日本オフィス学会第3回大会歓迎挨拶

 日本オフィス学会の第3回大会を東京都立大学で開催して頂き大変光栄でございます。本学は11年前にこのキャンパスに移転して参りました。当時の東京都は財政が豊かでしたので、43ヘクタールのキャンパスに御覧のような建物を建てることが出来ました。11年経って木々もすっかり落ち着きを見せ、現在でも有数の美しいキャンパスであると自負しております。
 大学にも様々なオフィスがあり、私達は毎日オフィスで仕事をしています。私も一日に10時間以上をオフィスで仕事をしていますから、最も長い時間を過ごす場所がオフィスであるということになります。人々が仕事をする場所であるオフィスを研究対象とする学会が誕生したのがわずか3年前だということは実に意外なことであると思います。
 オフィスといいますと、昔から「明窓浄机」という言葉があります。明るい窓の下に埃を払った清らかな机を据えて書物を読んだり文を書いたりするのが昔から文人の理想の書斎の姿でありました。昨今、情報化の進歩によって知的創造の場あるいは知的作業の場が急速に様相を変えつつありますが、明るく快適な空間と整頓された机がその原点であることに変わりはないと思います。
 私は、旅行に行ったときなどに、各地で偉人の生家や歴史上のオフィスなどを訪ねることにしています。津和野では西周先生が勉強した土蔵を訪ねました。石山寺にある「紫式部の間」は源氏物語を執筆したオフィスです。新潟県下田村には諸橋徹次博士が『大漢和辞典』を編集したオフィス「遠人村舎」が移築保存されています。また、長岡市には山本五十六の勉強部屋がありました。新潟県西山町に最近建てられた田中角栄記念館には「角さんのオフィス」が再現されていて、素晴らしい椅子がおかれていました。一見何の変哲もない黒い革張りの椅子ですが、座り心地は抜群でした。倶利伽羅峠の平家の本陣には作戦会議をしたという大きな石のテーブルがあり、維盛、忠度等の配置がまことしやかに図示されています。あれは戦場のオフィスというべきでしょうか。近い所では、日比谷の第一生命ビルにマッカーサーのオフィスが保存され公開されています。劣悪な環境の中で素晴らしい仕事をした昔の人の苦労の跡を垣間みることができるオフィス、国家的行事や事業を成し遂げた歴史的オフィス、・・・、などそれぞれ大変興味深いものだと思います。
 様々な歴史を踏まえて今日のオフィスがありますが、21世紀にはどんなオフィスが出現するのでしょうか。日本オフィス学会の研究成果が活かされてオフィスがより快適になっていくことを期待しております。
 日本オフィス学会の益々の御発展をお祈り申し上げて、私の歓迎の言葉と致します。
[2002年3月2日 東京都立大学]