Stories menu

外伝1 ホモノビッチ・ストガノフの冒険


「き、貴様、我々を帝国の兵と知っての狼藉か…」
 なおも続けようとする男の首が宙に舞った。
「ひええ…」
「覚えておけ。俺の名はホモノビッチ。ホモノビッチ・ストガノフだ」
 仁王立ちの男が名乗りを挙げると、周囲を囲んでいた兵達が一斉に逃げだした。

「ゲボロキン、どう思う?」
 将軍はどくろの杯をあおりながら訊ねた。
「奴はこの女を探しているのでしょう」
 ゲボロキン・ヘドロリッチは女の股間をなぞりながら言った。
「どうだ、ズボアナ。ホモノビッチがおまえを探しているようだぞ」
 ズボアナと呼ばれた女は、鎖で繋がれた両手、両足を震わせた。
「あなたは人間じゃないわ。ペヌスボッチ」
 ズボアナは将軍を睨みながら言った。
「お褒めに預かり光栄至極に存じる」
 ペヌスポッチは、ズボアナのアヌスとヴァギナに指を射し込みながら、鼻の穴に舌を差し込んでいった。

 その頃ホモノビッチはゲボロキンの屋敷に忍び込んでいた。
 屋敷の天井裏を忍び歩く内に前方に差し込む光が見えた。
 そこから下を覗くと、ベッドに可憐な少女が無防備な姿で休んでいるのが見える。
「ゲロ−ニャ!?」
 ホモノビッチが思わず呟くと、少女は、はっとしたように周囲を見回した。
「ホモノビッチ様?」
「ふっ、気付かれたか」
 音も無くその寝室に降り立ったホモノビッチは、股間の物をそそり立たせ仁王立ちとなった。
「あぁ、これは夢?それとも、ホモノビッチ様恋しさにあたくしの気が変になってしまったの?」
 ゲロ−ニャはホモノビッチの隆々たる男根をじっと見つめながら独りごちた。
「夢ではない。ゲロ−ニャよ。これは現実だ。そして俺は本物のホモノビッチ・ストガノフだ」
 ホモノビッチは己の逸物を隠そうともせずに、彼女に近づいた。
 ゲロ−ニャは彼の存在が現実であると悟ると、己の露れもない姿に狼狽し、羞恥に頬を染めた。
「ホモノビッチ様…」
 いつになっても羞恥心を失わないゲロ−ニャに、愛しさを覚えつつ、彼は彼女の鼻を摘むと、自分の逸物をくわえさせた。
 ゲロ−ニャは、口一杯に頬張る。その可愛らしい口許から、一筋の唾液が零れた。
 ホモノビッチは彼女の髪を掴んで揺さぶりながら訊ねた。
「今夜のソルンの警備は?」
「はふほ、ふむんん」
「おっと、こいつは済まなかったな」
 やさしく微笑みながらホモノビッチはゲロ−ニャの口から少しずつペニスを抜き出していった。
「…ソルンの警備は普段通り、ペヌスボッチ将軍はあなたがまだコル付近にいると考えているようですわ」
 唇を舌でゆっくりと舐めながらゲロ−ニャが答えた。
「ただ、兄が…。ゲボロキン兄様だけは、あなた様はいつ現れれるか知れないって。将軍にもそう上申していたみたいですけど、将軍は全然取り合ってくれないってあたくしにもこぼしていました」
 ゲロ−ニャがそう言い終わると同時に、ふたりの恥ずかしい姿を全て浮き上がらせるかのように部屋の明かりが点いた。
「妹に何の御用かな。ホモノビッチ君」
「ゲボロキンか」
 とうに気付いていたのだろう。突然のゲボロキンの出現に慌てもせず、ホモノビッチは逸物を仕舞う。
「久しいな」
「ああ、カルン城落城以来だ」
 二人は敵同士であるにもかかわらず、昔そのままに挨拶を交わした。
「あのころとは立場は変わった」
「カルンの二大騎士団の一つ、赤騎士団の師団長は今やゼク−トの犬となったか」
「そして、黒騎士団の師団長はお訊ね者という訳だ」
 ホモノビッチの刺のある言葉に、ゲボロキンは自虐的な笑いを浮かべた。
「姫は無事か?」
「ああ。ペヌスボッチのおもちゃにされているがな」
「姫まで悪魔に売り渡した気分はどうだ。いい気分だろう」
「王族で生き延びているのは姫だけだ。その苦労は分かってもらえてると思っていたんだが」
「やめて、お兄様。ホモノビッチ様も」
 ゲロ−ニャが2人の会話に割って入った。
「どうして、どうしてこんな…」
 声もなく身を震わせるゲロ−ニャを見下ろすとホモノビッチは一言呟いた。
「すまなかった、ゲロ−ニャ」
 ゲボロキンも束の間、妹を痛ましげな目で見ていたが、すぐに背後の兵士達に命令を出していた。
「ホモノビッチを連れていけ、例の部屋だ。途中、くれぐれも目を離すなよ」
 ホモノビッチが連れ去られた後、部屋の中にはゲボロキンとゲロ−ニャの2人だけが残った。

