“あの音”から見るJ-POPトレンド考察      2005年3月26日 学芸面評論

 術対談集などではオペラなどについて書くことが多いワタクシではございますが、流行りのJ-POPにも多少は目を配っているのでございまして、我が愛機iPodの中には椎名林檎だの平原綾香だの一青窈だののハヤリ系の歌も少しは収録し、時々聞いております。まぁこの辺の音楽シーンに関してはワタクシより皆様方の方が詳しいのは確実ではございますが、本日ワタクシが問題にしたいのは、彼女たちの音楽そのものに関してではなく、その周辺部分とでも申しましょうか…いや、周辺部分と言いましてもCDをお聞きになればチャンとわかることなのですが…。

 トの発端はワタクシがiPodでたまたま平原綾香サンの「Jupiter」を聞いた時のことでございます。昨年大ヒットして紅白歌合戦でも歌われた歌曲でございまして、御存知の方は多いはずでございます。この歌を聞こうとすれば当然、出だしのところから聞くわけでございますが、iPodで“シャッフル”設定で曲を聞いておりますと、曲がかかる順番はランダムになりますから、前の曲が終わると「次は何だ?」と思って次の曲の出だしのところでは自然と耳をそばだてるような感じになるのでございます。

 してかかったのが平原綾香サンの「Jupiter」。御存知の方は御存知のように、あの歌の出だしは前奏なしで、ボーカルがいきなり「♪Everyday〜 」と入ってまいります。…だがしかし、ワタクシがその時あの歌の出だしで最初にまず耳にしたのは…

   

   

 〜ッ!!

  

 いう平原綾香さんのブレス音。早い話が「イキを吸う音」でございます。ちょうど次の曲の出だしに耳をそばだてていたところにブレス音がヤタラに鮮明に録音されているのでギョッと致しました。もし今、お手近に「Jupiter」のCDをお持ちの方がおられましたらぜひ確認して頂きとうございます。普通ブレス音ってこんなにハッキリ録音されているものでございましょうか?そう思って聞いていると、出だしだけではなくそれ以降も息継ぎのたびに「〜ッ」「ス〜ッ!」と、ものすごく鮮明にブレス音が録音されておりまして、何だかソッチの方が気になってカンジンの歌ではなく、ブレス音の方に神経を集中してしまいます。

 レス音ってこんなにハッキリ聞こえるモン?ナンボ何でも聞こえ過ぎじゃないの?と思ったワタクシ、冷静に比較検討を試みました。iPodにはワンサカ曲が入っておりますから比較対象は潤沢にございます。まず同じ平原綾香サンの別の曲では?というので、アンドレ・ギャニオン作曲の「明日」を検証。コレもまた前奏なしでいきなり「♪きぃ〜っと〜 そばにい〜ると〜」というボーカルで始まる曲でございますが、これがドウかというと…やはり

 ハ〜〜ッ!♪きぃ〜っと〜

 いう具合で、冒頭はやはり鮮明なブレス音から始まり、曲中の息継ぎのブレス音のデカさも同様。どうやら平原綾香サンのこのアルバムは「ブレス音も鮮明に入れる」という録音方法がとられているのは明らかなようでございます。では最近ヒットチャートをにぎわした他の女性ボーカリストたちの「ブレス音収録状況」がどうかと申しますと…

  

一青窈ハナミズキ」…ブレス音は「そう言われれば聞こえるなぁ」という程度に入っております。

椎名林檎ここでキスして」…これも前奏なしでいきなり始まる曲。しょっぱなのブレス音はよく聞こえますが、それ以降の息継ぎはあまり聞こえませぬ。

宇多田ヒカルAutomatic」…こちらは息継ぎの音が少〜し聞こえるという程度でしょうか。

MISIAEverything」…プレス音はほとんど聞こえませぬ。

 ふうむ…。ひょっとするとこの「ブレス音強調型」の音づくりはせいぜいここ1〜2年程度のトレンドなのかも知れませぬ。試みに、もうちょっと前に流行ったと思われる曲を幾つか確認してみますと…

広瀬香美promise」…ブレス音は聞こえませぬ。

My Little LoverNOW AND THEN」…やはり聞こえませぬ。

安室奈美恵CAN YOU CELEBRATE?」…ぜんぜん聞こえませんですねー。

  

 の「ブレス音トレンド」について、すでにどこかに発表している方がいるかも知れませんが、少なくともワタクシの今回の研究?結果から考える限り、どうやらここ1〜2年の間にJ-POP界では「呼吸音も歌のうち」とでも申すべき音づくりの一大革命が起きているのではないかと思われるのでございます。考えてみれば、ラップミュージックのように「伴奏と歌詞だけでメロディのない曲」など、昔から見れば想像もできないものですが、それも今やごく当たり前。同様に、現在のJ-POPにおける「ブレス音革命」によって将来は「伴奏と呼吸音だけで歌詞のない曲」などというのも出現する可能性もないとは言えないのではないかと思う今日この頃なのでございます。

  

担当:いわんや学芸評論委員

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