のせたけ様よりの投稿 

 せたけ様はワタクシ直接存じ上げない方でございますが、たまたま当トホ妻帝国にお越しになって光栄にも投稿して頂きました。それにしても素晴らしい文章家。母を畏敬する息子の心情はもとより、夏の夜の気怠い雰囲気までもがリアルに伝わってくるようでございます。ワタクシすっかり感心致しましたので、今回は通常の編集措置(段落文頭文字を大きくする等々)は適用せず、改行位置まですべて受信したままで掲載したいと存じます。

ずいぶん前の話になります。僕が小学生の頃でしたので、もう、10年以上昔のこと。
僕の母親の「トホホ」なエピソードです。

ある夏の夜。夕食も終わり、家族そろって、ナイターを見ていました。
満腹感も手伝ってか、家族全員が食休みを兼ねたくつろぎスタイル。
みんな、横たわって、テレビ画面を眺めていました。

で、夏の風物詩といえば、「蚊」。
その夜も例に漏れず、蒸し暑さで鋭敏になっている神経を逆撫でするように、
一匹の蚊がブンブンと飛び回ってました。

家族メンバー、最初はお決まりの顔で無視モード。無関心なのではなく、
「誰かが退治するだろう」という、他力本願もはなはだしいふてぶてしさでした。
そのまま数分。父が言いました。
「刺された」
最愛の夫の血液を吸引した憎たらしいその蚊に対して、
母は不倶戴天の思いを禁じ得なかったのか、ついに宣戦布告しました。
「あたしがとるわ。」

母は横になったままのくつろぎスタイルを崩さずに、室内のどこかを飛んでいる
蚊の居場所に神経を尖らせていました。
しかし、ご存じの通り、蚊という生物は、
「疾風のように現われて、疾風のように去っていく」ものでして、
母の鈍りきった運動神経では、ましてや横臥したままのスタイルでは、
退治することなど到底不可能だと、幼い日の僕は考えておりました。

そこへ母の雄叫びが。
「あ。いた。」
そして次の瞬間、母は横になったままの姿勢で、両足だけを宙に浮かせ、
まるで足の裏を手のひらのごとく操り、器用に
「ぱちん」
と・・・・。殺ってしまったのです。

「あ、とれた。」
飛んでいる蝿を食事中の箸でつかんだという、宮本武蔵クラスの偉業をやってのけた母は、
事も無げにこう言い放ち、再びナイター中継に没頭していました。

 ははは…!あ、いや失礼致しました。それにしてもこれはスゴい。スゴすぎます。ワタクシ、実はこの驚くべき投稿に想像図の挿し絵が添えられないか思ってちょっと描いてみたのですが、ワタクシの貧困なデッサン力では到底“それらしく”描き得ません。想像ではどうにもならないことを悟ったワタクシは、その場に仰向けになって足を空中に屹立させ、足の裏を「ぱちん」と合わせるポーズを自分で実際にやってみて、挿し絵の参考にしようとトライしてみたのでございます。

 のポーズ自体は身体の硬いワタクシでもまぁ「やってやれないことはない」ものでございましたが、浮かした両足を空中で自在にコントロールし、しかも手の平と同じように瞬間的に強く叩くとなると、これはもう大変な腹筋の力が必要なことが判明し、ワタクシはたちまち「ぶほはっ!」という声とともにバタリと足を床に落とさずにはいられなかったのでございます。これで蚊を叩き潰すとは…数千万年前にサルが後ろ脚で直立歩行を始めて以来、その「後ろ脚」で蚊を潰した人類は、おそらくのせたけ様の母上が最初でしかも最後ではないか、といわんやはマジにそう考えずにはおれません。

 ーウィンの進化論によると「種は自然淘汰によって進化する」とされております。のせたけ様の母上は明かに通常の人類よりも高い能力を備えた人類、蚊との闘いにおいて有利な性質を備えているヒトと判断でき、万一蚊の大発生によって人類が滅亡の危機に瀕したとしても、少なくとものせたけ様の母上、及び母上と同じ性質の遺伝子を共有する子孫だけは、蚊との闘いに勝ち残ることでありましょう。やがてそこから人類は「後ろ脚で蚊を潰す能力を持った」新しい種へと進化する…などと気宇壮大な想像を膨らませるワタクシでございました。

 話によると、のせたけ様御自身も来年6月には御結婚を控えていらっしゃるとか。「後ろ脚で蚊を潰す能力」を有するDNA遺伝子はこうして母上からのせたけ様へ、そして新たな配偶者を得て次の世代へと受け継がれていく…と考えると人類の進化を直接目にしているようで、感動を禁じえません。のせたけ様、このたびは投稿、ありがとうございました。

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