 ゲロ−ニャはまだベッドに顔を伏せたままである。
「どうした、ゲロ−ニャ。ホモノビッチはもう行ってしまったぞ」
 そう呼びかける声の調子には、先程ホモノビッチと会話していた時とは明らかに異なるものが混じっていた。
 その声を聞いたゲロ−ニャの肩がびくんと動いた。涙を拭いもせず、兄の方に向き直る。
 見つめあったふたりの間には兄妹のものとは明らかに違うものがあった。恋人、というものでもない。従わせるものと従うもの、そう言う感じである。
 ゲロ−ニャの顔には明らかに怯えの色が浮かんでいた。しかし、その瞳には不安とは別種の、ある意味でひどく淫らな期待感のようなものも伺える。それは、今のゲボロキンの声に混じっていたものと同種のもののようだった。
「残念だったな、もう少し楽しみたかったか?」
 ゲロ−ニャが唇を噛みしめたままベッド上で僅かに後ずさる。
「お兄様…」
 そこへゲボロキンがずいと近寄った。
 もう後のないゲロ−ニャは、兄から逃れようとベットを立ち上がりかけた。そのか細い両手首をゲボロキンの大きな手が掴んだ。
「あっ」
 声を出す間もなくベットに押し倒される。ゲボロキンは彼女の手首を彼女の頭の上で押さえ込んだまま、彼女の上に覆い被さった。
「だめ!お兄様!!」
「ゲロ−ニャ、私を救ってくれ」
 背徳の行為に無上の悦びの表情を浮かべた兄の口からは、その表情とは裏腹に絞り出すような悲痛な声がした。
(お兄様…)ゲロ−ニャは身体をまさぐる兄の卑猥な手に歯を食いしばりながら、あの日の事を思い出さずにはいられなかった。
 あの日、初めて身体を奪われた時、まるで何かに憑りつかれたように荒々しく彼女の身体をむさぼった兄。
 それから3か月後にカルンの城が落城したのも、兄の手引きのおかげだったとここの兵達が話しているのを聞いた。
 あんなに誇り高い騎士だった兄が一体どうしてしまったのか。
 最近では初めのころの様に荒れ狂いながら彼女を犯すということは無くなってきたが、その偏執的な責めはより深いところで兄の精神が変質してきたように感じさせる。
 彼女自身も最初は死まで思い詰めたのに、2度目以降は徐々に心の何処かが麻痺してきたのか悦びすら感じるようになった。
 それだけではない、いつしか心の隅で兄の来訪を待ちわびている自分に愕然となることもしばしばだった。
 今では、一旦事が始まってしまえば、兄のどんな屈辱的な要求だろうが応じ、いや自分から尻を振ってせがむ程の乱れようを見せる彼女だった。
「あぁ、お兄様!そ、そこは…あぉおおお」
 言葉とは裏腹に、ゲロ−ニャの秘部は既に兄のものを迎え入れようと熱い泉を溢れさせているのであった。

