2015年度卒業式式辞

 本日大妻女子大学を卒業する2144名の皆さん及び大妻女子大学大学院を修了する17名の皆さんの希望に満ちた門出を祝福するとともに、明日からの皆さんの人生が充実したものとなるよう期待をこめて激励の言葉を贈りたいと思います。
 本日大妻女子大学は、525名に短期大学士、1619名に学士、16名に修士、1名に博士の学位を授与しました。これらの学位は皆さんが、それぞれの学位に相応しい力、即ち、「主体的に考え、自ら学ぶ力」、「社会的・職業的に自立を図るために必要な力」或いは「自立して研究出来る力」を身につけたことを、本学が社会に対して保証するものです。
 皆さんは、大妻女子大学在学中に、「恥を知れ」を校訓とし、「関係的自立」を理念とする教育を受け、豊かな教養と思いやりの心を持って社会的・職業的に自立を図るために必要な力を身につけたはずですが、本日皆さんを社会に送り出すに当たり、確認のために大妻女子大学の校訓と教育理念についてお話ししたいと思います。
 大妻女子大学の教育理念である「関係的自立」は、国語辞典には載っていない言葉ですが、一言で言えば、他者との良好な関係を築きつつ自立を図るということです。「協調的自立」或いは「友好的自立」といった方が分かり易いかも知れません。人と人との関係のみならず組織と組織との関係、国と国との関係などにおいても重要であることはいうまでもありません。しかしながら、「関係的自立」の実現は決して簡単ではなく、「関係的自立」を理念に掲げる大妻女子大学においてすら、「独善的自立」、「利己的自立」、「排他的自立」など好ましくない自立をしている者が少なくありません。
 これから社会に巣立っていく皆さんには在学中に学んだ「関係的自立」を着実に実践し、「流石大妻の卒業生は違う」と言われるように率先垂範して欲しいと思います。「関係的自立」の実現のためには「自らを律して行動し」、「他者の意見を公平に聞き」、「他者の立場に立って考え」、「自己の良心と社会の規範やルールに従って行動する」ことが基本です。「他者の意見を公平に聞く」ということは、自分に都合の良い意見だけを聞いてはいけないということです。「社会の規範やルールに従って行動する」ということは、自分に都合の悪いルールには従わなくても良いということではありません。「関係的自立」の実現のために心がけて欲しいことがもう一つあります。我々は、他者を見るときに、「悪い点」が先に目についてしまいがちです。人は十人十色ですが、誰でも必ず「優れた点」を持っていますから、出来るだけ他者の「優れた点」を見るように心がけて下さい。
 更にもう一つ、関係的自立の実現にとって、「多様性」の尊重が重要であることを強調しておきたいと思います。気の合う仲間と楽しい時間を過ごすことは素晴らしいことですが、社会においては様々な考えを持つ人達と共存・協働しなければなりません。異なる意見をぶつけ合い、議論を積み重ねることによってこそ理解が深まり、関係的自立が実現するのではないでしょうか。他者の意見をよく聞き、議論を尽くして得られた結論に従って行動することが基本です。自信を持つことは大切ですが、独善的であってはなりません。「唯我独尊」にならないように心がけて下さい。
 大妻女子大学の校訓は「恥を知れ」です。「恥を知れ」は、学祖大妻コタカの「自分を高め、自分の良心に対して恥ずるような行いをするな」という、自らを戒めるための言葉です。本日大妻女子大学を卒業するに当たり、自らの行動を振り返ってみて下さい。自分の良心に対して恥ずるような行いをしていませんか? 皆さんから見て周囲の人々はどうでしょうか。さらには、新聞やTV等を通じて報道される人々はどうでしょうか。
 残念ながら、私利私欲で物事を行う人、我田引水をする人、人の迷惑を顧みない人、嘘をつく人、人を騙す人、卑怯な振る舞いをする人など枚挙に暇がありません。この様な人達は、自らに「恥を知れ」と語りかけるのを忘れているのだと思います。皆さんもこの機会にもう一度自分に問いかけてみて下さい。
 「関係的自立」を実現するためには、一人一人が「恥を知る」ことが前提であると思います。「恥を知らない」人と「関係的自立」を構築することは難しいからです。
 「恥を知れ」と「関係的自立」、私は、これ程素晴らしい校訓と教育理念を持つ大学を他に知りません。しかし、肝腎なことは一人一人がそれを実践出来るかどうかです。残念ながら、自らに「恥を知れ」と問いかけるのを忘れている人が少なからず目に付きます。「唄を忘れたカナリア」というのがありますが、呉々も「恥を知らない人間」にはならないように心がけて下さい。皆さんは、校訓「恥を知れ」を座右の銘として絶えず自らを戒め、「関係的自立」の実践に務めるとともに、人生の「美学」を持ち、「品格」ある女性であり続けて下さい。
 グローバル化やIT化の進展、少子長寿化などの社会の急激な変化は、人間関係の希薄化、産業構造の変化、格差の拡大、豊かさの変容など、様々な形で社会のあらゆる側面に大きな影響を及ぼしています。皆さんはこの急速に変化を続ける予測困難な21世紀の文明の中で生きていかなければなりません。皆さんはこれまで学校生活において様々な試練を課せられてきましたが、本当の試練はこれからです。皆さんはこれから社会に出て実力で勝負し、試練を受け続けることになりますが、時として大妻女子大学の出身であることによる恩恵を受けることがあると思います。それは皆さんの先輩達が100年以上かけて築き上げてきた大妻女子大学に対する信頼の賜です。先輩達に感謝するとともに、皆さんも母校の評価を高めるべく努力して下さい。皆さんが「恥を知れ」を座右の銘とし、「関係的自立」の実現に努めて下さることが、大妻女子大の評価を高めることになります。
 大学の社会的評価を高めるためには、卒業生の皆さんがそれぞれに活躍して下さることが基本ですが、それだけでは十分ではありません。卒業生達の縦横の繋がりが重要です。卒業後も、卒業生同士の繋がり、卒業生と在学生との繋がり、すなわち、妻っ娘達のネットワークを大切にして下さい。
 皆さんはこれから社会に出て、様々なことを経験しながら成長し続けることになりますが、嬉しいことがあった時、困難に直面した時、学問や社会の新しい展開について学ぶ必要がある時など、何時でも気軽に母校を訪ねて下さい。また、大学祭やホームカミングデーなどには是非里帰りをして後輩達を励まして下さい。大妻女子大学は皆さんの故郷です。
 私は、大妻女子大学において、皆さんと共に、校訓と教育理念が如何に素晴らしいか、そしてその実践が如何に難しいかを学びました。もう一度繰り返します。校訓「恥を知れ」を座右の銘として「関係的自立」の実践に努め、「主体的に考え、生涯学び続ける」ことを忘れないで下さい。
 本日大妻女子大学を巣立つに当たり、もう一度校訓を確認しましょう。卒業生、修了生の皆さん、起立して下さい。私が一、二、三と声をかけますから、全員揃って大きな声で校訓を唱え、自らを戒めて下さい。一、二、三。(卒業生達が「恥を知れ」の大合唱)
 妻っ娘の皆さん、大妻の校訓を忘れないで下さい。
 皆さんの明日からの果敢な挑戦に期待し、健闘を祈ります。ごきげんよう! (卒業生達が「ごきげんよう」の大合唱と拍手)
[2016年3月19日 東京国際フォーラム]