現代的教育ニーズ取組支援プログラムの意義と成果

1. 「現代GP」の趣旨

 大学の個性化や国際競争力の強化が求められる中で、大学における教育の質の向上を図り、世界で活躍出来る人材を養成することが重要な課題であることから、文部科学省では、国公私立大学を通じて教育改革を支援するプログラムを推進している。
 その中で、2004年度にスタートした「現代GP」即ち「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」は、各種審議会からの提言等を踏まえ、社会的要請の強い政策課題に対応したテーマを設定して、大学・短期大学・高等専門学校から申請された取組の中から、特に優れた教育プロジェクトを選定して財政支援を行なうとともに、広く社会に情報提供することにより、高等教育の活性化を促進することを目的とするものである。
 文部科学省が設定した社会的要請の強いテーマは、2004年度は
・ 地域活性化への貢献
・ 知的財産関連教育の推進
・ 仕事で英語が使える日本人の育成
・ 他大学との統合・連携による教育機能の強化
・ 人材交流による産学連携教育
・ ITを活用した実践的遠隔教育(e-Learning)、
であったが、2005年度には一部を変更して
・ 地域活性化への貢献(地元密着型)
・ 地域活性化への貢献(広域展開型)
・ 知的財産関連教育の推進
・ 仕事で英語が使える日本人の育成
・ 人材交流による産学連携教育
・ ニーズに基づく人材育成を目指したe-Learning Programの開発
となり、2006年度には更に
・ 地域活性化への貢献(地元型)
・ 地域活性化への貢献(広域型)
・ 知的財産関連教育の推進
・ 持続可能な社会につながる環境教育の推進
・ 実践的総合キャリア教育の推進
・ ニーズに基づく人材育成を目指したe-Learning Programの開発
に変更された。
 「特色GP」が継続的に実績を上げている取組を対象としているのに対して、「現代GP」は、必ずしも実績にこだわらずに、テーマの趣旨・目的に沿った確実な実施計画のもとに新たな高等教育改革に資することが期待出来る取組を対象としている。従って、「現代GP」は新しい教育モデルへの挑戦を期待するものであり、これから様々な取組を行なおうとする大学等にとっても、申請のしやすいプログラムであるといえる。
 上記の6つのテーマを設定して募集したところ、2004年度は申請のための準備期間が短かったにも拘わらず、予想を上回る559件の申請があり、特に「地域活性化への貢献」に対しては246件もの申請があった。2005年度も509件の申請があり、多くの大学等において様々な教育改革を実施しようとしているエネルギーを実感することが出来た。このエネルギーが我が国の高等教育の発展につながることを確信している。

2. 審査の概略

 本プログラムは、大学・短期大学・高等専門学校からの申請を受け、専門家や有識者等によって構成される現代的教育ニーズ取組選定委員会が審査を行なった。選定作業は、選定委員会の下にテーマ毎に設置した6つの部会で行ない、総合評価部会(選定委員会の正副委員長と各部会の正副部会長で構成)が全体的な調整を図り、最終的に選定委員会で選定結果を確定することとした。
 審査は各部会において、ペーパーレフェリーの意見を参考に書類審査による一次選考を行ない、採択予定件数の1.7倍程度の申請に対して面接審査を実施した。初年度は「地域活性化への貢献」と「他大学との統合・連携による教育機能の強化」の2つのテーマについてのみ面接審査を実施したが、2年目には全てのテーマにおいて面接審査を導入するなど、審査方法の充実を図った。委員からは、書面からでは窺い知ることのできない部分を明らかにすることができ、大変有意義だったとの意見が多く、全てのテーマにおける面接審査の導入は適切だったと考えている。
 審査に当たっては、全てのテーマにおいて
 ・ プログラムとの適合性
 ・ 実現可能性
 ・ 教育の社会的効果等
 ・ 評価体制等
を基本的な判断基準とした。
 「プログラムとの適合性」は、現代的教育ニーズに対応した取組として具体的且つ明確に設定されているか、独創性又は新規性において優れているか、組織を挙げての取組になっているかなどに留意するものである。例えば、「地域活性化への貢献」のテーマについていえば、地域貢献そのものに重点がおかれ、学生教育・学生参加の観点が軽視されていると思われる企画が幾つか見受けられたが、この「現代GP」はあくまで「教育」ニーズへの取組に対する支援であることから、「プログラムとの適合性」に問題があると判断した。
 「現代GP」は、必ずしも実績にこだわらずに、確実な実施計画のもとに我が国の高等教育改革に資することが期待出来る取組を対象としているため、選定に当たっては、「実現可能性」が重要な判断基準となった。即ち、目標達成のために妥当なスケジユールが組まれているか、教員組織などの実施体制は整備されているか、適切な実施場所が確保されているかなど、新しい企画に挑むための十分な準備とそれを遂行出来る力量も重要な判断要素とした。
 「教育の社会的効果等」は、取組の成果が他大学等に波及効果をもたらし、我が国の高等教育の質的向上に寄与することを期待するものである。必ずしも新規性がなくても新たな付加価値の創出に貢献する取組や、学生の主体的学習機会の充実につながる取組などにも注目した。
 「評価体制等」は、組織として取組に対する評価を適切に実施し、教育活動の質の向上に結びつけるシステムの整備状況を見るものである。
 このような基本方針の下に、テーマ毎の個別条件を加味して選定作業を進め、初年度は559件の申請の中から86件、2年目は509件の中から84件を選定した。
 中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」において、各高等教育機関は「それぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、各学校種においては、個々の学校が個性・特色を一層明確にしていかなければならない」と述べられている。「現代GP」では募集に際して学校種別の「枠」は設定していないが、各学校種の目的に即した質の高い申請が多く見られ、審査においても学校種の目的を踏まえて評価を行なった。結果として、社会や学習者の様々なニーズに的確に対応できる取組が選定出来たと考えている。また、初年度と比較して、2年目は十分に時間をかけて検討したと思われる質の高い取組が多かったが、特に、高等専門学校における取組に優れたものが多く見られた。紙一重の差で選定されなかった取組も数多くあり、各大学・短期大学・高等専門学校における教育改革が一段と進展しつつあることが窺えて大変心強い。
 「現代GP」は、選定されることだけに意義があるのではなく、選定された取組をどのように展開していくか、またそれを社会に広く情報提供し、我が国の高等教育改革に資するものにできるかという点が重要である。

