新旧総長歓送迎会挨拶

 本日はお忙しい中を御臨席賜りまして誠に有り難うございます。
 今日は久し振りに山住先生の元気なお姿を拝見することができて大変嬉しく思います。まず最初に山住先生に「6年間本当にお疲れ様でございました」と申し上げたいと思います。先生は余りの激務のために一時体調を崩され心配しておりましたが、幸いにしてすっかりお元気になられ、安心致しました。山住先生といえば自他共に認める「酒呑童子」いや「酒仙」でしたが、私から見れば「絵になる」先生でした。先生はどんな場面でも、何をやっても一幅の「絵」になります。私の“画廊”には先生を描いた“絵”が多数愛蔵されていますが、その中の一枚を皆さんのお目にかけましょう。それは「府大戦における山住捕手奮闘の図」です。1994年の府大戦は大阪府立大学が会場で、私ども教職員は炎天下の府大のグランドでソフトボールの対抗試合を行いました。山住先生御本人は日頃から野球通を自認し「学生時代は野球部で鳴らし、不動の二塁手だった」と豪語していましたが、我々が確認できたのは“不動”のキャッチャーでした。「不動」つまり、動かないのです。球がこぼれても決して拾いに行かないので、審判や控えの選手が拾って返球するのです。まさしく「動かざること山住の如し」でした。山住捕手は懸命に「この試合は盗塁無しにしよう」と主張しましたが受け入れられず、府大の打者は出塁すれば自動的に本塁に還ることができました。グランドが爆笑の渦につつまれたあの楽しいひとときの思い出は「府大戦意外史」の第1頁に載せてあります。先生を描いた“名画”はこの他にも数多くあり、都立大学の歴史に彩りを添えてくれるものと思います。山住教の教祖を思わせる威風堂々たる眉毛、その下に炯々と光る眼差し、時宜に即し機知に富んだ講話、達意の文章、どれも皆私達の記憶に深く刻まれております。先生が本学を去られることは私共教職員一同惜別の思い切なるものがございますが、呉々も飲み過ぎることのないよう御健康に留意され、「晴読雨読」の文筆活動に励まれますと共に折に触れ私達後進を御指導下さいますよう、今後とも宜しくお願い申し上げます。
 6年前にこの席で私は不覚にも「山住総長の前に難問が“山積み”されている」と申し上げました。全くもって不覚な話で、6年後にそれに倍する難問が自分の前に山積みされることになろうとは夢にも想っていませんでした。山住先生が6年間かかって総長室に積み上げられた書類の山は3月31日に一気に整理しましたが、難問の方は文字通り「動かざること山の如し」です。御承知の通り、未曾有の財政難に見舞われている中で「大学のあるべき姿」、特に公立大学としての本学の「あるべき姿」が厳しく問われています。本学は「自由でアカデミック」といわれる学風を守り育て、真に学問を愛する者が集う場として発展を続けてきましたが、社会の急激な変化と少子化等により、大学が「良き伝統」だけを守って生きていける時代ではなくなりました。今まで本学はどちらかといえば「特色のない地味な大学」ではなかったかと思いますが、これから大学は「個性」で勝負する時代になると思います。私は、本学を「特色ある大学」にするために何をなすべきかを全学の叡智を集めて検討しなければならないと考え、第一段階として評議会メンバーを中心に5つのWGを立ち上げて「学部教育」「大学院と研究体制」「教育・研究評価システム」「管理運営」「組織・形態」について来月を目標に問題点の洗い出しをしてもらっているところです。そこで明らかにされる重要事項については、直ちに本格的な検討に取り組み、本学を「特色ある大学」にする改革に着手したいと考えております。全学の叡智を集めたこのような取り組みの中から本学の「特色」が見えてくると思いますので、何卒宜しく御支援下さるようお願い申し上げます。
 御存知のように、今年本学は開学50周年を迎えます。記念事業は関係者各位の御尽力のお陰で着々と準備が進められ、大勢の方々から御賛同を頂いております。この席をお借りして厚く御礼申し上げます。6月3日のオープニングセレモニーを皮切りに、盛り沢山な記念行事を企画して、大勢の方々の御参加をお待ち申し上げております。本学のこの50年間の輝かしい足跡を振り返るとき、終戦後の財政窮乏のなかで学術研究の中心たる総合大学を設置した東京都の積極的な意欲と、「学問の自由」を実現した諸先輩の高い見識に対して、改めて敬意を表したいと思います。本学がこの50年間に築いてきた輝かしい実績を踏まえ、国際都市東京の学術研究の中心として新しい時代に相応しい「個性ある大学」として更なる発展を目指す方向を模索したいと思っていますので、建設的な提言をお寄せ下さるようお願い致します。
 就任して2ヶ月近く経った今でも、全く不慣れで分からないことばかりですが、優秀なスタッフと皆様の御厚意に支えられて何とか持ちこたえております。都立大学が明るい未来へ前進するために、皆様のお力添えのもとに精一杯努力したいと思います。
 就任の挨拶でも申し上げましたが、大学の運営に当たっては、できるだけ広く関係者の意見を聞き、意思の疎通をはかることが大切だと考えていますので、形式に囚われずに率直な御意見をお聞かせ頂きたいと思います。私は、山積みされた難問を前にしてものごとを判断する場合に「先入観をもたない」ことと「論理の飛躍をしない」ことを基本的な姿勢にしたいと思っています。何事も「先ず結論ありき」ではいけません。大学らしく論理的に議論を尽くしたいと思います。
 研究と教育が大学の使命であることを片時も忘れることなく、大学らしい論理で「開かれた大学」に相応しく分かり易い運営をしていきたいと思っています。どれ程のことができるか分かりませんが、全力を尽くしたいと思いますので何卒宜しく御支援下さるようお願い申し上げます。
 どうも有り難うございました。
[1999年5月27日 都立大学国際交流会館ホール]