★みどりの壁

 「みどりの壁」という映画の題名を聞いて「それ、見た見た」とお答えになる方は…まぁトホ妻帝国広しと言えども1人もいない、という方にワタクシ100円賭けます。これはペルー映画でございまして、日本で封切られたのが1970年頃。ワタクシもトホ妻も小学生でございます。ワタクシはその後大学生の時にこの映画を近代美術館フィルムセンター(うわぁ、オタク)で観たのですが、トホ妻は何と小学生の時に封切られたこの映画を観ているのでございます。しかもただ観るだけではございませんで…。

対談場所:いわんや家寝室・布団の中

いわんや「もう日比谷には有楽座もスカラ座もなくなっちゃったんだよな?みゆき座ってまだあったんだっけ?」

トホ妻 「あったんじゃない?アタシはコドモの頃から映画っていうと渋谷だったから銀座方面ってあんまり行かなかったのよね」

いわんや「オレはもう映画って言やぁ銀座だったよ。今はなき有楽座では中学生の時『ポセイドン・アドベンチャー』観たなぁ」

トホ妻 「アタシは渋谷の東急文化会館の中の映画館が圧倒的に多かったわ。けっこう小学生の頃から渋谷行って映画観てたもん」

いわんや「げっ、小学生のブンザイで渋谷行ってたのか?不良ぉぉ〜」

トホ妻 「大体は親に付き添ってもらって行ってたわよ。一度さ、クラスの同級生をソソノカシてさ、ウチの母親に付き添わせてアルマンド・ロブレス・ゴドイの『みどりの壁』観に行ったなぁ…」

いわんや「みどりの壁!?そっそんな映画誰も知らんって(笑)!オレは大学生の時観たけど…

トホ妻 「アタシ小学生の時観たのよ。でさ、ウチの母親がアタシとその友達の引率者として一緒に『みどりの壁』観たわけじゃない?ウチに帰ってきてから母親はそのコのお母さんトコに電話して『困ったことになった…』って深刻に相談してたみたいよ(笑)」

いわんや「どう考えたってありゃコドモ向きの映画じゃねえよ!主人公の息子が死んじゃって…けっこう悲痛な話だぜ」

トホ妻 「そうそう。幼い息子が毒蛇に噛まれちゃうのよね」

いわんや「あれ、可哀想なんだよなぁ…お父さんがイカダか何かに乗って子供を町の医者に連れてくんだけどさ、ちょうどその時大統領が来てて町は大騒ぎで医者がつかまらないんだよな」

トホ妻 「で、間に合わなくて子供は死んじゃうのよねー…息子の死体を詰んで父親がまたイカダをこいでジャングルの奥地まで戻っていく…」

いわんや「びえーッ!何て悲しい話だ!」

トホ妻 「あれは感動的な映画だったよ。どうしても観たかったのよねー」

いわんや「当時小学生だろ?あんな悲痛な映画観たがるって…ガキの頃からオタクだったのか」

トホ妻 「しかもさ、それだけじゃないのよ。当時アタシってクラスの新聞委員やっててさ、壁新聞にその映画評まで書いちゃったのよ(笑)」

いわんや「しえええーーーーッ!!」

トホ妻 「ペルーの映画監督アルマンド・ロブレス・ゴドイの『みどりの壁』がいかに素晴らしい映画かって…アタシ作文だけは上手だったから、そりゃリキが入ったねー(笑)」

いわんや「しえええーーーーッ!!小学生が!!」

トホ妻 「とうとう先生に呼び出されたね(笑)」

いわんや「何て言われたのさ?」

トホ妻 「トホヅマさん?あの映画はとてもいい映画だけど、クラスのみんなに勧めるのはやめてねって言われたわよ(笑)」

いわんや「ぎゃはははは!そりゃ言うだろ…」

トホ妻 「アレは格調高い映画だったわよ。そう思わない?」

いわんや「やっぱさぁ、オトナとしてはガキの観る映画に対する一種の規範があってさ、『みどりの壁』観たがるってことはその規範から相当ハミ出してたってことだろうな」

トホ妻 「じゃ何よ?ディズニーとか観たがってれば良かったってーの?」

いわんや「そりゃそうさ。コドモの見る映画ってのはユメとキボウに溢れてて、最後はハッピーエンドっていうのがオトナの考える“規範”なんだよ。しょうがねーじゃん」

トホ妻 「アタシ、そういう“親が子供に見せたがる映画”ってなんか信用できないのよねぇ」

いわんや「オレなんてちゃんと小学生の頃は小学生らしく『ガメラ対バルゴン』とか『大巨獣ガッパ』とか『宇宙大怪獣ギララ』とか観てたぜ?」

トホ妻 「今でも喜んで観てるじゃん…」

いわんや「…い、いつまでも少年の心を持ち続けるオレなのさ」

トホ妻 「ぶぶぶーーーーッ!!(笑)」

 ホ妻の、この信じ難いオタク小学生ぶり…呆れるばかりでございます。栴檀は双葉より芳し…と言って良いものか…おそらくトホ妻の母親は「コドモのクセにこんな深刻な映画見たがるなんて…」と心配したのでございましょうがその心配は完全に的中したようでございまして、娘は今や立派なオタク中年女と化しております。しかし、今や知る人も少ないペルー映画「みどりの壁」は我が子を失うという、人間として最も耐え難い悲しみが観る者の心に迫る名作なのは確かなのでございます。

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