就任挨拶

 年度初めのお忙しい中をお集まり頂きまして有り難うございます。
 午前中に都庁で青島知事より「都立大学総長を命ずる」という辞令を頂いて参りました。こうして御挨拶していると重責の実感が湧いて参ります。これから進んで行かなければならない道には、大学改革、財政難、独立行政法人化、学生問題等々、幾多の厳しい試練に直面している本学の現実があることを思うと、辞令を手にして誠に身の引き締まる思いが致します。
 6年前、総長の交代式の挨拶で私は「山住総長の前に難問が“山積み”されている」と申し上げましたが、6年後にそれに倍する難問が自分の前に山積みされることになろうとは夢にも想いませんでした。然し、私は「難問の山は発展の足がかり」と前向きにとらえ、この試練を本学構成員の英知を集めて乗り越えたいと思っています。全員が一つの目標に向けて一致協力し、困難を乗り越えたとき、人も組織も一回り大きくなれると確信します。明るい21世紀を信じて、楽観的に難問に取り組んでいきたいと思います。
 今年は本学開学50周年という記念すべき年であり、更に、昨年からの公立大学協会の会長校としての務めもあります。全く不慣れで分からないことばかりですが、都立大学が明るい未来へ前進するために、構成員の皆さんのお力添えのもとに精一杯努力したいと思いますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
 間もなく都知事が交代します。都財政の危機的状況の中でその影響が懸念されるところですが、大学にとっては「研究・教育の自由」が命です。大学が行政に支配されたり、行政に迎合したりするようなことがあってはならないと考えています。「自由でアカデミック」といわれる学風を守り育て、真に学問を愛する者が集う大学であり続けたいと思います。然し、社会の急激な変化と少子化等により、大学が「良き伝統」だけを守って生きていける時代ではなくなり、本学にも大学改革の波が押し寄せています。本学が国際都市東京の学術・文化の中心として新しい時代に相応しい大学となるために、この50年間の実績を踏まえ、「個性ある大学」として更なる発展を目指す方向を模索したいと思っています。都立大学は実力に比べておとなしすぎると思います。もっともっと自己主張しようではありませんか。
 大学の運営に当たっては、できるだけ広く構成員の意見を聞き、意思の疎通をはかることが大切だと考えていますので、形式に囚われずに率直な御意見をお聞かせ頂きたいと思います。何時でも気軽に声をかけて下さい。電話でもFAXでもe-mailでも結構です。多くの方々の建設的な提言をお待ちしております。
 但し、私は人一倍現代国語の力が不足しておりまして、国語の試験で「著者の真意は何か」というような問題はできたためしがありませんでした。そういうわけで、誠に申し訳ありませんが、私に理解できるように出来るだけ単純明快な表現をお使い下さるようにお願い致します。
 ものごとを判断する場合に「先入観をもたない」ことと「論理の飛躍をしない」ことを基本的な姿勢にしたいと思います。何事も「先ず結論ありき」ではいけません。大学らしく論理的に議論を尽くしたいと思います。これは当然のことではありますが、時として必ずしもそのように行われていないように思われる事例を見聞しますので敢えて強調しておきたいと思います。「五月蠅い奴だ」「物分かりの悪い奴だ」と思われることがあるかも知れませんがこの点にはこだわりたいと思っていますので悪しからず御了承下さい。
 研究と教育が大学の使命であることを片時も忘れることなく、大学らしい論理で分かり易い運営をしていきたいと思っています。どれ程のことができるか分かりませんが、全力を尽くしたいと思いますので何卒宜しく御支援下さるようお願い申し上げます。
 どうも有り難うございました。
[1999年4月1日 都立大学大会議室]