「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」を実施して

1. 「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」の趣旨

 文部科学省では、競争的環境の中で個性が輝く大学を作るための施策の一環として、国公私立大学を通じて優れた取組を選定して財政支援を行い、高等教育の活性化を図ることを目的とするプログラムを推進している。
 一昨年度からスタートした「21世紀COEプログラム」、昨年度から始まった「特色GP」即ち「特色ある大学教育支援プログラム」に続いて、今年度から「現代GP」即ち「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」が仲間入りした。尚、「GP」は Good Practice の略であり、近年国際機関の報告書等において「優れた取組」の意味で広く使われている。諸外国の大学改革でも使われており、各大学が工夫を凝らし、他の大学の参考になる様な取組を表わす略称である。
 「大学は閉鎖的である」という社会の批判に対して、多くの大学が社会のニーズに応える「開かれた大学」を目指して様々な教育面の改革を試みている。その様な状況の中で、「現代GP」は、各種審議会からの提言等をもとに社会的要請の強いテーマを設定して、各大学等から応募された取組の中から、特に優れた教育プロジェクトを選定して財政支援を行うことにより、高等教育の活性化を促進することを目的とするものである。
 今回は、社会的要請の強いテーマとして
 ・ 地域活性化への貢献
 ・ 知的財産関連教育の推進
 ・ 仕事で英語が使える日本人の育成
 ・ 他大学との統合・連携による教育機能の強化
 ・ 人材交流による産学連携教育
 ・ ITを活用した実践的遠隔教育(e-Learning)
の6つを設定した。
 5月25日に第1回現代的教育ニーズ取組支援プログラム選定委員会を開催して、基本方針、公募要領、審査方法、審査基準等の議論を開始した。審査はテーマ毎に設置する6つのの部会で行い、総合評価部会(選定委員会の正副委員長と各部会の正副部会長で構成)で全体的な調整を図り、選定委員会で選定結果を確定することとした。テーマ毎の部会で審査方法、審査基準等の議論を行い、6月29日の第3回選定委員会で公募要領、審査要項、審査基準等を確定して、6月30日に公募通知を発出した。7月9日に東京、7月12日に京都において説明会を開催し、7月20日〜23日に申請書の受付を行った。
 「特色GP」が継続的に実績を挙げている取組を対象としているのに対して、「現代GP」は、必ずしも実績に拘らずに、テーマの趣旨・目的に沿った確実な実施計画のもとに我が国の大学教育改革に資することが期待出来る取組を対象とした。従って、「現代GP」は新しい教育モデルへの挑戦を期待するものであり、委員の一人は「未来志向の夢のあるGP」と呼んだ。当然のことながら、選定に当たっては、内容の新規性やテーマの趣旨・目的への適合性のみならず、その「実現可能性」を重要な判断基準とした。即ち、新しい企画に挑むための十分な準備とそれを貫徹出来る力量も重要な判断要素とした。
 今年度は上記の6つのテーマを設定して募集したところ、申請のための準備期間が短かったにも拘わらず、予想を上回る559件の申請があり、特に「地域活性化への貢献」に対しては246件もの申請があった。私自身も机の上に申請書類を広げておき可能な限り目を通したが、多くの申請に「something new」が見られ、多くの大学において様々な「工夫」のある取組を実施しようとしているエネルギーを実感することが出来た。このエネルギーが我が国の高等教育の発展につながることを確信する。
 審査は6つのの部会において、ペーパーレフェリーの意見を参考に書類審査を行い、「地域活性化への貢献」と「他大学との統合・連携による教育機能の強化」の2つのテーマについては、書類審査に加えて面接審査を実施した。審査は、取組そのものの優劣を判定することは言うまでもないが、申請書の書き方の巧拙が目に付いたことも事実であった。
 初年度ということもあって、非常にタイトな日程を余儀なくされたにも拘わらず、また予想を上回る応募があったにも拘わらず、関係者の超人的な努力のお陰で、予定通り選定業務を全うすることが出来たことに感謝したい。

