新年挨拶2003

 明けましておめでとうございます。
 早いものでまた一年が経ち、新しい年を迎えました。我が国が長い不況に見舞われているのと同様に、本学にとって昨年もまた厳しい嵐が吹き荒れました。国際的にも色々な出来事がありましたが、残念ながら明るいニュースは多くなかったと思います。そのような状況の中ではありますが、こうして新しい年を迎えることが出来たことを教職員の皆さんとともに喜びたいと思います。
 本学では、御存知のように全学をあげて大学改革に取り組んできました。歴史や性格を異にする3大学と短期大学を統合・再編して新大学を作ることは、全くの白紙に新大学の設計図を描く作業に較べれば、格段に困難を伴います。しかも、東京都の財政危機による大学予算の削減、教職員総定数の削減、昼間課程学生定員の増加など極めて厳しい境界条件の下で最適解を求める困難さは筆舌に尽くし難いものがありました。しかしながら、その課題が如何に難しくても、50余年の伝統と実績を踏まえ、かつ本学が抱いていた種々の改革理念、即ち教養・基礎教育の充実、大学院の拡充、社会との連携強化などを軸に、21世紀に相応しい「知の拠点」を目指して新大学の基盤を整備することは我々の責務であります。
 このような状況の下で最善を尽くしてきたつもりでありますが、もとより新大学を評価するのは、我々当事者ではなく、歴史です。社会状況の急速な変化の中にあっても、数年後、数十年後、都立新大学は我が国を代表する公立大学としての揺るぎなき存在感を発揮し続けなければなりません。そのために、守るべきものは堅持し、変革すべきものは変革するという当然の、しかし困難な判断に誤りの少なきことを祈りながら一歩一歩新大学設立準備の作業を進めてきました。
 そのような中にあって、先月の大学設置審議会においてビジネススクールの開設が認可され、この4月に新宿都庁舎において開設する運びになりました。更にロースクールについても1年後の開設に向けて準備を進めているところであり、新大学の設置に先駆けて都立大学の充実が実現していくことは、真に喜ばしいことであります。また年末に決った来年度予算において、新大学設立のために必要な建物の建設が認められたことにより、構想の実現に向けて大きく前進することが出来ました。関係各位の御尽力に感謝したいと思います。
 私の任期は残り3ヶ月となりましたが、就任以来今日まで大学改革に明け暮れる毎日でした。50余年の伝統と実績をもつ「都立大学のアカデミズム」の灯を新大学に引き継ぎ守り育てていくことこそが我々に課せられた使命であると痛感し全力を尽くしてきたつもりですが、客観的には戦艦大和に向かって空気銃を撃っているようなものだったかも知れません。幸にして頼もしい後任を選んで頂くことが出来ましたので、安心してバトンタッチをすることが出来ます。
 ところで、今年は未年です。「未」は十二支の8番目ですが、羊は性質が善く、温和で協調性に富み、発展の要素を強く持っているといわれています。そのために「美」「善」「義」「祥」「鮮」など良い意味の文字に使われます。又、古来より「羊雲がでると吉祥事がある」、「朝、羊の群れに会うと良いことがある」等と言われ、大変縁起の良い動物として知られています。また、キリスト教においては「羊」は大変重要な意味をもっています。更に、羊の肉は西洋料理の高級な素材とされ、日本ではジンギスカン鍋などの料理によって我々の胃袋を満たしてくれます。中国でも羊の肉を食用に供していますが、特に唐の都長安、現在の西安には羊の肉と千切ったパンで作ったシチューのような「羊肉泡糢」という大変美味しい料理があります。西安にお出での折には是非試してみて下さい。また、羊は我々に素晴らしい衣服の材料を提供してくれます。羊毛から出来た衣服を身につけていない人はおそらく一人もいないのではないでしょうか。
 しかし、「羊腸」といえば「狭く曲がりくねった道」を意味し、「羊角」といえば「旋風」を意味しますから、旋風に吹きまくられた大学改革の曲がりくねった道筋が思い起こされます。大学改革のことが気になって眠れないときに「羊が1匹、羊が2匹、・・・」と数えてみましたが、2350匹の辺りで何処まで数えたか分らなくなり、眠れなくなってしまいました。また列子の言葉に「多岐亡羊」があります。「逃げた羊を追いかけたが、道が幾筋にも分れていて、見失った」とい故事から、学問の道があまりに多方面に分れていて真理を得がたいこと、転じて、方針が多過ぎてどれを選んでよいか迷うことを意味しますが、これも大学改革に通じるものがあります。また、「未」という字には「いまだ・・・ず」という意味がありますから、「未だ大学改革成らず」というようなことにならないように心掛けたいと思います。都立新大学が「羊頭狗肉」「羊質虎皮」にならないよう願っています。
 このように新年の挨拶を述べながら、例年と比べてこの席に何かが欠けているという気がしています。毎年この席の前の方にいて大きな声で私の話に合いの手を入れてくれた伊勢野さんの姿がないのが残念でなりません。私は12年前に右も左も分らないまま理学部長になったときに、庶務係長であった伊勢野さんから学部長職の手ほどきを受け、そのお陰で大過なく4年間の務めを果たすことが出来ました。その後も常に彼の存在は私の支えになっていました。伊勢野さんに深く感謝しつつ、御冥福をお祈りします。皆さんも健康には呉々も御留意の上、新たな気持ちでまた一年間仕事に励んで下さい。
 今年も宜しくお願い致します。
[2003年1月6日 都立大学大会議室]