いざはばたかん都鳥
山住先生、6年間本当に御苦労様でございました。先生が本学を去られることは教職員一同惜別の思い切なるものがございますが、どうか御健康に留意され、今後共私達後進を御指導下さいますようお願い申し上げます。
私は青天の霹靂のほとぼりがさめないまま新年度を迎えようとしていますが、大学改革、財政難、独立行政法人化、学生問題等々、幾多の厳しい試練に直面している本学の現実を思うとき、いつまでも呆然としてはいられません。
思い起こせば6年前、総長の歓送迎会の挨拶で私は「山住総長の前に難問が“山積み”されている」と申し上げました。その後、当時の難問の幾つかは解決されましたが、新たな難問が次々に発生し、今では難問の山で先が見えない程です。多くの方々から「何も出来ない難しい時期に、お気の毒ですね」と言われましたが、私は「難問の山は発展の足がかり」と前向きにとらえようと思っています。加えて、今年は本学開学50周年という記念すべき年であり、更に、昨年からの公立大学協会の会長校としての務めもあります。都立大学が明るい未来へ前進するために、何卒宜しくお力添えをお願い致します。
この4月には都知事が交代します。都財政の危機的状況の中でその影響が懸念されるところですが、大学にとっては「研究・教育の自由」が命です。大学が行政に支配されたり、行政に迎合したりするようなことがあってはならないと考えています。「自由でアカデミック」といわれる学風を守り育て、教職員にとっては「自由に研究ができる大学」「楽しく教育ができる大学」「在職することを誇りに思える大学」であり、学生にとっては「安心して学べる大学」「知的好奇心を増大させる大学」「入ってよかったと思える大学」であるような、真に学問を愛する者が集う大学であり続けたいと思います。そのためには優秀な人材の確保と教育・研究環境の整備が最重要項目と考えます。大学の全構成員が現状に甘んじることなく、絶えず向上心をもって本学の発展を目指して力を合わせましょう。
大学の運営に当たっては、できるだけ広く構成員の意見を聞き、意思の疎通をはかることが大切だと考えていますので、形式に囚われずに率直な御意見をお聞かせ頂きたいと思います。何時でも気軽に声をかけて下さい。電話でもFAX でも e-mail でも結構です。多くの方々の建設的な提言をお待ちしております。
ところで、都立大学のシンボルである「都鳥」はユリカモメの雅称で、古くから和歌・物語・俳句等に登場していますが、『伊勢物語』の第九段にある在原業平の歌
名にしおはばいざ言問はむ都鳥
わが思ふ人は在りやなしやと
は特に有名で、隅田川にはこの歌に縁のある言問橋があり、その近くには言問通や業平橋等があって風雅な地名から昔を偲ぶことが出来ます。また、江戸・東京の開祖ともいえる太田道潅の
年経れど我未だ知らぬ都鳥
隅田川原に宿はあれども
という歌もあり、平安の昔から江戸・東京の歴史と文化を背負って飛び続けている「都鳥」が本学のシンボルであることを私は密かに喜ばしく思っています。私達も都鳥のように、巷の喧騒を下に見て、青い空にゆったりと翼を広げ、思うままに高く飛翔して学問と文化の遙かな地平を展望したいものです。
開学50周年を迎え、21世紀へ向かって力強く飛び立とうではありませんか。
新世紀目指しはばたけ都鳥
[『大学広場』1999年3月31日号所載]