真に自立した女性を育む空間

 四月に学長を拝命致しました荻上でございます。私自身は、公立大学の勤務が長く、ここ十年ほどは国の機関において大学評価の仕事に携わると共に文部省における高等教育行政に様々な形で係わってきました。私立大学に奉職するのは初めてでございますが、これまでの経験を活かして、大妻女子大学の発展に努めて参ります。何卒宜しくお願い申し上げます。
 千鳥会の皆様には、毎年本学の教育研究活動に対して多大な御支援を賜り、誠に有り難く厚く御礼申し上げます。
 大妻の教育は1908年に大妻コタカによって創立されました。「女子も自ら学び、社会に貢献できる力を身につけ、その力を広く世の中で発揮していくことが女性の自立につながる」と確信したコタカの女子高等教育に対する情熱は、「建学の精神」として今日まで受け継がれています。「建学の精神」に基づく大妻女子大学の教育の目的は、豊かな教養と思いやりの心を持ち合わせ、真に自立した女性を育成することにより、健全で持続可能な社会の実現に貢献することです。大妻女子大学ではこれを「関係的自立」と呼んでいます。昨今は、他者とスムーズなコミュニケーションが図れない若者が増加し、社会的自立が図れない者や「独善的自立」、「利己的自立」、「排他的自立」など好ましくない自立をしている者が多く見られ、理由無き殺人、親による子供の虐待、悪質な詐欺など様々な暗いニュースが報道される日々が続いています。こういう時だからこそ「関係的自立」が重要性を増しています。一人一人が高度な専門知識を身に付けるだけでは、健全で持続可能な社会は実現しません。近年、「人間力」、「社会人基礎力」、「学士力」、「就業力」などの重要性が強調されていますが、要するに社会的に真に自立するために必要な能力のことです。これは、コタカの教育理念が、年月を経て,益々その輝きを増しているということであり、コタカの先見の明に改めて敬意を表したいと思います。
 昨今、「日本の大学生は勉強しない」「国際的に通用しない」などの指摘を受け、国を挙げて大学教育の改善に取り組み始めました。我々は、大妻女子大学を「主体的な学び」「生涯学び続ける習慣」「関係的自立」を育む空間と位置付け、真に自立した女性を育成する教育の更なる充実に向けて一層の努力を傾けて参ります。そのために、学位授与の方針を明確に定め、それに基づいて教育課程編成及び実施の方針を策定し、教育目標の達成に向けて教職員が連携して取り組んでいます。
 更に、これまで立ち後れていた「国際性」の強化にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。といっても、「英語で卒業出来るコースを開設する」「秋入学に切り替える」などを考えているわけではありません。大妻女子大学において、外国人留学生が極めて少なく、また在学中に海外留学を経験する学生も決して多くはない現状は、早急に改善して、異文化体験の機会を増やす必要があると考え、交流協定校の増加と国際交流センター(仮称)の設置に向けて動き始めました。
 今後とも変わらぬ御支援を賜ります様お願い申し上げます。
[千鳥会会報 83号所載]