豊かな教養が21世紀へのパスポート
西暦2000年の新入生の皆さん、入学おめでとう。皆さんは千年に1度というまさに「千載一遇」のチャンスに恵まれて大学の門をくぐりました。皆さんの学生時代は2つの世紀にまたがっていますが、この変わり目は単に20世紀から21世紀に変わるだけでなく、次の新しい文明の時代が始まる境目だといわれています。世紀と時代の変わり目に人生の節目を迎えたことの意味をよく考え、未来の社会と自分の将来像を見通しながら、この手引きをよく読んで履修計画を立てて下さい。
御承知のように世紀末を迎えて社会は激しく変動しています。我が国はまさに転換期にあり、長らく支配的であった考え方や社会のシステムが音を立てて崩れています。教育システムも例外ではなく、本学でも全学をあげて大学改革に取り組んでいる最中です。この改革では重要な項目の1つとして「教養教育の充実」を掲げています。最近あちこちで「大学生の学力低下」が問題にされ、大学を卒業して社会に出た若者達の「教養」や「創造力」の不足が指摘されているため、教養教育の重要性が再認識され見直しが迫られています。
大学教育には教養教育と専門教育の2つの面がありますが、戦後の我が国の教育制度のお手本となったアメリカの大学では、学部の4年間を主としてリベラル・アーツ即ち教養教育に費やし、大学院へ行って初めて本格的に専門教育を受けます。専門教育を受けてスペシャリストになる前提として、先ず幅広く豊かな教養を身につけてジェネラリストになることが求められているのです。それは、専門知識を身につけても、豊かな教養がなければ的確な判断ができず、社会の第一線で活躍することはできないと考えられているからです。ところが、我が国では「大学は専門を究める所」との考えが強かったせいか、これまで「教養科目は役に立たない、つまらない」と言われがちでした。
本学では、他大学に倍する幅広い教養科目を用意して教養教育を重視しているにも拘わらず、文系の学生は理系の科目をほとんど履修せず、理系の学生は文系の科目をほとんど履修しないという傾向が顕著に見られます。皆さんには20世紀の社会秩序に代わる21世紀の新たな社会システムを構築するという役割が期待されています。在学中に「教養」と「見識」を養い、社会の新しい展開に多面的に対応していくための「大局的な視野に立って物事を判断できる能力や創造力」を身につけて卒業して下さい。そのためには所謂“楽勝科目”で単位数を揃えるのではなく、文系の人は理系の科目を、理系の人は文系の科目を意識して履修し、教養の幅を広げるよう努めて下さい。大学の授業は、学生が自ら学ぶ能力と習慣を身につけることを目標として、1回の授業に対して4時間の自学自習をすることが前提になっています。
少年易老学難成 一寸光陰不可軽
ですから、「勉強は明日やればいい」等と思わずに1日1日を着実に積み重ねて下さい。学生時代は瞬く間に過ぎてしまいます。
明日ありと思ふ心のあだ桜夜半に嵐の吹かぬものかは
を座右の銘にして勉強して下さい。
21世紀は国際化の時代でもあります。人もビジネスも文化も活発に国境を越えて往き来するようになり、皆さんは好むと好まざるとに拘わらず国際社会の中で生きていくことになるでしょう。これまで日本人は自己表現しない「受信型」と言われていましたが、これからは「発信型」になることが求められます。発信手段としての「言語」の能力を備え、日本人としての幅広い教養と専攻分野の確かな専門知識を深めることによって発信する「内容」を豊かにし、世界に通用する人材としての能力を習得して下さい。本学には外国人教師と約200名の留学生がいます。外国人教師や留学生との交流は異文化の理解とともに国際的な発信手段の練習にもなる筈です。本学の恵まれた環境を活用し「国際人」として成長して下さい。
21世紀は20世紀の単なる延長ではありません。皆さん自身の手で、新しい社会のシステムや新しい文化が創造できる世紀です。「教養」と「国際」をキーワードに精一杯勉強して、21世紀の社会に自信を持ってデビューできることを期待しています。
[『履修の手引』2000年度版所載]