21世紀の大学を目指して
昨年は都立大学の開学50周年、今年は西暦2000年、来年からは21世紀と、いろいろな節目が重なった。開学50周年記念事業に対して八雲会の皆様から寄せられた温かい御支援に心より感謝申し上げる。お陰様で企画した数多くの記念事業は全て成功裏に終了することができた。
都立大学はこの50年間「アカデミックで自由な学風」をもち「少人数によるていねいな教育」をする「開かれた大学」として着実に実績を積み重ねてきた。然し、御存知のように、少子高齢化社会を迎えて大学は「良き伝統」だけを守って生きていける時代ではなくなり、各大学はその在るべき姿を厳しく問われている。都立大学ではこの節目に50年の歴史を振り返り、新たな時代に相応しい大学として更なる発展を目指した改革に着手している。具体的には「教育改革」「社会への貢献の拡充」「都立の総合大学であることの特色の追求」の3点を中心として改革の検討を進めている。
教育に関しては、都立大学は開学以来一貫して「少人数によるていねいな教育」を実施してきたが、学問の高度化・多様化が進む中で、多くの分野において学部卒業の時点までに「○○学の専門家」といえるレベルに到達することが困難になってきた。特に理系においてはこの傾向が著しく、大学院への進学率が高くなっている。今回の改革では、教養教育・専門教育・大学院教育の関係を見直したい。
1991年7月に大学設置基準が大綱化されたのに伴って、本学でも受講科目の選択の自由度を増大した。その結果、文系の学生は理系の科目を少ししか履修しない、理系の学生は文系の科目を少ししか履修しないという現象が顕著になった。どんな分野を専攻するにせよ、専門教育を受ける前提として幅広く豊かな教養を身につけてジェネラリストになって欲しいと思うが、現実には高校時代から「文系」「理系」と分かれてしまい、大学に入って更に専門に分化してしまうのが実状である。豊かな人間性が培われていなければ、いくら専門知識を身につけても、社会の第一線で活躍することはできない。OBの皆様方から屡々「最近の卒業生は使いものにならない! 一体どんな教育をしているのか!」と厳しいお叱りを頂戴する。そこで、今回の改革の中で教育課程の再構築をしたいと思っている。現在の日本の教育では、最も基本であるべき人間教育が軽視されているので、学部では幅広い教養を身に付けて基礎専門を学び、専門教育は原則として大学院で行うことを基本にしたいと考えている。私の個人的意見では、大学は3年制の「教養学部」にして専ら人間教育を行い、専門は大学院で勉強するのが良いと思っている。
御存知のように、本学では開学以来大学院教育に力を注いできた。従来は「大学院は研究者養成機関」と位置付けられていたが、近年理系においては研究者養成に加えて高度な専門家を育成する必要から大幅な定員増を行った。その結果、修士課程を修了して企業等に就職する者が大幅に増えた。一方、文系でも研究者養成機能に加えてロースクール、ビジネススクール、社会人のリフレッシュ教育等の新しいタイプの大学院の設置を検討している。
開学以来B類が「勤労学生に開かれた大学」としての使命を果たしてきたが、社会状況の変化により抜本的な見直しを迫られている。高度専門教育の機能が大学院に移行しつつある現状を踏まえて夜間教育の在り方を発展的に検討したい。
大学の基本的な使命は、人類共通の財産となる研究を行い、社会の第一線で活躍しうる人材を育てることである。大学は、どちらかといえば“社会から隔絶した治外法権的存在”というイメージが強かったが、昨今は大幅に状況が変化しつつあり、様々な形態の社会貢献が求められるようになった。本学では今までも公開講座、講演会、都民カレッジ、高校生向けのオープンクラス、産学協同等様々な形で「開かれた大学」としての実績を積み重ねてきたが、更に産学公の連携、地域社会との連携等を積極的に推進していきたいと考えている。
大学が研究と教育を実践して社会に貢献することは、その設置形態に関わりなく普遍的である。然し、本学が21世紀に相応しい大学として更なる発展を遂げるためには、「都立」であることの特色を持つことが重要であると思われる。東京都が設置する唯一の総合大学であるという観点から、本学が備えるに相応しい特色は「都市研究」であり「自治体研究」であろう。現在本学には大学院都市科学研究科と都市研究所が設置されているが、抜本的な見直しを行って、本学の「看板」にしたいと願っている。
更には、科学技術大学、保健科学大学、短期大学、高等専門学校等都立の高等教育機関や、都立の試験研究機関との連携も積極的に推進していきたいと考えている。
本学は今、50年の実績を踏まえ、更に発展を続けるために、全学の英知を集めて改革に取り組んでいる。八雲会の皆様方からも積極的な御提言をお寄せ下さることを願って已まない。
(本稿執筆後に、石原都知事の「都立の4大学を束ねて、名前も変えるなど、ドラステイックな改革をする」「9月までに良い改革案ができなければ、都立大学を売り飛ばす」などという発言があった。今大学では必死に改革案策定に取り組んでいるところである。)
[『八雲会報』2000年度春期号所載]