「生徒に勉強して頂く」大学

 私の理解では、小学校で学ぶ者は「児童」、中学校や高等学校で学ぶ者は「生徒」と呼ばれ、大学で学ぶ者は「学生」と呼ばれてきた。学校教育法や大学設置基準においても、大学で学ぶ者は「学生」と明記されている。ところが近年、大学で学ぶ者が「生徒」と呼ばれることが珍しくなくなってきた。教員が自分の勤務する大学で学んでいる者を「生徒」と呼び、大学生が自分達のことを「生徒」と呼ぶのである。この現象は女子大において始まったように思われるが、昨今では多くの大学に伝染しているらしい。教員は、自分が教えている者が「学生と呼ぶに相応しくない」と考えて「生徒」と呼んでいるのであろうか。学生は、自分が「学生と呼ばれるに相応しくない」と考えて「生徒」と自称するのであろうか。
 私の理解では、昔は、大学生は「自ら学ぶ者」と考えられていた。文系の先生の中には、「私の授業になど出てこなくて良いから、自分で勉強しなさい」などと言う人もいたと聞く。大学生の数が増えるのに伴って、「自ら学ぶ者」は少数派になり、大学生は「勉強させる者」と考えざるを得なくなった。更に、昨今は、「毎時間レポートを提出して頂くことにしている」「数人のグループで討議して頂くことにしている」「出来るだけ自分達で考えて頂くようにしている」などと言う教員が珍しくなくなった。
 学校教育法第83条には、「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。」と謳われている。しかし、大学の多様化により、「生徒に勉強して頂く」大学が珍しくなくなったということらしい。何か嘆かん今更に! (2011年11月)
[セミナーハウスニュース第181号所載]

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