日本考古学協会第68回総会挨拶

 日本考古学協会の皆様、ようこそ東京都立大学においで下さいました。本学を代表して歓迎の挨拶をさせて頂きます。
 日本考古学協会の第68回総会を本学で開催して頂き誠に有り難うございます。1948年に設立され、50年を超える歴史と伝統を誇る日本考古学協会が本学を会場として選んで下さったことは誠に光栄でございます。本学は11年前にここ八王子市南大沢に移転して参りました。当時この地域は開発が始まったばかりで、あちこちで遺跡の発掘調査が行われていました。先生方の中にもこの地域の発掘調査に携わった方がいらっしゃるのではないかと思います。あの頃はバブル経済の末期で、東京都は巨費を投じて都庁と都立大学を同時に移転させましたが、今から振り返ると夢のような気が致します。移転して11年、この新しいキャンパスはすっかり落ち着きを見せてきましたが、目黒区八雲にあった旧キャンパスは再開発されて全く姿を変えてしまい、記念に残された片方の門柱以外にはかつての都立大学を偲ぶ物はなくなってしまいました。
 私は古代史が大好きで、登呂、岩宿、吉野ヶ里、志賀島、明日香村など各地の遺跡を訪れました。古代史は、僅かに残されている文献や伝説の解読と考古学による科学的・実証的な研究によって解明されるのだと思います。様々な批判があるにせよ、シュリーマンによって解き明かされたトロイの姿は、古い文献や伝説の価値を改めて認識させてくれます。また、「旧約聖書」の記述が考古学によって科学的・実証的に検証されたことも大変に興味深いことです。我が国の古代に関しても「魏志倭人伝」「古事記」「日本書紀」「風土記」など内外の様々な文献があり、そこに記述されている内容が如何なる史実を伝えているのかに強い興味を惹かれます。これらの記述に対しては様々な「説」が入り乱れていますが、私のような理系の人間には、科学的・実証的な裏付けがない限り如何に大先生が唱えたものであろうとも、「説」は説得力を持ちません。史実は唯一つです。私は考古学による科学的・実証的な研究に期待しています。「旧約聖書」の記述が考古学によって検証されたように、「魏志倭人伝」「古事記」「日本書紀」「風土記」などの記述が日本考古学協会の先生方の研究によって科学的・実証的に解き明かされていくことを期待しております。
 「どこそこの遺跡を発掘していたら BC123年と記された土器が出てきた」「頼朝公3才の時のシャレコウベが見つかった」というような罪のない笑い話があります。しかし、2000年11月5日に考古学界を襲った激震は大変な学問的損失であり、私も考古学に期待を抱く者の一人として残念でなりません。やはり発掘は「神の手」ではなく「人間の手」によってなされなければならないと思います。この件に関しては明日調査特別委員会からの報告があると伺いましたが、この総会を一つの区切りとして、旧石器時代研究の新たな発展を期待致します。
 皆様御存じのように、本学の人文学部には史学科があります。その中に考古学の講座があり、現在3名の研究者が在職しています。本学は現在、大変厳しい改革の嵐に見舞われていますが、この分野が益々発展することを期待している者として、皆様方の一層の御支援をお願い申し上げます。本学は少人数教育を特色にしており、大学院教育には特に力を入れております。大学院に他大学からの志願者が多いという実績は本学の研究・教育体制が評価されていることの現れと自負しておりますが、折角の機会ですのでこの席をお借りして、宣伝をさせて頂きたいと思います。先生方の所で大学院へ進学を希望している学生がいましたら是非都立大学の大学院をお薦め下さるようお願い申し上げます。
 このキャンパスは八王子市の外れにありまして、交通の不便を感じられた先生方もいらっしゃるかと思いますが、緑溢れる環境で有意義な大会を開催して頂ければ幸いと存じます。今日・明日は事務職員が出勤しておりませんので何かと御不便をおかけするかも知れませんが、本学の施設を十分御活用頂き、第68回総会が実り多いことをお祈りして私の挨拶と致します。本日は有り難うございました。
[2002年5月25日 東京都立大学講堂大ホール]