2014年度卒業式式辞

 本日大妻女子大学を卒業する2074名の皆さん及び大妻女子大学大学院を修了する22名の皆さんの希望に満ちた門出を祝福するとともに、明日からの皆さんの人生が充実したものとなるよう期待をこめて激励の言葉を贈りたいと思います。
 本日大妻女子大学は、489名に短期大学士、1585名に学士、20名に修士、2名に博士の学位を授与しました。これらの学位は皆さんが、それぞれの学位に相応しい力、即ち、「主体的に考え、自ら学ぶ力」、「社会的・職業的に自立を図るために必要な力」或いは「自立して研究出来る力」を身につけたことを、本学が社会に対して保証するものです。
 皆さんは、大妻女子大学在学中に、「恥を知れ」を校訓とし、「関係的自立」をキーワードとする教育を受け、豊かな教養と思いやりの心を持って社会的・職業的に自立を図るために必要な力を身につけたはずです。自信を持って一歩を踏み出して下さい。大妻女子大学の教育理念である「関係的自立」は、人と人との関係のみならず、組織と組織との関係、国と国との関係などにおいても重要であることはいうまでもありません。昨今は、他者とスムーズなコミュニケーションが図れない者が増加し、社会的・職業的に自立が図れない者や、「独善的自立」、「利己的自立」、「排他的自立」など好ましくない自立をしている者が少なくありませんが、皆さんには在学中に学んだ「関係的自立」を実践し、率先垂範して欲しいと思います。しかしながら、関係的自立の実践は決して簡単ではありません。「関係的自立」の実現のためには「自らを律して行動し」、「他者の意見を聞き」、「他者の立場に立って考え」、「自己の良心と社会の規範やルールに従って行動する」ことが基本です。校訓「恥を知れ」を座右の銘として「関係的自立」の実践に務めて下さい。「恥を知れ」は、学祖大妻コタカの「自分を高め、自分の良心に対して恥ずるような行いをするな」という、自らを戒めるための言葉です。人生の「美学」を持ち、「品格」ある女性であり続けて下さい。
 皆さんは明日から社会に出て自立していくことになりますが、どのような分野で活動するにせよ、大学で学んだ知識だけで間に合うということはあり得ません。社会に出れば日々新たな事柄に直面し、学習に次ぐ学習が必要になることは、昨今の激動する世相を見れば容易に想像がつくでしょう。「志を立ててもって万事の源となす」は吉田松陰の言葉ですが、「志ある者は事竟に成る」、「Where there is a will, there is a way」です。自ら目標を定め、日々に自己学習を重ねながら、常に問題意識をもって事に当たり、自ら課題を発見し、自らその解決方法を考えなければなりません。そのとき必要になるのが「知識や情報を収集し評価して活用する能力」、「論理的に思考する能力」、「企画・立案して遂行する能力」などです。即ち、自分で企画・立案し、自分で必要な材料を集め、それらを使ってコピー&ペーストではなく自分の頭で考えたことを自分の言葉で表現し、実行する能力です。皆さんは、在学中に先生方の指導の下に体系的な学習を積み重ね、その集大成として卒業論文や学位論文を作成する過程を通じてこれらの能力を身につけたはずです。特に、苦しみながら卒業論文や学位論文を完成させたことにより、大きく成長したことに自信を持って下さい。本日皆さんが手にした学位は、皆さんが「主体的に考え、自ら学ぶ」ことが出来る水準、「社会的・職業的に自立を図る」ことが出来る水準或いは「自立して研究する」ことが出来る水準に達したことを保証しますが、明日からは皆さんが社会から評価を受け続けることになります。これからの皆さんの人生は、PDCA即ち「企画・立案」、「実行」、「評価」、「改善」の繰り返しになることでしょう。社会からの評価を真摯に受け止めて改善に活かすことにより、日々に進歩を重ね、成長していくように務めて下さい。
 様々な問題を抱えながらも、ITの発達などによって「グローバル化」が急速に進みつつあります。私自身もインターネットを使わない日はありませんが、居ながらにして瞬時に世界中から情報を集めることができる便利さは驚嘆すべきものです。インターネットによって世界が結ばれ、世界中の人々が英語を共通語として情報を交換しあっています。しかし、無自覚な「グローバル化」は自らのアイデンティティーを危うくすることに注意しなければなりません。この地球上には様々な国や地域があり、様々な民族がそれぞれの伝統に基づいて多種多様な文化の花を咲かせてきたからこそ、人類は豊かな歴史を築くことができたのではないでしょうか。皆さんはこれから「グローバル化」が進行する社会で生きていくことになります。