 何も無い部屋だった。机、椅子、それどころか窓さえもなく、ただ白い壁、床、天井が有るだけだった。
 「ここで待っていろ。後で面白いことがある。」
 兵士はそう言うとドアを閉めて出ていった。
 するとどうしたことであろう今閉めたドアも壁に溶け込むように消えてしまったのだ。
ホモノビッチは白い世界に閉じ込められてしまった。
 やがて…
 どれくらい時間が経ったのだろう。白い世界は確実に彼から現世の時の刻みを奪いつつあった。
 無意識に己の呼吸を数え、時を計る。そうしないと意識の矛先が限りなく散漫に拡散していってしまう。それは砂漠の砂の数を数えるが如く、気力を消耗させる過酷な責めであった。
 部屋の中心であぐらを組み、静かに座するホモノビッチ。
 部屋中に拡散した気の一部に何か触れるものがある。彼は微動だにすることなく、その`何か`がゆっくりと彼に近づくのを待ち受けた。
 薄く開いた視界に、天井から降りてくる肌色の霧を捉える。
 やがてその霧は彼の周囲を取り巻くようにまとわりついた。鼻孔を微かに甘い、だが淫猥な匂いがくすぐる。
(ぐっ!?)
 匂いが鼻孔から身体に侵入した途端、ホモノビッチは己のペニスがこれまで経験したこともない程勃起していくのを感じる。
(面知れえ)
 意識を下腹部に集中する。だが、ペニスは硬くしたままの状態を保つ。
 霧が下半身を包み込む。ひんやりとしているが、触れた所は湯を浴びたように熱くなり、あるかなきかの如き感触は、美女のたおやかな指に撫でられているような、あるいは乙女のつつましげな唇に優しく口づけられたような感覚を呼び起こさせる。並の男なら5秒ともたず射精するであろう快感が彼を襲った。
 しかし、ホモノビッチは快楽に顔を歪めもせず目を閉じたまま、静かな岩の如く微動だにしなかった。

