対談をお読みになると「アイーダってとんでもなくおバカなオペラなんだ」とお思いになる方がおられるかも知れませんが、しかし、ワタクシもトホ妻も「アイーダ」はやっぱり素晴らしいオペラだと思っているのでございます。その素晴らしさはストーリー上の矛盾などを完全に超越したものなのでございまして、まだ御覧になったことがない方に自信を持って観賞をお勧めできるオペラのひとつであると申せましょう。

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