キリギリス

 「大学は出たけれど」というのは1929年に公開された小津安二郎監督の映画の題名である。当時は大不況で、大学卒業者の就職率が30%程度だったという。当時ほどではないにしても、現在も「不況」といわれて久しい。「就職難」の一方で「早期離職」や「ニート」などが多いことも問題である。「働く気のない」若者の増加は国の将来を危うくする。
 かつては「蟻とキリギリス」の寓話などで子供の時から働くことの大切さを教えられたものであるが、昨今は「働くこと」の「意義」や「大切さ」を理解しないまま成人する若者が少なくない。
 文部科学省では、この様な現状に危機感を持ち、中央教育審議会にキャリア教育・職業教育特別部会を設けて、勤労観・職業観や社会的・職業的自立に必要な能力等を,義務教育から高等教育に至るまで体系的に身に付けさせるための方策について、2009年1月以来議論を重ねている。大学分科会においても、同趣旨の議論を行い、大学設置基準に「大学は,当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ,学生が卒業後自らの資質を向上させ,社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を,教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう,大学内の組織間の有機的な連携を図り,適切な体制を整えるものとすること。」という条文を盛り込む改正を行っている。更に、この趣旨に沿って優れた取組を行う大学に財政支援をするために「大学生の就業力育成支援事業」を新規に30億円の予算を獲得して実施している。この事業の目的は、キリギリスを輩出しない教育を支援することであって、キリギリスの救済ではない。 (2010年11月)
[セミナーハウスニュース第179号所載]

大学セミナーハウスのホームページへ