 何処かで誰かが嘲笑の笑みをもらした。本番はこれからだぞ、という意味をホモノビッチに届けるためにわざと見せた、邪悪な意思が明白に感じられる気配だった。
 肌色の霧が彼の腰を中心に渦巻き始めたのが判った。
「おぅ…」
 思わずうめき声がもれた。勃起したペニスの尿道に霧が侵入してきたのだ。
 ほとんど同時に彼の耳に微かな声が聞こえはじめた。
「…ビッチ…ホモノビッチ殿…」
(ズボアナ姫!?)
 忘れようもないそれはかつての彼の主君の娘、そして今は命にかえても彼が助け出そうとしている女性の声だった。
 だがその声には彼のついぞ聞いたことも無いような甘いものが混じっている。まるで別人のようであり、また紛れもないズボアナ姫本人のようとも思えた。
 それはやがてはっきりと彼の耳に意味を持った言葉として響きはじめた。
 耳元で囁くその声は、ホモノビッチの知る姫ならば耳にしただけで顔を赤らめ俯いたであろう卑猥な言葉を紡いでいた。
「ホモノビッチ殿、愛しいお方。おお、おちんちんがこんなに硬く立派に…」
 続いて彼のペニスをそっと何者かの手が包みこむ感覚が伝わった。先ほどの霧とは異なる、確固とした生身の人間の掌の感触である。
 そのまま優しく撫で上げていく。
 快感自体は前の霧の方が遥かに大きいはずだ。
 それなのにホモノビッチの意識に動揺があらわれていた。
 目を開いて声の主の姿を確認しようとする。
 だが、彼の目蓋はぴくりとも動かなかった。それどころか、全身の自由も効かない。
(ぬぅっ…)
 どうやら今のほんの少しの動揺の隙をつかれて、麻痺の呪縛をかけられたらしい。
「いいざまね、ホモノビッチ・ストガノフ」
 新たな人物の声が部屋の中に響く。先ほどの嘲笑の主だ。
「所詮、前評判ほどの男ではないということね。ふん、そいつの目蓋を開いておまえの姿を見せておやり」
「はい、お姉様」
 指がそっと彼の目蓋を開いていく。
(ズボアナ姫…)
 息のかかる程近くにあるその顔は、確かに彼のよく知るズボアナ姫であった。
 だが、その顔に浮かぶ微笑みの何と淫らなことか。
「ずっと、ずっとあなたのこれが欲しかった。待っていました…」
 そのまま顔を下げると、彼のペニスに頬ずりをし、舌を使い、口中に含む。
 ホモノビッチの顔が微かに苦悶に歪んだ。
 その彼を嬲るように声が響いた。
「その姫が本物かどうか判らないようだな」
「教えてやろう、そこにいるズボアナ姫は実体ではない。あたしの妖霧で再構成した仮の肉体。でも、そこに宿っているのは正真正銘本物のズボアナ姫の魂さ」
 声の響いている最中もズボアナ姫の行為は続いていた。
 唇による愛撫は既に下半身から上半身に移りつつある。ホモノビッチの鍛えぬかれた腹筋に密着したその胸で豊かな乳房はつぶれ、下肢は彼のたくましい太股に絡みつき、すりよせられていた。
 その感触はとても仮のものとは思えない、生身の人間の艶めかしさそのものだった。
 彼の目の前に再び姫の顔が近づく。その舌は彼の唇を割り、彼の舌を求め、淫らに動いた。
「楽しそうだねえ。感謝してもらおうか、あんたに対する姫の気持ちは本物だよ。我が術で自分の欲望に対して忠実になっているだけさ、もっとも今のそいつならどんな男だっておまえに見えて股を開くけれどね」
 苦悶に歪むホモノビッチの顔に別の色が湧いた。
 怒り、だった。
 全身の筋肉が盛り上がり、血管が浮き出る。
 ぎりっと奥歯が軋む。
 麻痺し、ぴくりとも動かない両腕に凄まじい力がかかっているのが、端からでも見て取れる。
 笑いを含んだ声が彼に浴びせられた。
「無駄だ、お前程度の力では…」
 だが、嘲りの言葉の後半は遂に発せられる事無く終わった。
 代わって同じ唇から出てきたのは怨嗟の呻きだった。
「貴様…」
 声は己の術が破られた屈辱にまみれていた。
 ホモノビッチの指が、腕が徐々に上がりつつあった。
 両手が姫の頭に触れる。
 全身の力をそこに込めているはずなのに、その掌は無限の優しさを込めて姫の顔を包んでいた。
 なおも彼の唇をむさぼる姫の顔を、そっと引き離す。
「姫…」
 何も判らぬ風に彼に微笑みかけるズボアナ姫の瞳から視線を外すと、ホモノビッチは宙を見据えた。
「…許さんぞ…」
 今度は嘲笑の言葉は返ってこなかった。代わりにホモノビッチの周囲の空間に緊張が走る。
 相手が何かの攻撃を仕掛けようとしているのは明らかだ。
 だが状況はホモノビッチに圧倒的に不利であった。
 身に纏う武具は一切無く、全身を覆う麻痺はいまだ彼の力を奪いつづけている。
 それでも、その瞳の色は絶望や諦念からは最も遠く、引き締めた口元に我知らず浮かぶ笑みは不敵の一語を具現化したかの如く見えた。

 緊張が極限まで高まる。

 その時だった。
 何処か遠くの方から低い轟きのようなものが伝わってきた。
 同時に彼を取り巻く、姿無き魔術士の殺意が薄れる。
「これは…」
 見る見るうちに目の前の姫の姿が溶け崩れていく。
 思わず手を差し出したが、指は虚しく霧の残滓を掴んだだけだった。
 どうやら術者が何か動揺する事態が生じたらしい。気がつくと身体も自由に動いた。
 脱出の好機だった。
 既に周囲は何の変哲もない、ただの飾り気の無い小部屋に戻っている。
 すぐにどこの部屋か判った。勝手知ったる城内である。先ほどまでは、あの霧のせいで方向感覚を狂わされていただけだ。
 扉のところまで行くと外の様子をうかがった。当然扉の錠はおりている。
 遠くで人が走り回る音がする。何かを叫んでいるようだ。
 どうやら城内でなにやらひと騒ぎ生じたらしい。
(反乱軍か?しかし、この時期に計画されている奇襲の類は聞いていないが)
 もちろん、反乱軍のメンバーで、ホモノビッチが現在カルン城内にいることを知るものはいないはずだ。
 事前にそのようなことを言えば、必ず止められるからだ。
 以前からカルン城潜入については何度も参謀格のベシャルゲと話し合っては、その度に諌められてはいた。それも、ホモノビッチが強情に自分が行くと言い張るからである。
 カルン落城時帝国軍に捕らえられて以来、消息の知れぬズボアナ姫の安否を彼はどうしても自分の目で確かめたかったのである。
 がこん、と音がして扉が外れた。城内の構造を知り尽くしているホモノビッチにとっては何という事もない作業である。特に補強もしていなかったのは、術者に頼りきっていたせいだろう。
(さて、これからだが…)
 姫の命にも、とりあえず差し迫った危険はないようだ。もちろん、さきほどの状態で姫が囚われていることには怒りが湧く。
 しかし、今のところ帝国も姫を害そうというつもりはないらしい。
 囚われている場所も判らぬ現状では、無事を確認しただけで良しとすべきだろう。
 これ以上の深入りをせずに脱出する決心をしたホモノビッチは堂々と、しかし細心の注意を尽くして廊下に歩みだしていった。


