★走れメロス

 宰治の作品「走れメロス」。多くの方はこの作品を「買った本で読んだ」のではなく、教科書で読まれたのではないでしょうか?かく申すワタクシ自身、国語の教科書で読んだ作品でございます。ワタクシとは同学年にあたるトホ妻もやはり学校の教科書でコレを読んだようなのですが、子供の頃から性格ヒン曲がり少女だったトホ妻が「走れメロス」を読めば、そりゃあもう…

対談場所:いわんや家寝室・布団の中

トホ妻 「今日、会社の昼休みに『国語の教科書でどんなのを読んだか』っていう話が出てさぁ…」

いわんや「国語の教科書…」

トホ妻 「みんな覚えてるのが井伏鱒二の『山椒魚』だったね」

いわんや「ああ、あれね。確かにオレも教科書で読んだ。最後が“今では別におまえのことをそんなに怒ってはいないんだ…”っていうんで終わるんだよな」

トホ妻 「そうそう。出だしが“山椒魚は悲しんだ”(笑)」

いわんや「あー、確かそんなんだった」

トホ妻 「もう一つが『走れメロス』」

いわんや「“メロスは激怒した”(笑)。アレは中学ン時の国語だったかなぁ?」

トホ妻 「アタシも確か現国の教科書で読んだけどさー、あの話、ヘンだと思わなかった?」

いわんや「何が?」

トホ妻 「だから『走れメロス』のストーリーがよ。あたしゃアレ読んだ時、頭の上に巨大なハテナマークがバカスカ点灯したね。大体ナニが言いたいのよあの話は?」

いわんや「あれはまぁ…まさに書いてある通りだろ。セリヌンティウスの側にすれば、友への信頼は死の恐れにも勝る。メロスの側にすれば、自らの死を賭けて友の信頼に応える。つまるところ、『信頼は死を凌駕する』という崇高なテーマがあってだな…おおお!自分で言いながら素晴らしい解説だと思えてきたぞ」

トホ妻 「(いわんやの解説は無視して)大体さぁ、メロスがセリヌンティウスに身替わりになってもらう理由が何だったか覚えてる?」

いわんや「うん?…何かの事情でちょっと実家に戻るとか、そんなんじゃなかったっけ?」

トホ妻 「そりゃねぇ、確かにアタシは結婚式も披露宴もやらなかった女だわよ。だから余計にそう思うのかも知れないけどさ、メロスが家に戻った理由ってのが“妹の結婚式に出る”ためよ?」

いわんや「あー…そうだっけ?冠婚葬祭ってわけだ(笑)。まぁ別にいいじゃん。結婚式くらい…」

トホ妻 「お兄さんが死刑になるって時に結婚式するかい?」

いわんや「…そっ…それはまぁ…そう言われりゃそうだが…」

トホ妻 「わざわざ身替わり立てて出席しなきゃいけないほどのコトかよ結婚式が!しかも実の兄が死刑になるかも知れないなら延期なり中止なりするでしょ普通!」

いわんや「でも、あの話では実家に帰る理由なんて要するに何だってイイわけで、重要なのは…だから…友の信頼を裏切ることなく約束を果たすために…だな…」

トホ妻 「そりゃねぇ、小学校の道徳の時間でアレ読むなら、まだわかるわよ。でも『走れメロス』は確か中学か…ヘタしたら高校の教科書かな?高校生になってアレ読まされて『友達を大切にしよう』『約束は守ろう』なんてさ…(笑)」

いわんや「だははは!『約束がある時は少し早めに家を出ましょう』とか(笑)」

トホ妻 「学校でアレ読んだ時に、まぁ幸いに感想文は書かされなかったんだけど、順番に一人づつ感想を言わされたのよね。アタシゃもう何も言うべきコトがなくてさぁ…」

いわんや「出たーッ!(笑)性格ヒン曲がり少女の感想!どうせロクなこと言わなかったんだろ」

トホ妻 「チャンと率直に言ったわよ。『この話は何が言いたいのかよくわからないです。確かに、理想はこうあるべきかも知れないし、これを読んで理想に近付こうっていう気持ちにならなきゃいけないのかも知れないけど、あまりそういう気持ちにはなれません』とか何とか…」

いわんや「ひぃーッ!何てヤな生徒。でもまぁ確かにあの“順々に感想を言わせる”ってのはオレも嫌いだったな〜。いつも的ハズレなことばっか言ってたような気がする」

トホ妻 「前に本で読んだけど、『風立ちぬ』の感想を言わせたら、スゴいのがあったらしいよ」

いわんや「どんなの?」

トホ妻 「『やっぱり健康は大事だと思いました』っていうの(笑)」

いわんや「がはははははは!いやしかしねぇ、そんなモンだと思うぜ。コドモの感想なんて」

 が国の学校教育では読書感想文を書かせる(ないし、感想を言わせる)というのは非常に重要な位置を占めているようでございますが、アレは読書嫌いのコドモを養成しているように思えて仕方がないのでございますが…。ちなみに、今回の対談を載せるためにちょっと「走れメロス」について調べてみたところ、太宰治がこの話を書いたキッカケというのは、彼が作家仲間の檀一雄と熱海の旅館に泊まっているうちに金がなくなり、檀一雄を旅館に“人質”として残して太宰が東京に金策に走った…というエピソードだそうでございまして、執筆動機はとても道徳的とは言い兼ねる話のようでございます。

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