くそ地獄


 ある男が地獄に落ちた。地獄の鬼が男を連れて歩きながら説明した。「俺はインストラクターの鬼だ。これから3つの地獄を案内する。お前はそれを見学したうえでどの地獄がいいか選べ」

 最初は「針山地獄」だった。そこでは亡者たちは足を血だらけにしながら針の山を裸足で登らなければならない。文字通り地獄絵図と言うしかない光景だ。「こ、これは勘弁してください。針の山なんて痛そうで…」

 次は「火あぶり地獄」だった。ここでは亡者たちは燃えさかる炎にあぶられ、悶え苦しんでいた。針山地獄を上回る苦痛が待ち構えているのは間違いなかった。「こ、これも勘弁してください。火あぶりなんて熱そうで…」

 最後は「くそ地獄」だった。見ると亡者たちは広大なくその海に首までつかり、煙草をふかしているではないか。「くそ地獄なんて臭そうで…」とは思いつつも、臭気さえ我慢すれば男の目にはどう見ても前の2つよりはマシに思えた。

 くそ地獄を選択した男はくその海に首までつかり、他の亡者たちと同じようにおもむろに煙草に火をつけようとした。その時、くそ地獄担当の鬼が腕時計を見ながら叫んだ。

 「よーし、休憩時間は終わりだ。さぁ亡者ども、また頭までもぐれ!」