2. 選定の基本方針

 審査に当たっては、全てのテーマにおいて
 ・ プログラムとの適合性
 ・ 実現可能性
 ・ 教育の社会的効果等
 ・ 評価体制等
を基本的な判断基準とした。
 「プログラムとの適合性」は、現代的教育ニーズに対応した取組として各テーマの趣旨・目的に沿って具体的且つ明確に設定されているか、独創性又は新規性において優れているか、組織を挙げての取組になっているかなどに留意するものである。例えば、「地域活性化への貢献」のテーマについていえば、地域貢献そのものに重点がおかれ、学生教育・学生参加の観点が軽視されていると思われる企画が幾つか見られたが、この「現代GP」はあくまで「教育」ニーズへの取組に対する支援であることから、「プログラムとの適合性」に問題があると判断した。
 「特色GP」が継続的に実績を挙げている取組を対象としているのに対して、「現代GP」はテーマの趣旨・目的に沿った確実な実施計画のもとに我が国の大学教育改革に資することが期待出来る取組を対象とした。従って、選定に当たっては、「実現可能性」が重要な判断基準となった。即ち、目標達成のために妥当なスケジユールが組まれているか、教員組織などの実施体制は整備されているか、適切な実施場所が選定されているかなど、新しい企画に挑むための十分な準備とそれを貫徹出来る力量も重要な判断要素とした。そのためか、今回の選定結果から見ると、比較的規模の大きな大学等による取組が選定されている割合が大きい。
 「教育の社会的効果等」は、取組の成果が他大学等に波及効果をもたらし、我が国の高等教育の質的向上に寄与することを期待するものである。必ずしも新規性がなくても新たな付加価値の創出に貢献する取組や、学生の主体的学習機会の充実につながる取組などにも注目した。
 「評価体制等」は、組織として取組に対する評価を適切に実施し、教育活動の質の向上に結びつけるシステムの整備状況を見るものである。
 このような基本方針の下に、テーマ別の個別事項を加味して選定作業を進めた。

3. 選定結果の概要

 申請は全部で559件あり、その中から86件を選定した。選定率は15.4%である。テーマ別に見ると、「地域活性化への貢献」では246件中36件、「知的財産関連教育の推進」では22件中5件、「仕事で英語が使える日本人の育成」では74件中13件、「他大学との統合・連携による教育機能の強化」では38件中6件、「人材交流による産学連携教育」では71件中11件、「ITを活用した実践的遠隔教育(e-Learning)」では108件中15件を選定することにした。
 以下に、テーマ毎の選定状況を、部会長からの報告などを基に整理しておく。

(1)地域活性化への貢献

 テーマの趣旨・目的は、大学が地域社会の活性化に資するため、その文化や経済と結びついた特色ある教育活動を展開し、大学の人的・物的資源を活用して、自治体等と一体となって学生教育の視点を取り入れて行う取組を支援することである。
 予想を大きく上回る申請があったが、日程の関係で選定委員を増員することが出来ず、選定委員やペーパーレフェリーに多大な御労苦をおかけする結果になった。9名の選定委員で246件の申請を評価することになり、ペーパーレフェリーによる評価を参考にして50件を選び、面接審査の対象とした。地域の活性化に貢献する目的で行う取組を選ぶことは当然であるが、特に学生教育の観点が取り入れられているか否かを重要な判断基準とし、今後他大学等の参考となる取組であるかどうかについても評価して、最終的に36件を選定した。判断に際して、活性化を図ろうとする分野の明確性、外部との組織的な連携などにも注目した。
 地域をフィールドとして歴史・文化・自然環境などを学ぶ教育プログラム、大学・行政・市民が三位一体で作る地域交流型教育プログラム、地域の学校や企業などと連携して行う教育プログラム、地域密着型実習プログラム、地域に貢献する人材を育成する教育プログラム、教育・研究と地域貢献を一体化する実践教育プログラム、卒論・修論のテーマを地域から募集・地域に提案、・・・、など様々な類型があり、教育の内容は特定分野に特化したものと多分野にまたがるものとがある。
 選定された取組は、地域固有のものでありながら実現すれば全国に或いは世界にそのモデルを発信できる内容のものが多くあるように思えた。

(2)知的財産関連教育の推進

 テーマの趣旨・目的は、大学における知的財産の創造、保護及び活用の促進を目的とし、適切な技術及び知識を有する人材の育成に資する取組を支援することである。
 「知的財産基本法」から「知的財産推進計画2004」に至る一連の「知的財産に関する専門的知識を有する人材の確保」等に必要な施策との関係はもちろん、広く社会全体の知的財産マインドの醸成等を含めた、知的財産の創造、保護及び活用といった知的創造サイクルの活性化につながる教育プログラムを対象とした。
 具体的には、デジタル・アーカイビストの養成を目的としたもの、コンテンツの創造あるいはコンテンツ・プロデューサの育成を目的としたもの、知的財産関係高度専門人材の育成を目的としたもの、更には教養として広く知財マインドの育成を目的とするもの等の領域の類型が見られた。知的財産制度についての理解と知的財産教育の効果が認められるか、知的財産関連活動への学生の参加が促進されるよう配慮されているかなどを判断基準とした。