 カルン城の一角から立ち登る紅い炎が、城下の街並みを照らし出していた。
 城を含め、ソルン全体が喧騒に包まれている。
 そんな様子を、ソルンの街を見渡せる小高い丘から見つめる騎上の一団があった。
 何れも闇に溶け込むような黒いマントを纏っている。その数4人。
 その内の一人がどうやらこの一団の首領格らしい人影に馬を寄せた。
「カルン城より発していた魔術の気、途切れました。ホモノビッチ殿もこれで何とか出来ましょう」
「何とか出来ねば、死ぬだけ。我らに何の関係もない」
 どうやら魔術師らしい先の男の言葉に、男は冷たく答えた。
「そなたが妙な魔術の気を読むから、余計な仕事が増えたではないか。しかしそなたも流石だな。他人の魔術の気を盗聴できるとは」
「さほど強力な魔術師ではないのが幸いしました」
 さりげなく答える魔術師だが、首領格の男は内心舌を巻いていた。如何に能力の高い魔術師とは言え、他人が行っている術の内容を読む事は容易に出来る事ではない。伊達にアクリス戦役を生き残った訳ではない、という所か。
 その時背後に控えていた2人の内一人が囁いた。若い女の声だった。
「隊長、そろそろ引かないと警備の者に見とがめられますわ」
「うむ」
 男は返事を返したが動く気配は見せない。
「あの二人が心配と言うわけですか」
 最後の一人が口を開いた。老練さを感じさせる少し低い声。
「新米と見習いの女騎士二人。どうやら仕事は済ませたらしいが、無事戻ってこれるやら」
 女がクスリと笑った。
「極秘任務に子供のおもりまでとは隊長さんも大変だわ」
 今度は3人とも笑う。
 一人隊長と呼ばれた男だけが笑わなかった。
「そう馬鹿にしないほうがいいな。少なくとも見習い騎士は、あの琉華騎士団長フロリア・アクレスの妹なのだから」
 遠くから二頭の馬が近づいてくる音がした。
 全員がその音の方を見る。
「シリア・アクレス、か…」
 何となく女の口から洩れた呟きは、次第に大きくなる蹄の音に流されていった。

 北のシェンフ山脈と南のカンシェン山脈、二つの山脈により分断された大陸の東側はその温暖な気候から、古くから文明が栄え、滅んでいった。
 特に北のスーオンから南のアクリスに至る地域は中原と呼ばれ、由緒ある生い立ちの古い国家が多い。
 なかでもスーオンとアクリスは中原の二大大国として君臨していた。もっともスーオンはすでに昔日の姿はなく、多くの属州が国家として独立するのを許してしまっている現在、中原の中心はアクリス一国。
 そのアクリスも西に起こったデロス帝国との半年前の激しい戦いで国力のほとんどを使いきり、影響力は無くなったに等しい。
 中原に大侵略を行ったデロス帝国はアクリスに破れたとはいえ、未だ中央西部のルゴンやアクリスの南方諸国カルン、ハンニル、ルコスドカルハの一部を占領して、機を伺っていた。
 今中原は混沌とした情勢にある。