3. 「競争」と「評価」の時代におけるGP効果

 毎年500件を超す申請があったことは、「競争的環境の中で個性輝く大学を作る」努力が、研究のみならず教育に関しても、多くの大学等において着実に積み重ねられつつあることを実感させるものである。高等教育は確実に「競争の時代」に入ったと言える。
 一方、大学等は様々な「評価」に曝されているが、組織としての「評価」には、法律で受けることが義務付けられているものと、大学等が自主的に受けるものとがある。前者の代表は「認証評価」であり、21世紀COEや各種のGP及びJABEEなどは後者の例である。大学人の多くは「研究」に対する第三者評価には慣れていると思われるが、「教育」に関する評価は最近までは辞書にない概念だったかも知れない。これからは教育の質が第三者によって評価され、社会に公表されることになる。高等教育機関は、教育の質に関しても競争し、評価を受ける時代が到来したのである。
 この様な状況の中で「現代GP」は、大学等が現代的教育ニーズに応えるべく工夫することに対してインセンティブを与えることを目的としてスタートした。しかしながら、大学等が組織としてこの様な申請に取り組むのは容易なことではない。学内で横断的に教育内容や将来構想を検討することが必要になり、学長等のリーダーシップが問われる。この様な申請に取り組むことによって、「研究」に関しては十分な熱意を持ち、競争的研究資金の獲得に全力で取り組んできた大学人達が「教育」の重要性を認識することになり、多くの大学等が社会のニーズに応える「開かれた大学」を目指して様々な教育面の改革を試みることになった。
 また、学内においては「学部の壁」を低くするなどの効果があったのではないだろうか。これまでの大学等においては、各教員が「一国一城の主」的な色彩が強く、「学部の壁」「学科の壁」「教員間の壁」が高かった。教育において個々の教員の資質が重要であることは当然であるが、「認証評価」や「現代GP」などにおいて問われているのは組織としての教育力である。
 「評価」には「客観性」、「公正性」、「透明性」が求められる。「現代GP」の選定においてはこの点に十分留意したと自負している。審査方法・審査方針・審査基準などを事前に公表し、それに則って公正な審査を行なった。とはいえ、選定結果に対しては、当然のことながら、異論や不満があると思う。委員全員が「極めて優れている」と認める取組やその逆の場合は問題ないであろうが、甲乙付け難い優れた取組が並ぶ中から、採択・不採択を決断するのは辛いことである。選定されなかった取組の中にも、数多くの優れた構想があった。このことは多くの高等教育機関が、現代的ニーズに応える教育に取り組む努力をしていることを意味する。選定に携わった者としては、このエネルギーを大切にしなければならないと痛感する。幸いなことに、文部科学省はぎりぎりまで頑張って、3年目の予算を獲得してくれた。「現代GP」の予算は、初年度が20億円、2年目が30億円であったが、3年目は46億円となった。
 各種のGPは、これまで教員個人の取組が主であった高等教育について、組織的に取り組むものに光を当てるものである。その結果、教育に対する教員の意識、いわば「大学の文化」が着実に変わりつつある(GP効果!)。「競争」と「評価」の時代を迎えた高等教育の世界において、各大学等が教育改革の取組に関する様々な議論を活発に行なうことにより、我が国の高等教育が十分な国際競争力を有する水準に高まることを期待する。

[『IDE 現代の高等教育』2006年4月号所載]