都立大学の灯をいつまでも

 山住先生の後を受けて都立大学総長に就任してから疾風怒濤の4年が経過しました。普通ならば「お陰様で大過なく任期を全うすることが出来・・・」などというべきところですが、私の場合には「大過ばかりで申し訳ありませんでした」と申し上げなければなりません。
 この間、実に様々なことがありました。先ず都立大学開学50周年記念の事業の数々でした。八雲会の皆様方から絶大な御支援を頂いて実施した記念行事の数々は、今でもつい昨日のことのように目に浮かんできます。先輩達が50年かけて築き上げてきた「歴史の重さ」を改めて認識し、都立大学の一員であることの幸せを実感することが出来ました。
 しかし、50周年記念事業の余韻を楽しむ暇もなく、石原知事から「東京から日本の教育を変える」という戦略構想の一環として、「都立4大学の統合」と「法人化(ないし民営化)」という方向が打ち出されました。総長就任早々から全学で検討を開始し、1年余を経て、教養教育の再構築を軸とする学部教育の改革、ビジネススクールやロースクールの開設などを含む大学院の拡充、社会との連携強化などを柱とする都立大学の改革案をまとめたばかりの時でしたから、「4大学の統合」は「青天の霹靂」、「天が落ちてきた」様な驚きでした。
 それからは「改革」に明け「改革」に暮れる毎日でした。幾多の紆余曲折を経て纏められた「東京都大学改革大綱」が一昨年11月に発表され、それに基づいて2005年に設立される予定の都立新大学の構想を具体化する作業を進めてきました。南大沢キャンパスと荒川キャンパスを中心に6学部8研究科を置き、日野キャンパスに産学公連携センターを設置して社会とのインターフェイス機能を強化するなどの具体像がかなり見えてきて、「これで一安心」と思っていましたが、石原知事は議会答弁の中で「改革案はまだまだ期待の持てるようなものになっていない」と言い、再選出馬表明の際には「都立の大学は一新し、これまでの日本にない全く新しいタイプの大学を作りたい」と発言しているので、まだまだ予断を許さず、再び「天が落ちる」恐れがあります。「杞憂」ならばいいのですが、「都憂」になることを恐れています。
 悔やまれるのは、「4大学の統合」の在り方を巡る攻防で「都立大学を存続大学とする統合」であるべきだとする我々の主張が認められず、「4大学廃止、新大学設置」となったことです。両者は雲泥万里の違いがあり、八雲会にも御迷惑をおかけすることになってしまいました。
 都立大学は、中規模ながら総合大学として国際的に高く評価される実績を積み重ねてきました。都立大学の誇りは、その学問とそこで育った人材です。現在、東京都の財政は困窮していますが、だからこそ長岡藩における小林虎三郎の「米百俵」の精神、即ち「国が興るのも町が栄えるのも、悉く人にある。財政難の時だからこそ教育に重点投資し、人材育成をはかるべきだ」を忘れてはならないと思います。50余年の伝統を持つ都立大学の「学問の灯」が2年後に発足する第2世代の都立大学に引き継がれ、卒業生が誇りに思える大学として発展し続けることを願って止みません。人生の大半を過ごした都立大学を退職するに当たって、八雲会の皆様の御厚誼に心より感謝申し上げます。
[『八雲会報』2003年度春期号所載]