2000年度東京都立大学附属高等学校定時制入学式祝辞
新入生及び転編入生の皆さん、入学おめでとう。東京都立大学を代表して皆さんの附属高校入学を心からお祝いします。
ところで、皆さんはこの学校をどういう理由で選びましたか。いろいろな理由があるでしょうが、中には都立大学の附属であるということに魅力を感じて選んだ人もいるのではないかと思います。
東京都立大学はかつてはここの同じ敷地内にあって、高校生と大学生が同じ門から出入りし日常的に顔を合わせていましたが、9年前に大学が八王子に移転したために、我々が皆さんと会う機会が少なくなってしまいました。しかし、場所は離れていても東京都立大学と附属高校ですから、親子のようなものです。都立大学には「自由でアカデミック」な学風があり、附属高校には「自由と自治」の校風があります。どちらも長い年月をかけ多くの先輩達によって築き上げられ守り育てられてきた大切な伝統です。皆さんは先輩達が築き上げてきてきたこの学校の良さを十分に理解し、それを活用して自らが大きく成長すると共に、更に良き伝統を後輩達に残すよう努力して下さい。
皆さんの多くはこの学校に入学すると同時に、社会人一年生になったのではないかと思います。正規の社員として勤めることになった人も、アルバイトの人も、働きながら学ぶという点では同じです。働いていると、いろいろな人と出会い、触れ合い、時には摩擦を起こしながらいろいろなことを学んでいくことになります。しかし、昼間働いて夜学校へ通うというのは大変なことです。辛いと感じることもあるでしょう。学校をやめたいと思うこともあるかも知れませんが、そういう時の皆さんを先生方はあたたかく迎えて下さるでしょう。御覧のように少人数ですから、生徒同士もすぐに友達になれるし、先生とも親しくなれます。困ったことがあったら何でも先生に相談して下さい。
私が皆さんに言いたいことは「夢をもちなさい」ということです。なぜなら人は夢があればどんなことでも乗り越えられるものだからです。是非「自分の夢はこれだ」と語れるようになって下さい。「夢」は夜空の月のように皆さんの行く手を明るく照らしてくれます。反対に「夢のない人生」は闇夜を歩くようなものです。自分がどちらの方向を目指して歩いて行けばいいのか分からないし、今現在、自分がどこを歩いているのかさえ分からないでしょう。
今、夢が語れない人もいるかも知れません。それはまだ自分が何者であるかが分かっていないからです。高校時代は「自分探し」の時間です。「自分が何に向いているのか、何が好きなのか」、いろいろなことにぶつかって初めて自分が分かるものです。学校や職場で体験する様々な事柄から自分を知って、自分に合った自分だけの夢を探して下さい。そしてその夢に向かって歩いて下さい。夢は長い間思い続けていると、いつか実現するものです。自分自身を知ってなりたい自分になって下さい。自分を大事に育てて大きく咲かせなければ、生まれてきた甲斐がありません。冒険も失敗も人生のドラマです。失敗を恐れて何もしない人生より「思い切りやった」と満足できる人生の方がいいではありませんか。大人になって年を取ってから「あの頃はよく頑張ったなあ」としみじみ思い出せるように、勇気を出して人生にチャレンジして下さい。
定時制の特色は、年齢も様々、入学の動機も様々で、社会人として様々な仕事をしている人達が一緒に机を並べて勉強する「多様性」にあるといえます。実社会もまた様々な人達で成り立っていますから、皆さんは様々な友人に囲まれて社会の縮図の様な環境で学ぶことができます。多様な友人を持つことは人生を豊かにしてくれます。高校時代の友人は生涯で最も安心してつきあえる友人になりますから、大切にして下さい。先日この部屋で卒業式が行われました。様々な動機で入学した人達が4年間にすっかり親しくなり、別れを惜しんで涙を流している姿は感動的でした。
皆さんも野球の松坂君の様に全力投球で、サッカーの中田君の様に全力疾走で、高校時代を駆け抜けて下さい。そしてマラソンの有森裕子さんの様に「自分を誉めてあげたい」と言って卒業して下さい。
皆さんが今日から一日一日を積み重ねていって、卒業するときには21世紀になっています。21世紀は君たちが作るのです。素晴らしい21世紀を作って下さい。期待しています。
[2000年4月12日 都立大学附属高校]