ドンマイ!

 新入生の皆さん、入学おめでとう。木々の芽吹きとともに若い力に溢れた諸君を迎え、キャンパスには瑞々しい活気が漲っています。昨年来、米大リーグでの日本人選手の活躍などスポーツをめぐるニュースが社会の明るい話題となっています。今年はそれに加えてサッカーのワールドカップ大会が開催されるなど、日本にとって記念すべきスポーツ年となりそうです。
 都立大学の体育会にとっても今年は大阪府大戦が50回の節目を迎えるという記念すべき年です。府大戦は横浜市大戦とともに都立大学体育会のビッグイベントであり、毎年7月初旬に都立大と府立大が交互に会場となって熱戦を繰り広げ、様々な青春ドラマを生み出しています。都立大はこのところ3連勝と快調ですが、通算では19勝27敗と大きく負け越しています。今年は大阪が会場です。敵は大敗した昨年の雪辱を果たそうと必死でしょう。体育会の諸君、呉々も「八雲会」の先輩達が寄贈してくれた優勝カップを大阪に置いてくることがないように頑張って下さい。
 一方、横浜市大戦は今年で21回目であり府大戦と比べるとまだ歴史は浅いのですが、戦績は18勝1敗で本学の圧勝です。横市戦では、学生諸君だけではなく我々教職員も長年テニスの対抗戦を続けており、年2回春と秋に熱戦を展開しています。昨年度は立派な優勝カップも作りました。今のところ都立大が全勝ですが、「敵もさるもの」決して油断はなりません。加藤学長をはじめとする「テニス熱狂集団」に不覚をとることのないよう、気を引き締めて頑張りたいと思います。
 ところで、スポーツ特にチームを組んで行う球技ではよく「ドンマイ!」という掛け声が聞かれます。これは勿論「Don't mind!」の日本語訛(英語もどき、と言うべきか)であり、味方がミスをしたとき「気にしないで頑張れ!」と励ます意味で広く使われています。「勝ち負けよりもスポーツすること自体を楽しむ精神」「仲間のミスを責めず、むしろ励まし合うスポーツマンシップ」を表現する爽やかな一言です。我々がテニスをするときも、この「ドンマイ」の掛け声が盛んに飛び交います。つまりはミスが多いのですが、連発される「ドンマイ」の声がコートに響く情景はなかなか捨てがたいものがあります。我々教職員のテニス仲間に「校長先生」と愛称されている長老がいます。この温厚そのものの名誉教授はパートナーがミスをすると軽やかに「ドンマイ!」と声をかけてくれるのですが、試合の途中からなぜか「ドンマイ」を言わなくなることがあります。注意深く観察してみたところ、パートナーが凡ミスを繰り返すと「ドンマイ」と言わなくなることが分かったので、「先生は「ドンマイ」をどういう意味で使っているのですか」と訊いてみました。すると、「あれはねー、顔ではニコニコしながら、心では「このドジめっ!」と言っているんですよ」・・・。爾来、我々のテニスでは、ミスが続くとパートナーに「ドンマイ続きで申し訳ない」と言って謝り、敵がミスをすれば「ドンマイ返しが来た」と言って喜び、「今日はドンマイが多かった」と言って「反省」します。時にはパートナーから言われる前に自ら「ドンマイ」と言って「自己批判」することもあります。いつの間にか我々のテニスクラブは「鈍舞倶楽部」と呼ばれるようになりました。
 新入生の諸君、怠惰な生活や消極的な姿勢で大切な青春を「ドンマイ」しないよう、多摩の丘に溢れる春の息吹を胸一杯に吸い込み、スポーツに勉強に全力疾走して下さい。
[『みやこどり』2002年度版所載]