(3)仕事で英語が使える日本人の育成

 テーマの趣旨・目的は、大学における英語教育の抜本的向上を目的とし、「仕事で英語が使える」人材の養成を行える取組を支援することである。
 部会では審査を始める前に、「仕事」と「使える」の意味を確認した。「仕事」とは、特定の専門職業のみを指すものではなく、英語運用能力が必要と考えられる状況が生じ得る仕事環境も含まれること、「使える」とは、単なる会話能力ではなく、交渉能力も含まれることとした。目的を達成するために教育課程が適切に計画されているか、学生のキャリア形成機会の充実にもつながるような計画となっているか、語学力だけでなくコミュニケーション能力の醸成につながるような計画となっているかに注目した。更に、その取組が組織全体の英語教育の充実・発展につながる可能性についても留意した。
 医学、工学、国際ビジネスなど特定分野で国際的に活躍出来る人材育成を目指すプログラム、「国際人」の育成を目指して授業の全部又はかなりの部分を英語で行い留学を義務付けるプログラム、海外キャンパスを活用する体験型英語教育カリキュラムなど意欲的な取組が多かったが、実現性に疑問が残るものもあり、教育課程が効果的に編成されているか、学生のモティベーションを高める工夫がされているかなどにおいて差が見られた。

(4)他大学との統合・連携による教育機能の強化

 テーマの趣旨・目的は、大学間の統合及び相当規模の連携により、きめ細かな教養教育等を実施するなど、教育機能の充実・強化を図る新たな取り組みを支援することである。
 このテーマには38件の申請があり、6件を選定した。単独大学による申請が15件中2件、複数大学による申請が23件中4件であった。
 取組内容から申請を分類すると、統合後の大学による教育機能の強化、地域コンソーシアム方式による単位互換、大学間連携による相互補完、学部間連携による相互補完、海外大学との連携、高大連携などである。地域コンソーシアム方式による大学間連携の取組が多かったが、新規性や社会的効果などが評価の重要な視点となった。また必ずしも過去の実績は要求しないが、その取組の実現可能性については注目し、統合や連携によって実質的に教育機能が強化される取組であるかどうか、学問分野の補完という視点から有効かなどを重要な判断基準とした。
 11件の取組を対象として面接審査を実施し、申請書類だけからは読み取れなかった取組内容の全貌がより明確となった。

(5)人材交流による産学連携教育

 テーマの趣旨・目的は、インターンシップの高度化や大学での重点的な教育システムの開発等創造的な人材育成のための教育プログラムを産学協同で開発・実践する取組を支援することである。
 公募要領に「長期的なインターンシップを実施するための環境の充実・強化」と「大学等を拠点として、産業界の優秀な人材を活用しつつ、産学が共同で行う先端的・実践的人材育成のための教育プログラム」が例示されていたが、両者を混成した全学的な取組が多数申請され、高等教育機関の改革への強い意気込みが感じられた。インターンシップについては、大学等が学生や企業に対する窓口などの組織体制整備を行うことを申請の条件とした。
 海外インターンシップ、協働型インターンシップ、疑似インターンシップ、大学主導型インターンシップなど様々に工夫を凝らした高度な内容のインターンシップが多く見られた。また、地域医師会と連携した医学教育、医工連携教育、プロジェクト主義に基づくオンキャンパス産学連携教育など明確な目的を持つ産学連携教育の取組が目を惹いた。
 審査に当たって特に強く留意した点は、大学と企業等との組織的な連携体制、教育目標及び教育課程との関係、派遣学生のフォローアップの方法、単位認定方法などである。

(6)ITを活用した実践的遠隔教育(e-Learning)