広く世界に目を向け、異文化に接する機会を持って欲しいと思いますが、その際に日本の文化に誇りを持つことを忘れないで下さい。豊かな四季に恵まれた日本の風土に花開いた独特の文化は、我が国が国際的に存在感を高める上で最大の切り札になる筈です。皆さんが世界の人々から敬意を払われるためには、日本の文化をしっかりと理解していることが不可欠です。文化のグローバル化によってローカルなものが次々と失われ、「多様化」という名の下に画一化が進むことは寂しい限りです。国際交流の基本は「文化の多様性を大切にする」ことです。「グローバル化」の名の下に、全世界を文化的に均一化してしまうことは決して好ましいことではありません。
 余り明るいニュースがない中にあって、昨年赤崎、天野、中村3先生がノーベル賞を受賞したことは日本の学問レベルの高さを世界に示すことが出来る快挙でした。3先生の受賞対象となった業績は「常識を疑え」、「失敗を恐れるな」、「転んでもただ起きるな」などの典型です。即ち「常識」的には「失 敗」でも意外な発展に繋がることがある、「常識」に囚われていては発展がない、「常識」に囚われていては「オンリーワン」の発想は出来ない、ということで す。「先ず疑ってみること」が大切です。コペルニクスは「太陽が地球の周りを回っている」という不動の常識を果敢に疑って「地動説」を唱え、人類の常識を 180度転回させました。皆さんも小さな疑問を大切にして大きな成果をあげて下さい。また、皆さんはこれから社会に出たり大学院に進学したりすれば「失 敗」の連続になると思います。「失敗」は誰もが日常的に犯しますが、勝敗の分かれ道は「失敗」を活かすか否かです。また、「転んでもただ起きるな」は『今昔物語』に載っている藤原陳忠の話以来我が国では社会生活の基本的教訓の一つになっています。私は皆さんに「常識を疑い」、「失敗を恐れず」果敢に物事に挑戦し、「転んでもただでは起きない」粘り強い精神で生きていって欲しいと願っています。
 人類の歴史を概観すれば、長い年月をかけて極めて緩やかに発達を続けてきた文明が、産業革命をきっかけに加速し始め、この100年間はまさに指数関数的な発展状況を示しています。私の若い頃には、テレビもパソコンも携帯電話もありませんでした。皆さんが本学で過ごした数年間を見ても、グローバル化やIT化の進展、少子長寿化などの社会の急激な変化は、人間関係の希薄化、産業構造の変化、格差の拡大、豊かさの変容など、様々な形で社会のあらゆる側面に大きな影響を及ぼしています。皆さんはこの急速に変化を続ける予測困難な21世紀の文明の中で生きていかなければなりません。皆さんはこれまで学校生活において様々な試練を課せられてきましたが、本当の試練はこれからです。皆さんはこれから社会に出て実力で勝負し、試練を受け続けることになりますが、時として大妻女子大学の出身であることによる恩恵を受けることがあると思います。それは皆さんの先輩達が100年以上かけて築き上げてきた大妻女子大学に対する信頼の賜です。先輩達に感謝するとともに、皆さんも母校の評価を高めるべく努力して下さい。
 皆さんはこれから社会に出て、様々なことを経験しながら成長し続けることになります。嬉しいことがあった時、困難に直面した時、学問や社会の新しい展開について学ぶ必要がある時など、何時でも気軽に母校を訪ねて下さい。教職員一同皆さんの訪問を楽しみにしています。また、大学祭やホームカミングデーなどには是非里帰りをして後輩達を励まして下さい。大妻女子大学は皆さんの故郷です。
 私は皆さんがそれぞれの分野のリーダーになってくれることを期待しています。昨今は「男女共同参画」などと言われますが、歴史を振り返れば、昔、我が国のリーダーは女性でした。千々に乱れていた国を纏めて治めることが出来たのは「卑弥呼」という名前の女性でした。記録にある限り、我が国で最初に国際舞台に登場した人物は卑弥呼です。日本は、女性がリーダーでなければ治まらない国だったのです。皆さんも大妻女子大学在学中に身につけた「主体的に考え、自ら学ぶ力」、「社会的・職業的に自立を図るために必要な力」或いは「自立して研究出来る力」を武器として、世界の舞台に挑戦して欲しいと思います。自分の可能性を最大限追求するとともに、人類の新たな時代を創出していくことが皆さんに課せられた義務であり、また責任でもあります。もう一度繰り返します。「関係的自立」を実践し、「主体的に考え、生涯学び続ける」ことを忘れないで下さい。皆さんの明日からの果敢な挑戦に期待し、健闘を祈ります。ごきげんよう!
[2015年3月22日 東京国際フォーラム]