都民カレッジの灯をいつまでも
─事業終了にあたって─
都民カレッジは、都民の学習意欲の高まりに応えて生涯学習の場を提供することを目的に、1991年に開校しました。都立大学の八王子への移転と同時に、キャンパスの西端に瀟洒な2階建ての都民カレッジ棟を建設してスタートし、以来11年の間に、丸の内キャンパスの開設、都立大キャンパスのパオレビルへの移転、丸の内キャンパスの東京国際フォーラムへの移転、財団の統合による機構改革などの変遷はありましたが、一貫して都立大学のオープンカレッジとして、学部レベルの講座をはじめ大学院レベルの講座や区・市との共催講座、講演会など各種の事業を実施することによって、多様で旺盛な都民の学習意欲に応えて参りました。
この間に開講した講座は約3千を数え、それを受講した人は延べ12万人にのぼります。受講生は年齢や経歴など実に多彩でしたが、全員に共通している点がありました。それは旺盛な知的好奇心と熱意です。開校当初、先陣を切って出講した教授が「受講生は遅刻をしない、ノートをとる、居眠りしない、私語がない、質問をする、冗談を言うと笑ってくれる」と教授会で感想を述べたところ、日々接している学生達との余りの違いに爆笑が湧き上がったという逸話が残っています。また講義終了の際花束を贈られた、感謝の手紙が届いた、後日も熱心な質問が寄せられたという報告は、受講生の知的欲求と講師のアカデミズムとの幸福な出会いを物語っています。中には、ファン倶楽部が出来て、後々まで講師を囲んで勉強会を続けた例も幾つかありました。私自身の経験でも、受講生の向学心や積極性に幾度となく胸を打たれたものです。
都民カレッジは「資格がとれる」「就職に役立つ」等の実利が期待できるわけではありません。受講生は純粋に「学ぶ楽しみ」「知るよろこび」を求めていました。その姿は、様々な人生経験の後に湧いてくる勉学意欲が最も真摯であることを私達に教え、主体的・能動的であるべき「学習」の本来の在り方を実地に示してくれました。都民カレッジの存在は、東京の知的活力を雄弁に物語るものだといえるでしょう。都民カレッジに集った人々が約12万人という多数を数えたことを、私達は誇りに思います。
未知の事柄を知りたいと望む気持、広く深く学びたいと願う心は若者だけのものではありません。国民生活の向上と科学技術の進歩により空前の長寿化を実現した我が国において、生涯学習への取り組みは重要な課題となっています。今こそ中高年者のために「米百俵」を投じるべき時であり、都民カレッジはその先進例として事業を展開して参りました。しかしながら、この度、東京都の行財政改革により、今期を以て閉校することとなりました。都民カレッジは民間で展開されている類似の事業とは本質的に性格を異にしており、学問的・専門的な学習ができるかけがえのない場として機能してきただけに、この度の事業終了は誠に残念であります。
しかし都民カレッジが閉校しても都民の生涯学習意欲が消えるわけではありません。東京の街に灯った「生涯学習の灯」は東京都立大学に引き継ぎ、これからも絶やすことなく大切に守り育て、その光を未来に伝えていきたいと願っています。長い間都民カレッジを支えて下さった多くの受講生の方々並びに関係各位に厚く御礼申し上げます。
[都民カレッジ事業報告書『都民カレッジの歩み』所載]