 テーマの趣旨・目的は、ITを活用した特色ある教育方法やカリキユラムの開発及び展開に資するため、優れたe-Learningの取組を支援することである。
 公募要領において「e-Learning」とは「インターネット技術を活用し、いつでもどこでも学習できること」を前提とすると定義し、正規の教育課程としての取組を申請の条件とした。成果物はインターネットに接続されたサーバに蓄積して、いつでもオンデマンドで提供できることを取組の前提とし、また、サーバに蓄積して公開するためには、著作権法上の問題が生じないことが重要であるため、著作権のことについても申請の条件に盛り込んだ。また、成果物の流通を飛躍的に促進させるために、メタデータ情報の付加を前提とした。これによって、学習者は各大学等が提供するコース全体の中から自らが求めるコースを選択することが可能になる。これらの申請の条件は、選定された優れた取組を支援すると同時に、スタート段階にある我が国の本格的なe-Learningの発展を考慮して、付加したものである。尚、選定された機関に対しては、著作権処理に関するノウハウや技術的サポート等、e-Learning全般についてのサポートが受けられる様にしている。
 e-Learningを活用する副専攻教育、e-Learningによる専門重視の教育実践、疑似体験学習システムの開発、e-Learningのための教材の開発、インターネット型大学院、Ubiquitous-Learning、医療教育のためのe-Learningシステムの構築、e-Learningによる教養教育科目の展開、全学の情報系科目のe-Learning化、国際遠隔教育、e-Learningによる学習支援、双方向型遠隔教育、e-Learningによる単位互換など、教育効果を高めることが期待出来る様々な取組を選定することが出来た。

4.高等教育も「競争」と「評価」の時代

 公募期間が20日程度であったにも拘わらず、559件もの申請があったことは、「競争的環境の中で個性輝く大学を作る」努力が、研究のみならず教育に関しても、多くの大学等において着実に積み重ねられつつあることを実感させるものである。高等教育は確実に「競争の時代」に入ったと言える。
 一方、学校教育法に規定された「認証評価制度」が間もなく本格的に始動する。「教育」に対する第三者評価である。大学人の多くは「研究」に対する第三者評価には慣れていると思われるが、「教育」に関する評価は辞書にない概念だった。これからは教育の質が第三者によって評価され、社会に公表されることになる。大学等は、教育の質に関しても競争し、評価を受ける時代が到来したのである。
 この様な状況の中で「現代GP」は、大学等が現代的教育ニーズに応えるべく工夫することに対してインセンティブを与えることを目的としてスタートした。
 しかしながら、大学としてこの様な申請に取り組むのは容易なことではない。学内で横断的に教育内容や将来構想を検討することが必要になり、学長のリーダーシップが問われる。このような申請に取り組むことによって、「研究」に関しては十分な熱意を持ち、競争的研究資金の獲得に全力で取り組んできた大学人達が、大学における「教育」の重要性を認識し、大学と社会との関係を意識する結果になったものと思われる。
 また、学内においては「学部の壁」を低くするなどの効果があったのではないだろうか。これまでの大学においては、各教員が「一国一城の主」的な色彩が強く、「学部の壁」「学科の壁」「教員間の壁」が高かった。教育において個々の教員の資質が重要であることは当然であるが、間もなく本格的に始動する認証評価制度などにおいて問われているのは組織としての教育力である。
 「評価」には「公正性」と「透明性」が求められる。「現代GP」の選定においてはこの点に十分留意したと自負している。審査方法・審査方針・審査基準などを事前に公表し、それに則って公正な審査を行った。とはいえ、選定結果に対しては、当然のことながら、異論や不満があると思う。委員全員が「極めて優れている」と認める取組とその逆は問題ないと思うが、甲乙付け難い優れた取組が並ぶ中から、心を鬼にして採択・不採択を決断するのは辛いことである。今回選定されなかった取組の中にも、数多くの優れた構想があった。このことは多くの大学等が、現代的ニーズに応える教育に取り組む努力をしていることを意味する。選定に携わった者としては、このエネルギーを大切にしなければならないと痛感する。幸いなことに、文部科学省はぎりぎりまで頑張って、次年度の予算を獲得してくれた。このプログラムが「仏作って魂入れず」にならないためには、単発に終わってはならない。このプログラムのために多くの大学等が発揚したエネルギーを活かしていくことが重要である。
 「教育」に関しても「競争」と「評価」の文化が定着することにより、我が国の高等教育が十分な国際競争力を有する水準に高まることが望まれる。「競争」と「評価」の時代には、積極的な情報発信が重要な意味を持つ。「現代GP」に関しては、選定された全ての大学等に対して、ホーム頁で選定された取組の内容、成果などの情報を公表することをお願いした。文部科学省のホーム頁から選定された大学等のホーム頁にリンクして、取組紹介の頁が閲覧出来るようになっている。現時点では、取組の内容を詳しく説明している大学等もある反面、単に「現代GPに採択されました」という程度の簡単なものもあり、温度差が大きい。選定された大学等が、ホーム頁を有効に活用して特色をPRするとともに、社会から評価を受けることによって、更に発展することを期待する。

[『大学と学生』2005年2月号所載]