新しい評価の時代を迎えて
大学の質を保証するためのシステムは、国による設置認可と、設置後の教育研究活動に対する様々な評価の組合せにより成り立っている。これまでは、国による厳格な設置認可による質の保証に力点が置かれてきた。
設置後の評価については、1991年の大学設置基準及び大学院設置基準の改正において「教育研究活動等の状況について自ら点検及び評価を行い、その結果を公表する」ことが義務付けられ、爾来、本学は自己点検・評価活動を日常的に実施し、隔年に報告書を刊行してきた。この報告書がその第6巻に当たる。本学は全国で最も熱心に自己点検・自己評価に取り組んでいる大学であると自己評価している。
一方、この度中央教育審議会の答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」を受けて学校教育法が改正され、「設置認可制度の弾力化」「第三者評価制度の導入」「法令違反状態の大学に対する是正措置の導入」が実施されることになった。それによると、大学は教育研究等の状況について自己点検・自己評価を行いその結果を公表すると共に、定期的に認証評価機関による評価即ち「第三者評価」を受けることが義務づけられ、また、大学が設備、授業その他の事項について法令違反状態にあると認められるときには、文部科学大臣による「改善勧告」「改善命令」「廃校命令」などの措置がとられることになった。我が国の大学評価の基本方針が「国による設置時の質の保証」から「第三者による事後評価」へ重心を大きく移動することになったのである。認証評価機関としては、現時点では大学評価・学位授与機構、大学基準協会などが想定されるが、何れの場合においても各大学が行う自己点検・自己評価を踏まえて「第三者評価」を実施することになるので、今まで以上に自己点検・自己評価の重要性が増大することになる。
大学基準協会の評価は、協会が設定する「大学基準」を基に協会の正会員になるための加盟判定審査及び正会員に対する相互評価を通じて大学の教育・研究の質の維持向上と改善を進めることを目的としている。本学では、1992年に大学基準協会の加盟判定審査を受け「適格」と認定され、正会員になっている。
一方、大学評価・学位授与機構は国立大学を対象として達成度評価を実施する機関として設置されているが、2002年度着手分からは公立大学も希望すれば対象に加えられることにり、本学では、人文学系と経済学系の研究評価と教育評価を受けることになった。本報告書は大学評価・学位授与機構による第三者評価を受けることを想定した構成になっている。
今期の委員会は教育活動の視点から評価を行い、前回と同様に、学生と教員による「授業評価」を実施した。初めての試みであった前回は様々な戸惑いがあったが、その結果が授業の質の向上に資することが理解され、今回は多くの教員から積極的な取り組みが見られたことは喜ばしい。学生による「授業評価」はアメリカなどの大学では何十年来実施されていることであり、日本でも既に多くの大学で実施されているが、本学の場合は学生と教員による双方向の評価であることが特色である。大学の基本的な機能は言うまでもなく「研究」と「教育」であるが、「研究」が科研費を始めとする様々な評価に曝されているのに比べ、これまで「教育」に対する「評価」は積極的には行われてこなかった。その理由は客観性のある評価基準の設定が困難であったからである。しかし、昨今は大学の教育に対する社会の評価が厳しくなっている。現在推進中の改革においても「教養教育の再構築」を始めとして「教育」の見直しが最大の柱である。民間の機関が実施した調査によれば、本学は「学生の満足度」が高い大学とされているが、それに安んじていては本学の将来は危ういといわなければならない。
大学評価の中で最も難しい「教育の評価」に積極席に取り組み、その結果を「教育」の改善に活かすべくファカルティ・ディベロップメントへの提言を行い、「第三者評価」にも積極的かつ適切に取り組んだ今期委員会の精力的な活動に敬意を表したい。多大な時間と労力を注いで成し遂げた自己点検・自己評価の結果を、本学の教育・研究活動に真摯に反映させ、投入したエネルギーを補って余りある向上・発展をみることを期待している。
[東京都立大学自己点検評価報告書『東京都立大学2002』巻頭言]