2001年度東京都立大学附属高等学校定時制入学式祝辞

 本日ここに晴れの日を迎えた新入生の皆さん、入学おめでとう。東京都立大学を代表して皆さんの附属高校入学を心からお祝いします。
 今年は珍しく桜が長持ちしていましたが、今この附属高校の庭に散りかけているのをみると、やはり懐かしい気がします。東京都立大学はかつてはここの同じ敷地内にあって、高校生と大学生が同じ門から出入りし日常的に顔を合わせていましたが、10年前に大学が八王子に移転したために、我々が皆さんと会う機会が少なくなってしまいました。しかし、場所は離れていても東京都立大学と附属高校ですから、親子のようなものです。附属高校の校長先生は都立大学の先生が務めることになっており、現在は工学部の生田教授です。皆さんの中には、都立大学の附属というところに魅力を感じてこの学校を選んだ人もいるのではないでしょうか。
 都立大学には「自由でアカデミック」な学風があり、附属高校には「自由と自治」の校風があります。どちらも長い年月をかけ多くの先輩達によって築き上げられ守り育てられてきた大切な伝統です。皆さんは先輩達が築き上げてきてきたこの学校の良さを十分に理解し、それを活用して自らが大きく成長すると共に、更に良き伝統を後輩達に残すよう努力して下さい。
 皆さんの多くはこの学校に入学すると同時に、社会人一年生になったのではないかと思います。正規の社員として勤めることになった人も、アルバイトの人も、働きながら学ぶという点では同じです。働いていると、いろいろな人と出会い、触れ合い、時には摩擦を起こしながらいろいろなことを学んでいくことになります。しかし、昼間働いて夜学校へ通うというのは大変なことです。辛いと感じることもあると思いますが、古来「若いときの苦労は買ってでもせよ」と言われています。若いときの苦労は必ず報われます。
 皆さんはこの伝統ある学校で、温かく見守って下さる先生方に囲まれ、また同じ志をもつ仲間たちとの強い絆の中で、風格ある大人として成長して下さい。御覧のように少人数ですから、生徒同士もすぐに友達になれるし、先生とも親しくなれます。困ったことがあったら何でも先生に相談して下さい。
 私が皆さんに言いたいことは「夢を持ちなさい」ということです。何故なら人は夢があればどんなことでも乗り越えられるものだからです。是非「自分の夢はこれだ」と語れるようになって下さい。「夢」は夜空の月のように皆さんの行く手を明るく照らしてくれます。反対に「夢のない人生」は闇夜を歩くようなものです。自分がどちらの方向を目指して歩いて行けばいいのか分からないし、今現在、自分がどこを歩いているのかさえ分からないでしょう。
 今、夢が語れない人もいるかも知れません。それはまだ自分が何者であるかが分かっていないからです。高校時代は「自分探し」の時間です。「自分が何に向いているのか、何が好きなのか」、いろいろなことにぶつかって初めて自分が分かるものです。学校や職場で体験する様々な事柄から自分を知って、自分に合った自分だけの夢を探して下さい。そしてその夢に向かって歩いて下さい。夢は長い間思い続けていると、いつか実現するものです。自分自身を知って、なりたい自分になって下さい。自分を大事に育てて大きく咲かせなければ、生まれてきた甲斐がありません。冒険も失敗も人生のドラマです。失敗を恐れて何もしない人生より「思い切りやった」と満足できる人生の方がいいではありませんか。大人になって年を取ってから「あの頃はよく頑張ったなあ」としみじみ思い出せるように、勇気を出して人生にチャレンジして下さい。
 先週、野茂英雄投手が大リーグで2度目のノーヒット・ノーランを達成しました。野茂は今から6年前の1995年にアメリカに渡り、大リーグのドジャースに入団して「トルネード旋風」で大ブームを起こしました。彼が大リーグ行きを決めたとき、日本では多くの人々が冷たい見方をしていました。「野茂程度の投手じゃ大リーグでは通用しないよ」「日本人がアメリカ人を相手に勝てるわけがない」「どうせ大リーグに行っても失敗するのだから大人しく日本でプレーしていればいいものを」・・・。しかし野茂は自分の夢に果敢に挑戦して、ドジャースで新人王獲得、オールスターゲームで先発投手、ノーヒット・ノーランと、全米を湧かせる素晴らしい活躍をすることができたのです。
 しかし彼の本当の素晴らしさは、華々しい活躍をしている時よりもむしろ調子が悪く苦しい時の粘り強さでしょう。最初から華々しい活躍を見せた野茂投手ですが、そのうち成績が振るわなくなり、ドジャースを解雇されてチームを転々としました。そして世間が彼を忘れかけていた頃、2度目のノーヒット・ノーランという快挙を成し遂げたのです。途中で弱気になり諦めていたら到底達成できない大記録でした。野茂に続いて様々な選手が海を渡り大リーグに挑戦しました。最近ではイチロー選手と新庄選手、それに元横浜の大魔神こと佐々木投手達がそれぞれの個性を発揮して大活躍しています。今はもう「日本人は大リーグでは通用しない」と言う人はいないでしょう。ほんの6年前には夢だったこと、それが一人の勇気ある挑戦で現実になったのです。もちろん野球の世界だけではありません。皆さんの挑戦を待っているフィールドは至るところに広がっています。常にチャレンジ精神をもって自分の人生を開拓していって下さい。
 定時制の特色である少人数であることや、様々な仲間がいるという良さを生かして実りある高校生活を送って下さい。多様な友人を持つことは人生を豊かにしてくれます。この4年間が皆さんの人生の中で宝物と思えるような期間になることを祈っています。
[2001年4月9日 都立大学附属高校]