新世紀をめざして
本学開学50周年記念の年の新入生の皆さん、入学おめでとう。皆さんは大学生活への期待に胸を膨らませてこの「履修の手引」を開いていることでしょう。この冊子はこれから皆さんがこの大学で学問の道を進んでいく上でのガイドブックです。よく読んで自分の目指す目的地へ到達できるよう履修計画を立てて下さい。
大学における教育には二つの側面があります。一つは教養教育、もう一つは専門教育です。教養教育は幅広く豊かな教養を身につけて大局的な視野で物事の判断ができる人間に成長させること、即ちジェネラリストを育てることであり、専門教育の方は専門知識を習得し独創的な仕事ができる能力を培うこと、即ちスペシャリストを育てることです。日本では「大学は専門教育をするところ」と理解されていますが、アメリカの大学では、学部の間は専ら教養を蓄積することに力を注ぎ、ジェネラリストとしての素地を十分に培ってから大学院へ行って初めて本格的に専門教育を受けます。これは社会の第一線で活躍するためには専門知識だけでは不十分で、豊かな教養に裏打ちされた的確な判断力が必要であるという考え方の表われです。振り返って我が国では先年、専門領域において優秀な能力と知識を持ちながら、基礎的な判断力に欠けていたために重大な犯罪を犯すことになった若者達の例があり、急速な先端技術の発展と国際競争の激化に対応するための人材の育成を急ぐあまり、専門教育ばかりを重視した結果であるとの指摘を受けました。考えてみると、人間も生物である以上、無理な促成栽培をしたところで健全に成長できるわけがないことは自明の理です。皆さんにはひ弱な「もやし」ではなく、大地にしっかりと根を張った大樹に育ってほしいと願っています。
幸い本学は広々としたキャンパスに立派な図書館も体育館もあり、優秀な教員やスタッフも揃っていて、きめ細かい指導を行う少人数教育を特色としています。この恵まれた環境で大いに読書や勉学に励み、体を鍛え、人間関係の輪を広げ、これからの人生に向けてしっかりと土台を築いて下さい。そして忘れてはならないのは決して「楽をしよう」と思わないことです。スポーツもそうですが、本当の実力をつけようと思ったら、辛く厳しい練習に耐えなければなりません。学問も同じで、本当に力をつける勉強は苦しいものです。苦しんでこそ力がつくのです。
御存知のように現在我が国は未曾有の景気停滞に見舞われ、まさかと思われるような大企業や銀行が倒産し、失業率は最悪の数字を示しています。この時期に、大学をレジャーランドや卒業証書自動販売所のように思って「楽しく遊んで」過ごそうと考えている人はいないと思いますが、もしそのような人がいれば、たとえ首尾良く卒業できたとしても世の中に出て厳しさを思い知らされることになるでしょう。
今こそしっかりとした教養に裏打ちされた知性の確立と真の専門能力の養成が必要です。先ず教養科目を謙虚な気持ちで聞くことから始めて下さい。初めはあまり興味をもてない授業もあるかも知れません。然し、大学の授業は、先生が教室で教えることをただ覚えるのではなく、学生が自ら考え学ぶ能力と習慣を身につけることが目標です。2回、3回と出席して講義を聞き続けていると、必ず自分の視点から知的好奇心が沸いてくるはずです。それを足掛かりにして知的世界へ旅立ち、森羅万象を自分の中に取り込んで豊かな人格を形成していって下さい。
少年易老学難成 一寸光陰不可軽
です。気がつけば時既に遅く
階前梧葉已秋聲
とならないように。ところで、この漢詩は余りにも有名で朱子の作といわれていますが、中国では全く知られていないようです。何故でしょう。早速図書館へ行って調べてみて下さい。きっと面白い発見ができると思います。これを新入生の皆さんへの最初の宿題にしましょう。
今年は1999年ですから、皆さんが本学を卒業して世に出るときには21世紀になっています。在学中に、豊かな教養と確かな専門知識を身につけ、世界の世紀に向かってはばたいて下さい。
新世紀めざしはばたけ都鳥
[『履修の手引』1999年度版所載]