業平橋

 東京スカイツリーの完成に合わせて、3月17日に、東武鉄道伊勢崎線の「業平橋」駅が「とうきょうスカイツリー」駅に名称変更された。由緒ある名称が又一つ消されたことは実に嘆かわしい。
 業平橋は、近くにある言問橋と共に、『伊勢物語』に因んで付けられた名称である。橋は1928年に架けられたというから、平安時代からあるわけではないが、我が国の代表的な古典文学に縁がある。東下りをした在原業平が
    名にしおはばいざ言問はむ都鳥わがおもふ人はありやなしやと
と詠んだことに因んで付けられた優雅な名称である。住民の要望に応えて、駅名標に「旧業平橋」と書き添えられたことは、せめてもの慰めというべきかも知れないが、「業平橋(とうきょうスカイツリー)」とするのが許容の限界と考えるのは私だけか。
 「和魂漢才」を捩った「和魂洋才」という言葉があるが、「和魂無き洋才」や「和魂抜きの洋才」が氾濫するのは嘆かわしい。
 実は、「業平橋」は他にもある。例えば、春日部市にある古隅田川に架かる小さな橋も「業平橋」であり、すぐ近くの春日部八幡神社には「都鳥の碑」がある。在原業平が都鳥を見たのはどちらであろうか。(2012年5月)
[セミナーハウスニュース第182号所載]

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