 ゲボロキンの屋敷をやっとの思いで脱出したホモノビッチは、追手を振り切りソルンの街外れまでたどり着いた。
 城から立ち登る炎に照らされた市街を何度か振り返って見る。未だズボアナ姫に未練を残す自分に苦笑しながら、彼は馬を進めた。
 森に続く道に入ったところで、突然現れた黒ずくめの集団に囲まれた。
「何者?」
 鋭く叫びながら、彼は己の油断を呪った。
 前後左右、一分の隙もなく囲む六人。如何に油断していたとはいえ、見事に気配を消していた彼らはただ者ではない。
「ゲボロキンの手の者か」
 剣を構えるホモノビッチに、正面の男が近づいた。
 余りにも無防備に近づいてくる男に、彼は戸惑う。
「元カルン黒騎士団長、ホモノビッチ殿に話があって参った。非礼を許されよ」 男は相変わらず無防備のまま、話しかけてきた。
「ここでは落ち着いて話も出来ぬ。こちらへ」
 男はそれだけいうとさっさと馬を返して進み始める。
 どうする。
 ホモノビッチは一瞬躊躇した。
 斬り抜けるか。
 剣の柄に手を掛ける。
 背中に殺気が当たった。彼の後ろについた2騎が漏らした殺気だ。
 フッ。
 ホモノビッチは剣の柄から手を離すと、静かに馬を進めた。
(恐い連中だ)心の中で呟く。後ろの二人は恐くない。何とか殺れるだろう。まったく殺気を見せなかった残り4人が恐い。
(今夜はまったく面白い事が続くものだ)一人感心しながら前の男に続く。
 やがて一行は森の中の寂しげな廃屋に着いた。どうやらここが彼らのアジトらしい。
 男が一人見張りに外に出た他は、全員が中に入った。
 どうやら女らしい一人が携帯用のランプに火を灯し、壁にかけた。ほんのりとした光が部屋に差した。
「で、何のようだ」
 全員がテーブルを囲むように席に着いたのを見届けると、ホモノビッチは重い口を開いた。
「伊達や酔狂で俺を捕まえたのではあるまい」
 刺のある言葉にも、彼らは動揺一つ見せない。
 やがて上座に座った男がマントのフードを脱いだ。
 左目に剣の傷跡。銀色の髪は短く無粋に刈り込まれ、碧色の鋭い目をしている。顔には左目の他にも小さな傷跡がいくつか残っており、この男の過去を如実に物語っていた。
「まずは非礼をお詫びする」
 そう言ってその男は深々と頭を下げた。
「我々はアクリスからある任務を果たすために参った。貴公にその手助けをお願いしたい」
「ほう」
「無論我々の方も貴公に出来るだけの協力はするつもりだ。見れば貴公も孤軍奮闘ようだが」
「むう…」
 ホモノビッチはこの突然の申し出に戸惑った。確かにまだ反乱軍の勢力は微々たるものである。アクリスの支援を受けれれば、飛躍的に勢力を伸ばす事は可能だろう。だが無条件にこの男達を信じて良いのか。
「ホモノビッチ殿はどうやらお迷いの様。名乗りも上げぬ相手には当然の事では?」
 男の隣に座っていた女が男に語りかけた。
「これは失礼した。こちらが名乗るのを忘れていた。私はアクリス近衛騎士ザメール」
「同じくアクリス近衛騎士オルガ」
 女はフートを脱ぐとそう名乗った。残りの3人もそれに続いてフードを脱ぐ。
 オルガと名乗った女は栗色の長い髪の毛を頭の後ろで結わえていた。面長の白い顔に少し淫らな笑みを浮かべている。切れ長の目、瞳は栗色。典型的なアクリス美人と言ったところか。
 次に口を開いたのはオルガの対面に座っていた優男だった。額の銀のサークレットが鈍い光を放っている。これといって特徴はないが、酷く不健康そうに見える。
「私は白の塔聖導師ルィ。高名な騎士にお目にかかれて光栄です」
 白の塔の聖導師といえば、すなわち中原屈指の魔術師を示す。先のアクリス戦役でかなりの聖導師が死んだと言われている。その魔術師が敵地のど真ん中と言ってよいカルンに潜入するとは、余程訳があるに違いない。
「残りは私が紹介しよう。彼女がシャル、そして最後がシリアだ。それから今表にいるのがオリビェロ。いずれも近衛騎士だ」
