2000年度東京都立大学附属高等学校定時制卒業式祝辞

 皆さん、卒業おめでとうございます。本日ここに晴れの卒業式を迎えられたことを、父母並びに附属高校教職員の皆様とともに心からお祝いしたいと思います。
 本日卒業の日を迎えた15名の皆さんは、それぞれの事情と希望を持ってこの学校に入学されたことと思います。中には転・編入学して定時制に来た方もいらっしゃるでしょう。あるいは高校をいったん中退して、定時制に入り直した方もいらっしゃるかもしれません。様々な道を経て、あるいはいろいろな悩みをくぐり抜けて、今日見事ここに辿り着いた皆さんに、心から拍手を送ります。
 この学年は、入学時は2クラスだったけれども、様々な事情から幾人もの人が進路変更していった結果、2年生の時から1クラスになったと聞いております。初めは前途多難に見える滑り出しだったようですが、その後の話を聞いて驚きました。皆さんは勉強だけでなく、課外活動にも積極的に取り組み、東京都の定時制通信制芸術祭において、美術部門で金賞、銀賞に輝き、書道部門においても銀賞を獲得するなど見事な成績を残し、軽音楽のバンドを結成するなど文化活動が活発だったと伺いました。また、非常にクラスのまとまりがよく、修学旅行が出来なくなった代わりに奥多摩キャンプを自主企画してクラス全員が参加したと聞いて感動しました。皆さんの高校生活に思いを馳せると、多くの人が家に帰る頃、逆に坂を上って登校する日々は、辛いことや憂鬱なことも多かったかも知れません。しかし温かく見守り続けた先生方や仲間同士の絆を大切にするクラスメートに恵まれて、この4年間の高校時代を確かな手応えを感じつつ過ごしたであろうことを確信しました。4年間通った学舎とも今日で別れ、明日からは社会に巣立って行くことになりますが、今日受け取る卒業証書は汗と涙と様々な思い出で、手にずっしりと重いことでしょう。一生の宝として大切にして下さい。
 残念なことに、都立大学附属高校の定時制課程は、2年後に募集停止となることが決まっています。これまで多くの人々がこの学校で学びました。昼間の勤めが終わった後、仕事着のままで駆けつけた人、一度高校を中退したけれども再び学ぶために定時制に入り直した人、様々な人々がお互いに励まし合いながら人生の新たな進路を切り開いていったこの学舎は、本当に学校らしい学校として、数十年の歴史を重ねてきました。その歴史があと僅かで幕を下ろしてしまうのは、時流の変化とはいえ、大変寂しいことです。どうか皆さんの脳裏に、都立大附属高校定時制の記憶を刻みつけて下さい。
 ところで、歴史といえば皆さんはNHKの大河ドラマを見ていますか。現在放映中の大河ドラマ「北条時宗」に、皆さんの先輩が出演しているのを御存知でしょうか? 足利頼氏の役で出演している俳優の尾美としのりさんは本校定時制の第38回卒業生で、皆さんの先輩です。尾美さんは足利頼氏つまり足利尊氏の曾祖父という重要な役で出演しており、毎週日曜日に彼の活躍振りを見ることが出来ます。私は大河ドラマが大好きで毎週楽しんでいますが、彼は俳優の仕事をしながら本校の定時制で勉強し、卒業後もずっと俳優の仕事を続けています。彼は俳優という仕事が好きで、自分の仕事に誇りを持って精一杯やってきたのだと思います。その結果、認められて大河ドラマに出られるようになりました。皆さんも自分の好きなこと、得意なことに力を注いで下さい。「好きこそものの上手なれ」といいます。仕事は一所懸命誠意を持ってやれば必ず報われます。
 もう一つ教頭先生から伺った心に残る話があります。それは1月の寒い風の強い日に、前を歩いていた生徒が、店先から飛ばされた段ボールを追いかけて行って拾い集めて元通りに積み上げようとしていたという話です。私はこの話を聞いて、爽やかな感動を覚えました。最近はこのような「当たり前のこと」が出来る若者が本当に少なくなってしまっているからです。ここにはそういう心のやさしさと温かさを持った若者がいるということを知って、私は嬉しく思いました。皆さんはこの4年間に逞しく成長して今日の日を迎えたことを一生忘れずに、自信を持って明日からの人生を生きていって下さい。
 本日は本当におめでとうございます。
[2001年3月2日 都立大学附属高校]