有朋自遠方来、不亦楽乎!
この地球上には様々な国や地域があり、様々な文化の花が咲いています。この「文化の多様性」によって人類は豊かな歴史を築いてきました。国際交流の基本は「文化の多様性を大切にする」ことであり、異なる文化の中で育った人々が国境を越えて交流することにこそ意義があります。「グローバル化」の名のもとに全世界を文化的に均一化してしまうことは、人類の歴史にとって決して好ましいことではありません。
我が国には長い年月をかけて築いてきた固有の文化があります。「古池や蛙飛び込む水の音」「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」のように蛙の水音や虫の鳴声を聞いて「もののあはれ」を感じるのが日本人の感性です。文明の進歩が自然を破壊し、グローバル化に名を借りたアメリカ化が進展する中にあって、芭蕉の句や西行の歌に感動する心こそが失ってはならない貴いものであり、日本人のアイデンティティーではないでしょうか。このような日本文化の一端を知ってもらおうと、国際交流会館では毎年雛祭や餅つきなどを行っています。これら日本の伝統的な行事は今では一般の家庭で行われることが少なくなってきていますが、それだけに、本当に素晴らしいものだと思います。これら日本独特の行事は、是非今後とも大切にしていきたいものです。
一方、外国を訪問したり留学生や外国人研究者達と接したりする際に、異なる言葉や文化を垣間見たり日本の文化と比較したりするのもまた実に楽しいものです。例えば、中国ではゴミ箱を「果皮箱」というらしく、街頭のゴミ箱には全てそう書いてあります。私は総長室のゴミ箱に「果皮箱」と書いておき、中国人が訪ねて来ると「中国に行ったら果皮箱ばかりでジュースの空き缶を何処に捨てていいか分からなくて困った」といって笑わせています。このほか日本語と中国語の似て非なる例として「手紙」や「湯」などがよく知られています。先年、中国を訪問したとき北京近郊の密雲という町にあるレストランで食事をしました。出された料理は大変美味しかったのですが、そのレストランの名前は何と「雲湖酒楼」でした。「雲湖ロ卑酒」という銘柄のビールもありました。近くにある密雲湖という湖に因んでこの名前が付いているのですが、日本では流行らないでしょうね。また北京では「佐川急便」と書かれたトラックが走っていましたが、中国人は「急便」の字を見て不思議がっていました。積み荷が「手紙」だったら話が合うのですが・・・。
国際交流と言えば『論語』にある有名な言葉「有朋自遠方来、不亦楽乎」が頭に浮かびます。文字通り「友達が遠方から来てくれて楽しい」という意味ですが、現代の中国語では「友達が遠方から来たのでてんてこまいである」という意味にもなるようです。孔子様が聞いたらさぞかしびっくりすることでしょう。
本学に研究交流のために来学する外国人研究者は、その殆どが国際交流会館に滞在していると思われます。私は国際交流会館の館長として入館許可の押印をしながら、本学の国際交流が活発であることを実感しています。かつてここに滞在した外国人研究者の何人かが、その後本学の専任教員になっています。都立大学の研究・教育環境が彼等を惹きつけたことは勿論ですが、滞在した国際交流会館が快適だったことも大いに印象を良くしているに違いありません。
私自身、1972年から2年間米国に滞在しましたが、その時一緒に研究した仲間達が昨年末に来日して研究会を開催してくれました。これぞまさに「有朋自遠方来、不亦楽乎!」です。皆既に頭髪は白く顔には皺が目立つようになっていましたが、今でも国境を越えて親しくつき合っている数多くの朋友達は、遙かに振り返る当時の思い出とともに私の一生の宝となっています。国際交流会館に滞在した彼等は異口同音に「都立大学は素晴らしい国際交流会館をもっている」と満足してくれました。
本学は「国際的に存在感のある大学」としてこれからも国際交流会館を拠点に積極的に国際交流を推進していきたいと考えています。
[『国際交流会館ニュース』 No.16 所載]