 ザメールが簡単に説明していく。
 シャルと呼ばれた女はまだ二十歳を越えない娘だった。やはりアクリス系の愛敬のある顔をしている。物腰もまろやかで、ここに揃ったメンバーの中ではさほど目立たないが、まあそこそこの美人と言ったところ。
 それに比べると、最後のシリアという娘は格段の差がある。歳の頃はまだ15、6そこそこだろう。まだあどけなさの残る顔は、それでも充分に見た者を唸らせるほどの美少女だった。
 少し赤みがかった長い髪は器用に編まれて右の首筋から前に垂れている。つぶらな瞳はほとんど赤に近い。シャルと同じように少しおっとりとした印象を与えるが、時折はっとさせるような鋭い視線を投げかける。
 少しの間彼女に見とれていたが、ザメールの咳払いに慌てて視線を戻した。
「我が国の恥を曝すようだが、王宮よりある機密の文書が帝国の手の者に盗み出された。出来れば内密に事を済ませたい、との王の思し召しにより我々が派遣されたのだ。我々が得た情報では、その文書は現在カルンの城内にあるらしい」
 ザメールはぐいと身を乗り出した。
「そこでだ。城内に間者を送り、その文書を奪回したい。今だ城内に既知の者の多い貴公に是非協力をお願いしたい」
「どうやって城内に潜り込む」
「今カルンにはアクリスから連れてこられた女奴隷が多いと聞く。城内にも大勢のアクリスの女奴隷がいるはず。そこに紛れ込ませる」
 事も無げにザメールは言った。
 確かに現在カルンにはアクリスからの奴隷が多い。美人の多い事で知られるアクリスから浚われてきたのだ。
 道理でこのパーティに女が多い訳だ。
「確かに可能だが…」
 ホモノビッチは言葉を濁した。シリアという少女に視線が行く。こんな少女までそんな任務に使うのか。
「シリアは連絡要員だ。まだ彼女は見習い騎士なのでな」
 ホモノビッチの心を見透かしたようにザメールは言い足した。
「潜入するのはオルガとシャル、そして私が奴隷商人として入り込む。そして脱出の際にシリアとオリビェロがサポートする」
「手を貸してくれると言ったな」
「無論」
 ザメ−ンは力強く頷いた。
「我々は恩知らずではないし、協力者に報酬は惜しまない。例えばだ・・・」
 ザメ−ンが言葉を途切らせた途端、ホモノビッチは股間の逸物を生暖かいものが覆うのを感じた。そういえば城からずっと裸のままだった。
 股間の逸物は根元まで覆われていた。
 赤く陰らな物がホモノビッチの逸物の上を動く。
 女の唇だ。
 音を立ててホモノビッチを啜っている。
 テーブルの下には誰もいない。それは確かだ。
 ホモノビッチはテ−ブルについた面々の顔を見渡した。
 視線がシャブリナの上で止まる。
 その唇は妖しく動いていた。まるで何か棒状のものを大きく口にほおばっているかのようだ。
 ホモノビッチの物に加えられる刺激と、その動きが同調しているのがはっきりと判る。 唾液がつっと一筋テーブルの上に落ちた。うっとりと目を閉じたシャブリナが、頬を紅潮させながら唇の前に手を添える。
 ホモノビッチは口許をゆがめたまま、他のパーティーの面々の顔を見回した。
 ザーメン・ヌメナメズが、万事承知の訳知り顔で頷く。「伏せ字」は相変わらず無表情、ズロベナは誘うような笑みをうかべ、もっとも年若いフェラはそ知らぬふりを装っている。
 シャブリナの技巧は、絶妙だった。ホモノビッチに堪える気がないため、硬く大きな逸物にくわえられる刺激は、ますます強く激しくなっていく。
「身体で、礼をしてくれるというわけか」
 ホモノビッチは、その偉大な逸物でテーブルをもちあげながら、平然として言った。
「だが、この俺を満足させられるかな?」
 むんと突き入れた。
 キュルキュル。
 亀頭がテ−ブルの裏をきつく擦った。
「ごふっ!」
 女が思わずむせかえる。
「けほっけほっ」

Stories menu