2001年度東京都立大学附属高等学校卒業式祝辞

 本日東京都立大学附属高等学校を卒業する244名の皆さんに心よりお祝いを申し上げます。また御列席の父母の皆様、教職員の方々にもめでたくこの日を迎えられたことをお喜び申し上げます。皆さんは1999年の4月にこの学校に入学し、2002年の3月に卒業の日を迎えました。まさに足掛け2世紀にわたる高校生活を過ごしたことになります。皆さんは明日からそれぞれの新らしい世界へと飛び立っていくことになりますが、この学校で学んだことや様々な行事で経験したことなどが智恵となり思い出となって生涯の支えとなるでしょう。1年生の時に実習で沼津へ行ったそうですが、柿田川湧水の豊かで清らかな水の流れを覚えていますか。2年生の時に修学旅行で行った沖縄の何処までも青くきれいな海は大切な思い出のひとつとして皆さんの瞼の裏に残っていることでしょう。また沖縄での見聞は皆さんに少なからぬ衝撃を与えたことと思います。
 時の流れは速く、20世紀は既に歴史の中の1ページになりつつある感さえあります。しかし歳月を経て時代が移っても、高邁な理想を追い求める「自由と自治」の校風は変わることなく受け継がれてきました。皆さんはこの先長い人生を歩んで行く中で、この素晴らしい学校で学んだことを懐かしくかつ誇らしく思い出すことでしょう。近い将来この学校は6年制の中等教育学校に生まれ変わることになっています。同時に輝かしい伝統も新しく生まれる学校へと引き継がれていくことになると思いますが、母校の形が変わっても、八雲が丘で学んだ3年間が皆さんの生涯に大きな意味を持つことは間違いありません。母校に誇りを持てるということは何より幸せなことです。私も自分の卒業した高校を大変誇りに思っています。40年以上経った今でも時々母校を訪れたり、既に引退して悠々自適の暮らしをしているかつての恩師を訪ねたりします。高校時代の友人達とは今でも親しくつき合っています。私の母校の校歌は5番までありますが、今でも何も見ないで最後まで歌うことが出来ます。自分のことを振り返ってみると、高校時代の3年間に人格形成がなされたと思います。皆さんもこの3年間にこの学校で培った「人格」に自信を持って力強く一歩一歩着実に歩んでいって下さい。
 ところで、皆さんはこの学校がある目黒区八雲の「目黒」や「八雲」という地名の由来は御存じですね。「目黒」は目黒不動があるから、「八雲」は「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣つくるその八重垣を」と詠んだ素戔嗚尊を祀った氷川神社があるからです。このことは入学式や卒業式の時にお話ししましたから覚えている人もいると思いますが、忘れてしまった人は後で私のところへ聞きに来るかまたは私のホームページを見て下さい。自分が住んでいる所や自分の学校がある場所の地名の由来などは是非知っておいて欲しいと思います。東急東横線の「都立大学」という駅名の由来はお分かりですね。勿論近くに都立大学があったからです。しかし、昔は「柿の木坂」という名前でした。東横線は今から75年ほど前の1927年に渋谷ー多摩川園間が開通し、その数年後に横浜まで延長されました。当時この辺りは農村で、高台には畑が、呑川周辺には水田が広がり、竹林もそこここにみられ、名物の「目黒のたけのこ」なども栽培されていたそうです。目黒の名物は、江戸時代には「秋刀魚」、昭和初期には「たけのこ」だったようです。「田園都市会社」を中心に宅地開発が進み、多くの学校が誘致される中で、都立大学と都立大学附属高校の前身である府立高等学校が、後に東急電鉄を設立した五島慶太の斡旋によりこの柿の木坂に移転してきました。ついでにいうならば、五島慶太は私の高等学校の先輩です。先輩がこの地に誘致した学校の卒業式で後輩の私が祝辞を述べるのも何かの縁かも知れません。府立高校が移転してきて、生徒達が陳情したことにより、駅名が「柿の木坂」から「府立高等前」に変わり、更に「府立高等」、「都立高校」を経て1952年に「都立大学」になりました。因みに隣の「学芸大学」駅は元々「碑文谷」という名前だったのが、師範学校が移転してきた後「青山師範」、「第一師範」、「学芸大学」と変わっています。その後2つの駅名はすっかり定着し、大学が移転してからは附属高校が駅名を守り続けています。従って、この学校は形が変わってもこの地にある限り「都立大学」附属でなければなりません。
 都立大学と都立大学附属高校はともに府立高等学校を前身とし、「八雲が丘」を共有する間柄です。現在、都立大学には「八雲が丘」の石碑があり、校門の脇には府立高校初代校長川田正澂先生の胸像が立っています。川田先生は学校設立にあたり、英国のイートン校を理想とされたそうですが、その真髄が先に述べた「自由と自治」の精神です。皆さんはこれからどのような道に進むにしても、附属高校在学中に培った人間性と素養をもとに、新しい時代に相応しい知性と行動力を身につけて自分の可能性に挑戦し、明日からの人生を力強く生き抜いていって欲しいと思います。今日ここから巣立ち、激動の21世紀を切り開いて行く皆さんに、心からのエールを送ります。卒業おめでとう。
[2002年3月13日 都立大学附属高校]