TOY様よりの投稿

 フ会などではすでに何度も御会いしているTOY様から初投稿を頂戴いたしました。現在、TOY様は東京から長崎へと生活拠点を移されておられるわけで、以前のようにオフ会に気軽に参加というわけにはいかなくなりましたが、こうして修羅場のいわんやを救う投稿をお送り下さって、ありがたい話でございます。

 院というのは不思議なもので、普段とうてい出会うことのできないような方々とお知り合いになれます。互いに病に立ち向かう。互いに闘病の苦しみを笑い合う。互いにそのために生ずるヒマを潰し合う…そんなフツーの生活では味わえない、奇妙な連帯感が起こるのです。それがいざ、入院ともなると…これは私が人間ドックにひっかかり、その後四週間入院した時に出会った方のお話。

 が入院した病院は、郊外の小山を切り拓いて建てられた総合病院。入院施設は3階が一般内科、4階は糖尿病コントロールを中心とする成人病、5階は呼吸器系の病棟と分かれておりました。喫煙スペースは、小さなパティオに面した1階の、これまたガラスで仕切られた小さな一角。その小さなスペースには専用の巨大な換気扇が唸り、「当院では禁煙教室を開いております!ぜひご参加くださ
い!!」というお手製のポスターが、嫌味を超えてギャグのように貼ってあります。入院したとはいえ、「点滴ちうしゃ」を24時間、寝ている間も打たなければならない以外は比較的元気な私。3階から点滴台をゴロゴロ押しながら煙草を吸いにまいりました。そこには昨日お会いした『今今』さん(仮称…あたりまえか ^_^;)がいらっしゃいました。今今さんは4階病棟の住人、糖尿病で入院されてます。

今今「おっ、また『荷物』連れて来たねェ〜。ご苦労なこったァ」
TOY「あれっ?なんかゴキゲンですねぇ。なんかイイコトあったんですか?」
今今「いや、まぁ、ちょっとネ。むふふふ〜。
   駐車場に停めてある『ホームバー』でワンカップの焼酎ひっかけてきたんだ」
TOY「ほ、『ホームバー』ぁ〜〜〜!?」
今今「ココって郊外にあるからか、駐車場の料金取らないんだよ。
   自分で動ける入院患者のほとんどが、自分で運転して来て『泊まってる』んだ。
   俺のクルマもね。でね、俺の愛車が『ホームバー』なわけさ。
   この病気になってからウチの『カァチャン』がウルサイわけよ。
   やれビールは飲むな、日本酒飲むな、焼き肉食うな、コンニャク食え!」

TOY「だははは、、、あぁーー、食事療法ってやつですね?」
今今「俺、大飯食らいだから、これでもかぁっ!!てくらいコンニャクづくしなわけよ、毎食。
   そんな食生活でだよ?禁酒までさせられてみぃ?どこが楽しい人生よ?」

TOY「あー、、、でも、ほら、病気なワケだし・・・」
今今「しょーがないからさ、『ちょっと煙草買ってくる』ってクルマで出かけて、酒屋へ直行よぉ。
   ビールの6缶パック買ってさ、途中の路肩でくぅぃ〜〜〜っと」
TOY「え゛?それって、飲酒運転・・・」
今今「ん?まぁね。二回ほど巡回中のパトカーに職質されたけど、気付かなかったよ、やつら。
   ま、これが俺の『ホームバー』の誕生秘話ってワケよ、カッカッカッ!
   ・・・ただ問題があってね、帰る時イイ気持ちになってるもんだからさ、空き缶捨てるのが    億劫でねぇ。毎晩、トランクに放り込んでたんだ。それが溜まりに溜まってさ、カーブを
   曲がるたびに後ろでカランコロンうるさいんだよ。どっかこのへんで捨てられるトコ
   ないかあなぁ?」
TOY「いやぁ、私は最近こっちに戻ってきたばかりで…で、それが今も『営業中』…っと?」
今今「おぅ、今朝も『散歩してきま〜ス』ってナースに言って、『仕入れ』してきた。
   実はさっきもヤバかったんだ、病院の職質。一杯ひっかけてエレベーターに乗ったらさ、
   同じ病棟のナースが乗ってきたんだ。ヤバイ!って、臭いに気付かれないように、こう、
   病衣の襟立てて俯き加減にしてたらさ、
   『今今さん、どうかしましたか?』って、近寄ってくるんだよね。
   『は、はぁ。ちょ、ちょっと熱っぽいかも・・・』って言ってちょっとむこう向くと、
   『ほんとに大丈夫ですか!?』って、ますます俺に近寄ってくるんだ。マイッタヨ。
   エレベーター降りる頃には、ナースにほとんど背中向けてたもんね」
TOY「がははははははは!そりゃ、ナースにしてみりゃお仕事ですもの。具合が悪いって言ったら、
   側に寄ってきますって」
今今「ぐぅはっ、、、ぁ、、、そうか。そーだよね。今度から注意しよ」
TOY「ってーか、おとなしくしてたほうがイイんじゃないっスカ?飲食。早期退院のためにも」
今今「…うぅ〜〜〜〜む…そーいう意味では『カァチャン』に一番迷惑かけてんだよな、俺」
TOY「ま、まぁ、そうなんでしょうねぇ…」
今今「いやね、通り一遍の意味じゃなくてね…こんなビョーキで、こんな体たらくで、
   ハズカシナガラ…ウチのカァチャン、『栄養士』やってんだよ。別の病院だけど…」
   

 ょいと長くなってしまいましたが、これでも『今今さん』のエピソードの一割にもなりません。入院中の間食、飲酒の量はまさにハンパではなく、病院関係者にとっては悪夢そのものであろう『今今さん』。もちろん、病棟内での飲酒が見つかれば即退院ですが、さすがに病棟内では慎んでらっしゃるようでした。それでもなんというか・・・この豪放磊落な言動とは裏腹に、奥様への愛情をどことなく感じたのでありました。

 れまでの人生で、頭はパーではあっても「とりあえず身体だけは健康」というセールスポイントをどうにか保持し続けてきたワタクシ、入院経験と言っても記憶にもない0才児の時の手術、そのあとは6才だか7才だかの時に扁桃腺を切るという、病気でもナンでもない理由のためにに4〜5日入院しただけで、それ以降は「ケガや病気で入院」という経験は一度もしたことがないのでございます。

 ういう「入院経験欠如」のワタクシから見ると、何となく「入院」という言葉にはどことなく誘惑的な響きがあるのでございます。にゅういん…白いシーツの上でウトウトと過ごすけだるい午後…時々廊下から響く靴音と、医者を呼ぶアナウンスの声…世間からも修羅場からも隔絶された安心感…ああ…‥・・ハッ!失礼致しました。つい現実逃避の世界に耽溺してしまいました。

 かしまぁ実際問題として、入院なんてしない方がいいわけでございますし、仮にしなければならない状態になれば極力短い方がいいのもまた当然。しかし「今今さん」の場合、入院中ですらその有様ですから、退院して自宅に戻ればたちまちまたタガの外れた食生活に戻るのは必定。実のところ、栄養士である「今今さん」の奥様も「あんな言うこと聞かないアホ亭主は病院に収容してくれた方がセイセイする」と考えているのではないかという気もしてまいります…。TOY様、このたびは投稿ありがとうございました。

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