★ねじの回転

 19世紀生まれのアメリカの作家、ヘンリー・ジェイムズが書いた「ねじの回転」。題名は御存知の方はいらっしゃっても、実際にこれを読んだ方となるとあまり多くないのではないかと…。「ねじの回転」は幽霊文学の古典的名作でございまして、この作品がその後のホラーやミステリーに与えた影響たるや大変なものがございます。コワい話の好きなワタクシは「ねじの回転」を10代の時に読んでおりますが、トホ妻も高校生の頃にコレを読んだそうでございます。夫婦が偶然に、むかし同じ本を読んでいた、というだけなら別にドウということはございませんが、トホ妻の場合、読むだけでは済みませんで…。

対談場所:いわんや家Mac部屋

(いわんやはネット遊び、トホ妻は寝転んで本を読みながら、eMacに取り込んだドビュッシーのピアノ曲「前奏曲集」を聞いている)

トホ妻 「・・・前奏曲集の・・何曲めだったけ?ほら、♪ぴーろーん…♪ぴーろぉーん…っていうのがあったじゃない(注1)」

いわんや「ああ、あるある。アレは『前奏曲集』に入ってたんだっけ?」

トホ妻 「むかし、富田勲がドビュッシーの曲をシンセサイザーで演奏したレコードが評判になったじゃない。アタシたちが高校生くらいの頃」

いわんや「知ってるよ−。かなり売れて、その後『火の鳥』とか『惑星』とか、次々と出したよな」

トホ妻 「あのレコードの中に ♪ぴーろーん…♪ぴーろぉーん…って曲も入ってたのよ」

いわんや「ふーん…」

トホ妻 「アタシさー、アレを聞いて、これこそ『ねじの回転』のBGMにピッタリだと思って使ったのよアレを。ちょうどホラ、家庭教師が最初に幽霊に出会う、あの一番コワい場面のBGMで」

いわんや「・・・は?ちょっと待て。『ねじの回転』のBGMって何の話だ?」

トホ妻 「あれ?話したことなかったっけ?アタシ、高校の時に何人か有志を集めて『ねじの回転』の放送劇を作って文化祭で流したのよ」

いわんや「ほっ・・放送劇?!しかも、よりによって『ねじの回転』のッ?!」

トホ妻 「アタシ、当時NHK・FMのラジオドラマとかよく聞いてたからさー、ひとつ『ねじの回転』を放送劇にしようと思いたってね、クラスの連中をダマして“有志”ってことにして作ったのよ」

いわんや「女子高だろ?女子高生がワザワザあのおっかねぇ『ねじの回転』を…(呆れてる)。で、自分は何の役やったのさ?家庭教師か?」

トホ妻 「いや。アタシは脚本とか、制作全般の方をやったね。それまでのイキサツを家庭教師が馬車に乗ってる間の御者との会話でまとめるとか、なかなかコッた作りだったんだから」

いわんや「ひょほほほ。いやまぁ何というか…まさにトホ妻ならではの高校生活やのー…」

トホ妻 「ちゃんと放送部の顧問の先生にかけあって放送室の器材を使わせてもらったり、なかなか本格的だったんだから。ウチの学校で“有志で放送劇”なんて、アタシたちが初めてだったらしくてさ、先生もわりと協力してくれたのよ」

いわんや「で、あの、最初に幽霊と会う、おっかねー場面で富田勲のドビュッシー使ったわけか」

トホ妻 「そうそう。♪ぴーろーん…」

いわんや「♪ぴーろぉーん…って、まぁ確かに…あの場面にマッチはしてるかもな」

トホ妻 「それだけじゃないよ。最初に家庭教師が馬車に乗ってお屋敷に来る場面には、チャンと馬車の音とか、効果音も作って入れたんだから」

いわんや「ばっ、馬車の音なんてどうやって…」

トホ妻 「それもまたチャンと先生に許可もらってさー、ほら、体育の時に使う白線引きがあるじゃない。アレをガラガラと引っ張って…」

いわんや「ひゃはははははは!」

トホ妻 「アナタそうやって笑うけどねー、なるべく雑音のしないところで録音しなきゃいけないし、タイヘンだったんだから。一人が白線引きをガラガラ引っ張ってさ、その後ろでもう一人がオワンを使って馬のヒズメの音をカッポカッポって…」

いわんやひゃはははははははは!!

トホ妻 「あの放送劇はね、アタシが言うのもナンだけどなかなかの出来だったよ。文化祭で流した時はウチの父親とかも聞きに来たんじゃなかったかなぁ?」

いわんや「しかし放送劇だろ?お客はただ教室の中に座って、テープを聞くだけか?」

トホ妻 「そうそう。ちゃんと教室借りて、何時と何時から上演、って感じでやったわね」

いわんや「普通さー、文化祭って言やぁ、女子高生は模擬店とかでキャアキャア言ってるのに、若きトホ妻は暗い教室の中に聴衆を集めて幽霊放送劇『ねじの回転』かよ…あああ(呆れてる)」

トホ妻 「それだけじゃないのよ。やっぱホラ、やる以上はプロモーションが必要だからさ、アタシはわざわざ『ねじの回転』の予告編まで作ったんだから」

いわんや「ひゃはははは!ついには予告編と来やがったね」

トホ妻 「そうやって笑うけどねー、その予告編ってのがまたなかなかの出来だったのよ。本編のサワリのところを編集して、放送劇『ねじの回転』…ドコソコ教室にて何時から上演…乞う御期待…みたいなナレーションまで入れて。校内放送で学校中にその予告編流したよアタシゃ(笑)」

いわんや「学校中に!(笑)はぁ〜…しかしまぁ…たまげたね。女子高生が『ねじの回転』たぁ…。オレなんてさ、何せ映画研究同好会の会長だったし、チャンとしたカラー8ミリ映画作って文化祭で上映したんだぜ。『昼下がりのメロディ』っつー題名で…」

トホ妻 「ひゃはははは!ひっ昼下がりのメロディだってよ!はははははは!!」

いわんや「てめ…笑うけどなー。ちゃんとオリジナルストーリーの力作だったんだかんな。まぁ一種の犯罪ものでさ…フィルム・ノワール(注2)の流れをくむと言うべきか…」

トホ妻 はははははは!フィルム・ノワールと来たよ!で?そのオリジナル脚本とやらはアナタが書いたわけ?」

いわんや「書いたっつーか…だからその、キチッとした脚本なんか作らずにホレ、ジャン・リュック・ゴダール的手法を取り入れて、その場のヒラメキと即興で“次はこういう場面を入れよう”とか…」

トホ妻 ぎゃはははははははは!それってテキトウなだけじゃん!!

いわんや「・・・てめぇ・・・・何もそこまで・・・・」

 …どうやら、我々夫婦は揃いもそろって、高校時代の文化祭に「若きオタクの恥ずかしき汚点」を残しているようでございます。ちなみに、トホ妻制作の放送劇「ねじの回転」のテープはその時の“有志”の誰かが保存しているらしゅうございまして、一方、いわんや制作のカラー8mm映画「昼下がりのメロディ」はと申しますと…えー…確か実家の「旧いわんや部屋」の棚の上にフィルムが残っていたのではないかと…ま、仮に残っていたとしても、今や手に取るのも恥ずかしいシロモノではございますが…。

注1)ドビュッシー作曲 前奏曲集第1巻・6曲目「雪の上の足跡」のことでございます。

注2)フィルム・ノワールとはフランス語でございまして、直訳すれば「暗黒映画」。主としてフランス製の犯罪映画などを総称してこのような言い方をすることがあるのでございます。

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