2000年度東京都立大学附属高等学校入学式祝辞
新入生の皆さん、入学おめでとう。東京都立大学を代表して皆さんの附属高校入学を心からお祝いします。
東京都立大学はかつてはここの同じ敷地内にあって、日常的に高校生と大学生が顔を合わせていましたが、9年前に大学が八王子に移転したために、我々が皆さんと会う機会が少なくなってしまいました。しかし、場所は離れていても都立大学附属高校ですから、できるだけその特性を活かそうと考えて、皆さんが都立大学へ出かけていって一日入学を体験したり、都立大学の先生による特別授業を聞いたりというような他の都立高校の生徒は経験できない特別メニューが用意されています。楽しみにしていて下さい。
皆さんはこれから国語、英語、地理・歴史、公民、数学、理科、保健体育、芸術、・・・等いろいろな科目を勉強することになります。科目数は多いし、内容は中学校よりも格段に難しくて大変だと感じるかもしれません。しかし、それらの科目はどれも成長期の頭脳には不可欠な知的栄養素ですから、頑張って消化するようにして下さい。皆さんは、蛋白質、脂肪、炭水化物、ミネラル、各種ビタミン等が人間が生きていく上に欠くことのできない栄養素で、それらをバランスよく摂ることが健康な生活を送るために是非とも必要であることをよく御存知でしょう。最近の日本は食料が豊富ですから、いわゆる栄養不良にはならないでしょうが、「知的栄養不良」の患者はたくさんいます。「大学入学試験にない科目は勉強しない」というのが昨今の高校生の“生活の知恵”のようになってしまっているようですが、「地理・歴史は要らない」とか「数学と理科は要らない」というような勉強の仕方では成長期の少年の頭脳の栄養に偏りが生ずることになります。偏食すると身体が健全に発達しないのと同様、知的偏食もまた知能の発達を妨げます。頭も体の一部だということを肝に銘じて、頭と身体に充分な栄養をつけるよう心掛けて下さい。
まもなく終わりを迎えようとしている20世紀は、人間の歴史において劇的な変化をした時代であり、その変化の原動力は科学の進歩であるといえます。ところが驚いたことには、中学生を対象にした国際教育調査によれば「理科が好きな生徒の割合」「理科が生活の中で大切であると考える生徒の割合」「将来、科学を使う仕事をしたいと考えている生徒の割合」等は日本が世界最低だそうです。又、一般市民を対象にした調査でも「科学技術に関心をもっている市民の割合」や「科学の新しい発見に関心をもつ市民の割合」等が世界最低だそうです。つまり「日本は最も理科離れが進んでいる国である」ということになります。私は皆さんに、最近話題になっている情報科学や環境科学或いは遺伝子科学の問題等を正しく理解して的確に対応するためにも、科学技術にもっと関心を持ってもらいたいと思います。皆さんの中には既に数学や理科が嫌いになりかかっている人がいるかも知れませんが、今ならまだ間に合います。21世紀に社会の第一線で活躍するためには数学や理科も不可欠な知的栄養素だと思って関心をもって下さい。逆に、数学や理科が好きな人は「自分は数学や理科が好きだから心配ない」と思ってはいけません。いくら理系の知識を身につけていても文系の素養に欠けていれば社会の第一線で活躍することは出来ないでしょう。
基礎的な勉強には「適齢期」があります。英語は若いときにしっかりと勉強しておかないと後でその数倍の苦労をすることになります。高校の時に学んだ芭蕉の俳句や在原業平の歌は素晴らしい感性を育んでくれます。難しい数学の問題に取り組む努力は必ず報われます。これからの3年間に皆さんの知的活動の基礎は殆どできあがる筈ですから、ここで怠けると必ず後悔することになります。「自分の可能性に挑戦することが、自分の責任である」という言葉があります。自分自身に責任を持って、精一杯可能性にチャレンジして下さい。
食べ物は好き嫌いなく食べることが健康の秘訣ですが、誰にでも大好物があります。それと同様に、幅広く知的栄養素を摂ると同時に、少なくとも一つ「得意科目」をもつことが大切です。「数学はまかせてくれ」「英語なら誰にも負けないぞ」「パソコンに関して分からないことはない」等何でも自信を持てるものが一つあれば、その自信が原動力となって全てがうまく前進します。
最後に都立大学の宣伝をします。都立大学は、恵まれた環境、自由な学風、優れた教授陣と充実した施設を持つ、東京でも有数の素晴らしい大学です。東京都民なら入学金も安くなっています。附属高校で一所懸命勉強して、都立大学の門をくぐって下さい。3年後の皆さんの入学を期待し、首を長くして待っています。
[2000年4月11日 都立大学附属高校]