1999年度東京都立大学附属高等学校卒業式祝辞

 本日東京都立大学附属高等学校を卒業する皆さんに心よりお祝いを申し上げます。皆さんは2000年という記念すべき年にこの附属高校を50回目の卒業生として巣立っていくことになります。2000は50で割り切れますが、このようなことは極めて希なことですから、是非記憶に留めておいて下さい。皆さんはこの先人生を歩んで行く中で、この八雲が丘の「自由と自治」を校風とする学校で学んだことを懐かしくかつ誇らしく思い出すことでしょう。
 皆さんは本校の卒業生が様々な分野で活躍しているのをよく御存知でしょう。大勢の先輩達が70年間かけて都立大附属高校の名前を高めて下さったお陰で、皆さんは胸を張って「私は都立大附属の出身です」ということができます。皆さんが母校の名前を言って下されば、ついでに都立大学の宣伝にもなりますから、機会ある毎に「都立大附属高校」の自慢話をして下さい。附属高校は都立大学より長い歴史と伝統を持つ立派な学校です。近い将来この学校は6年制の中等教育学校に生まれ変わることになっていますが、旧制の府立高校から都立大附属高校へ受け継がれ育て上げられてきた輝かしい伝統は新しく生まれる学校へと引き継がれていくことになります。母校の形が変わっても、八雲が丘で学んだ3年間が皆さんの生涯に大きな意味を持つことは間違いありません。誇りを持って力強く一歩一歩着実に歩んでいって下さい。
 ところで、ここ目黒区八雲の「八雲」という地名の由来を御存知ですか。学校の横の道を駅に向かって下りていくと氷川神社がありますが、そこには素戔嗚尊が祭られています。その素戔嗚尊は和歌の元祖だと言われていて、初めて詠んだ歌が「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣つくるその八重垣を」という歌だったことから、「八雲」という言葉は「和歌」の意味をもつようになり、氷川神社があるこの地も「八雲」という名で呼ばれるようになったということです。皆さんは3年間「八雲」の地で学んだことを何かの縁として、和歌や俳句などの日本文化に親しんで下さい。最近は至る所で「グローバル化」が叫ばれていますが、グローバル化の名の下に日本の伝統文化が忘れられることがあってはならないと思っています。皆さんの中には、将来海外に住んだり働いたりする人も少なからず出てくることでしょうが、国際化は自国の文化を土台にしてこそ成り立つものです。根ざす文化のない「根無し草」にならないように、いろいろな機会をとらえて自国の伝統文化を吸収することを積極的に行って下さい。
 それからもう一つ、提言したいことがあります。それは、サイエンスに強くなって欲しい、ということです。20世紀は科学が驚異的に進歩した時代であるといえます。ところが驚いたことには、中学生を対象にした国際教育調査によれば、科学に対して関心を持つ子供の割合は日本が世界最低だそうです。つまり「日本は最も理科離れが進んでいる国である」ということになります。21世紀は情報科学と生命科学が中心的な役割を演じることになるのは明らかで、理科があまり好きでないなどと言っている場合ではありません。既に遺伝子組み替え食品やインターネットによる買い物など、日常生活にどんどん最新の科学技術が入り込んできています。「遺伝子組み替え食品を食べると遺伝子に異常を起こす」などという現代の迷信を信じている人はいないでしょうが、正確な科学知識と情報機器を使いこなす技術を身につけていなければ、これからの時代に生き生きと暮らしていくことはできません。仕事の面でも、21世紀の社会の第一線で活躍するためには文系の人でもサイエンスにどれだけ強いか、ということがカギになります。どうか皆さんこのことを肝に銘じて科学技術に関心をもって下さい。
 あと300日足らずで20世紀が終わり、新しい世紀に入ります。卒業生の皆さんはこれからどのような道に進むにしても、附属高校在学中に培った人間性と素養をもとに、新しい時代に相応しい知性と行動力を身につけて自分の可能性に挑戦し、明日からの人生を力強く生き抜いていって欲しいと思います。21世紀を切り開いて行くのは皆さんです。期待しています。
[2000年3月10日 都立大学附属高校]