第4回

迷妄の魂よ、大悪業の恐怖を知れ

亡国日本の悲しみ

--- 既にどうでもよくなってしまったけど ---


この本について

書名
亡国日本の悲しみ
初版発行
1995年5月18日
著者
真理の御魂 最聖 麻原彰晃尊師
発行者
松本知子
石井久子
発行所
株式会社オウム

先日、久しぶりに金沢市内に出て香林坊109 内の「書林」という大きめの書店に行った。 この書店、なかなか宗教関係やオカルト、ニューエージ、ニューサイエンスな んかが充実していて(新宿の紀伊国屋書店より充実しているかもしれない)驚い た。J.C.リリーだC.ウィルソンだ、和尚(バグワン・シュリ・ラジニーシ)だ... いやーすごい、すごい。 特に驚いたのが、東京の大型店ではなかなか見ることのできない オウム出版の本が数冊あったことだ! こんなことに驚かなきゃいけない現状というのが、かなり間違ってると思うが、 まぁ、この書店には拍手を送らざるを得ない。

ここで、私は買いそびれていた太田出版の それでも心を癒したい人のための精神世界ブックガイド を買った。この本でも麻原の 超能力秘密の開発方イニシエーション麻原彰晃の世界日出づる国、災い近し、 青山の 理想社会 とオウム関係本が5(/43)冊も取り挙げられている。 スタンスの違いがあるとはいえ、こうなると私などの出る幕ではない。 本職の文芸評論家とは知識量、分析力とも力の差がありすぎる。

そして、最近のオウム裁判である。ニュースを見聞きする度にオウム教団のそ の幼稚さに悲しくなる。当初からその幼稚さは十分認識していたつもりである のに....。もう少しオウムそのものに深さや考えさせられる点があるかと思っ ていたが、どうやらそれは私の思い過ごしだったようだ。これでは、オウムを 知るためには、社会状況やら、その他もろもろのこととの関係からオウムを読 み解いていくのでなければ、あまり得られることはなさそうだ。

...まぁそんなわけで、既にオウム本に関しては、感想をページに載せて読ん でもらうということにあまり意義を見出せなくなっている。もうどうでもいい 感じだ。 とはいえ、放っておくのはあまりにも無責任なので、一応感想をだらだらと書 いておこうとは思う。

さて、本書であるが、強制捜査後出版された本としてマスコミにも大分とりあ げられたし、書名と表紙を覚えてる人も多いだろう。しかし、出版時既に多く の書店からオウムの出版物が消えていたこともあり、実際に目にした人はそれ ほど多くはないんじゃないかと思う。

簡単に中身を紹介しておこう。章建ては

  1. 神々の怒り
  2. 死について
  3. 憲法論
  4. オウム真理教の実体
  5. 日本の運命
となっていて、巻末付録として
  1. 神聖な若芽を踏み潰そうとする、巨大な勢力
  2. 大川隆法の苦悩
というのが付いている。

基本的な形式として、まず麻原が説教をし、それを補足する意味でオ ウム真理教パーリ聖典翻訳チームによる仏典のエピソードが書かれ、さらにそ れについて説教や補足資料が続くというふうになっている。 内容に関しては、カルマの法則をベースにしたオウムの正当性を主張するご都 合主義的な内容で、とくに語るまでもない(要するにオウムバッシングする ものは地獄に落ちるってやつね)。 だいたい、オウム訳の経典がご都合主義すぎて笑って しまう(まぁ、どうご都合主義的かは、細かく見ていくといろいろ面白い点 もないではないのだが)。大衆的オカルト本からの引用も多い。 要は自らのカルマの思想と「と学会」が笑い飛ばしてくれた各種陰謀論とを結 び付け、それをベースにオウム批判に対抗しようとしているわけだ(-.-;)。

初期オウム本から受けるクリアな感じ、ヨガと仏教を指向しつつも、例えば阿 含宗の霊障がどうのというような宗教の持つダークな負のプレッシャの少なさ からは一変している。 よくマスコミでも取り挙げられているけど、初期からは完全に変質している。 閉鎖的な環境の中で、麻原のネガティブな欲望がどんどんフィードバックされ、 こんな感じで現れたんだろう。初期の麻原や教団の言動は、ある程度は新宗教 という枠組みの外部に働きかける力(それは前述のクリアである点とも繋がる が)を持っていたようだが、この本においては、自らが作り上げたフィクショ ンに取り込まれてしまっていて、感覚がマヒしきっている。傑作なのは、アシ モフのSF、ファウンデーションを取り上げ、オウムの「シャンバラ化計画と は仏教的ファウンデーションのこと」として比較検討なんかしている点だ。 ガキの妄想ここに極まれり。オウムってなんなのか端的に表してる。 亡国日本の悲しみじゃなくて亡国オウムの悲しみなーんてね、最初に読んだ時 は、ちとそんな風にも感じたりした。もうどーでもいいけど。

まぁ、結局しょーもない本なんだけれど、この本にもやっぱりそれなにり面 白い読み方はあるにはある。

この本は何かにつけて、幸福の科学、大川隆法批判を繰り返している。 で、まぁこれがわりと真っ当な内容(メインとなるのは、太陽の 法新・太陽の法を比較して、その矛盾を付くというも のだ)。

オウムの事件以降、あちこちで一部(と思うけど)の幸福の科学の会員の方が 勢いづいちゃって、積極的にオウム批判を(ついでに学会批判まで)やってい るようだけど、まぁこういう会員の方は、この本の幸福の科学批判を読んで、 それにキチンと反論できるだけの知識と自らの信に関する深い考察を行っ てから発言して欲しいものだなぁと。まあ、それぐらいの内容はある。つま り、幸福の科学の教えの概要とその問題点をてっとりばやく知ることができ るっていうメリットもあるにはあるわけだ。

もっとも本書、大川隆法の前世はたぬきだった。だから人のマネしかできない。 つー批判なんかもしている。それに対抗して、幸福の科学が自らの雑誌 Libertyで麻原彰晃の前世は石川五右衛門だったと応じるこの 状況は、もうとってもラブリ〜☆。

おめーら低次元の争いしてんじゃねーよ。
他の真面目な宗教さん達に迷惑だろうが。


岩間の好み度(5段階):☆
コメント:
つーわけでガキのお遊びなわけだ。んで地獄の沙汰も金しだい、 金もってるやつはすごいんだ。 だからっといって、 それでも心を癒したい人のための精神世界ブックガイドの p.55 あたりでもちょっと議論されてるけど、「大人にならなければいけない」っ ていうのは、短絡思考に過ぎるよなぁ。個人的な嗜好、内部から湧きでる思考 と社会との緊張感から生まれる一種の社会性をラジカルな姿勢で楽しみつつ対 峙していくって意味で大人になれつーなら、まだいいけど。大人になって、
大人のお遊びして、んでやっぱりこの世も金で、金もってるやつはえら いんだ
なんてことになるかもね。サイテー。

香林坊109

金沢の繁華街、香林坊にあるファッションビル。
この店、渋谷(の109)を意識しすぎ。レストラン街には、カレーのボルツとかパ スタの壁の穴とかある...。地方の東京指向とミニ東京化の傾向が如実に現れ ていて悲しくなる。東京がそんなにイイか?!ただ少し安心したのは、金曜の 夜に行ったにもかかわらず、レストラン街にはあまり人がいなかったことだ。
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