読  書  日  記  '03

結構たまってることに気付いたんですがいっぺんに書くのも面倒なのでちょっとづつ書いていきます・・


『女(わたし)には向かない職業』@、A いしいひさいち:東京創元社:600円 new
『毎日かあさん』カニ母編西原理恵子:毎日出版社:838円 
『みじかい命を抱きしめて』ロリー・ヘギ:フジテレビ出版:1400円 
『ペット』@〜D三宅乱丈:小学館:505円
『ぼっけえ、きょうてえ』  岩井志麻子:角川ホラー文庫:457円
『ヘルタースケルター』  岡崎京子:祥伝社:1200円
『片目を失って見えてきたもの』  ピーコ:文春文庫:533円
『きもの』  幸田文:新潮文庫:552円
『ラッキーマン』  マイケル・J・フォックス 入江真佐子(訳):ソフトバンクパブリッシング:1600円
『帝都東京・隠された地下網の秘密』  秋庭俊:洋泉社:1900円
『ナンシー関の記憶スケッチアカデミー』  ナンシー関:角川文庫:476円

『女(わたし)には向かない職業』@、A いしいひさいち:東京創元社:600円

朝日新聞朝刊に連載している「ののちゃん」に出てくる藤原瞳先生が主役の4コマ。もともとののちゃんが始まる 随分前から、週刊朝日などで登場していて好きなキャラクターだったのだが、新聞マンガで担任の先生として登場 した時にはびっくりした。なぜって、同じキャラクターを別人として使いまわしたのではなく、このあと小学校の 教師を辞めて小説家になるという未来がすでに分かっている同一人物としてだったからだ。新聞マンガでこんな設定は 珍しい。

この本の中ではアルゼンチン育ちの帰国子女として高校に通っていた頃(17の瞳)、大学時代を経て ラブレーの言葉どおり小説の修行のために小学校教師になった頃(でもしかの瞳)、ののちゃんたちの小学校に 転勤して教えてる頃(27の瞳:現在の新聞連載はこの辺り)、新人賞を取ってミステリー作家として活躍して いるようす(34の瞳)の章があって、昔馴染みとしてはとても楽しい。

また、新聞マンガに登場する教師としてこんなに魅力的で、かつ模範的な人も珍しい。一見しっとり したホクロ美人で、服装は大人しく、グラマラスじゃないけど何か色気がある・・が、飲んだくれで、大雑把で、 テキトーで。子供たちとは仲良し・・と言うより子供たちのほうが大人で面倒見てるような場面も多い。 しかし子供っぽい人かというと結構大人だったり。

2巻のお気に入りの一つは授業のシーンの

「科学とは 科学者や研究所のことでも、
 ビーカーやフラスコのことでもありませんね。
 『結果には必ず原因がある』ということへの信頼です。」

というセリフ。(そのあと教材ビデオを見ようとした調子の悪いテレビにケリを入れて「『結果オーライ』とも言いますね。」と 笑顔で言ってるけど・・)

『毎日かあさん』カニ母編 西原理恵子:毎日出版社:838円

毎日新聞日曜版に連載しているサイバラとその子供たちの日常記。うちは毎日新聞じゃないので 待ちかねてました。母親として共感するというより自分の子供の頃の景色がよみがえるような絵日記。 それでいて絵は豪快というか雑というかちっとも小綺麗なかわいいタッチじゃないんだけど(^_^;)、 どんなに絵の上手な漫画家さんの絵よりも思い出の景色は美しく、子供の顔はかわいい。
クスクス声を潜めた笑い声がして振り向くと、ドアの下から小さな手が二つ出ていたって言う一コマ、 なんでこんなにぐっと来るんでしょうか。まるっきり同じ手を見たことがあるからでしょうか。

『みじかい命を抱きしめて』ロリー・ヘギ:フジテレビ出版:1400円

プロジェリア(早期老化症)、人の7、8倍もの速度で老化が進み、平均寿命は13歳という病気に 生まれついた少女アシュリーと母の半世。少し前、日本のテレビ番組でも大きな話題になった。この本は 母親自身の半生を中心に語られており、けなげな少女とそれを守る強くやさしい母親という 求められる取材上の役割とは全く違った面も率直に語っている。家出、17歳での出産、男性遍歴や 立派な母親としての幾度もの取材を受けながら、同時に繰り返していたドラッグ中毒やトラブル。 その中で過酷な病を得た娘アシュリーは、どうしてこんな子供がいるんだろう?と不思議に思うぐらい 、明るく、温かく、強く、大人で、周りを支えているのは他でもない彼女である様子が良く分かる。

日本のテレビ局が訪れた時は、すでにもう取材を受けるは止めたいと思っていた時期であったそうだが、 運良く日本でこの病気の子供が出たときにという思いで協力してもらえたことは幸運だった。 その後の反響の大きさに驚いたこと、日本からのたくさんのメールや贈り物をとても喜んでもらって いること、アシュリーのハムスターには「ハム太郎」という名前をつけた事などの後日談は嬉しかった。

『ペット』@〜D 三宅乱丈:小学館:505円

スピリッツに連載中のものを偶然見かけ、その時すでに話は後半でストーリーがさっぱり分からなかった にもかかわらず、一目で取り憑かれた作品。舞台は日本と中国、他人の記憶に侵入できる能力者達と それをめぐる組織のお話・・というとなんか普通の子供向けSFのようだが、ストーリーの綿密さ、登場 人物たちの描写の細かさもさることながら記憶や夢のイメージの描写が秀逸で何回読んでも飽きなかった。 そして絵がものすごくうまい!毎週発売日に飛んでいって読み(主に大学の生協で・・)、最終回まで ヤキモキしたのは久しぶり♪ただし最後がちょっと打ち切りなのか予定なのか?と思うようなところが あって、綺麗にまとめてはいるけど不満。(もし打ち切りなら編集部を恨む!)

好き嫌いの分かれる作風だと思うけど、なんでここまではまったのか自分でも不思議だった。私もよく 自分の頭の中にある記憶のイメージがいっぺんに出てきて解け崩れたような面白い夢を良く見るので そのせいもあるんだろうか。あとで作者が女性だと知って、ものすご〜〜く驚いた。また、この前の 作品も好きだったんだけど全く違うギャクだったので途中で同じ作者と気付いてもにわかに信じられ なかった。ここまで作風の広い人も珍しい・・しかもどっちもすごくいい。おまけに新人なのに私と 年があまり変わらないのにも驚いたが(まあ二十歳そこそこで書けるようなストーリーではないけど) 出てくる細かいアイテムがなじみのあるものが多かったので納得。

『ぼっけえ、きょうてえ』 岩井志麻子:角川ホラー文庫:457円

題は「とても、こわい」という意味の岡山弁。岡山の遊郭で遊女が客にした身の上話の寝物語が、土地の 言葉でつらつら語られる。大事件は起こらず、非日常的な人間も現象も出てこない。しかし怖い。非常に怖い。 殊に男の人は怖いのでは。とても話題になった小説で、 世間でもとにかく怖い怖いと評判だったが、ちょっとやそっとのトリッキーな ホラーなぞ足元に及ばない人間の暗い怖さがある。

表紙の日本画は有名な絵で見たことのあるものだが、こういう風にトリミングして出すとあつらえたよう にこの小説にぴったり。不思議な表情のゆがみがなんともいえない。

『ヘルタースケルター』  岡崎京子:祥伝社

岡崎京子がよく天才とか鬼才などと言われていることとか、7年前の事故のあとずっとリハビリが続いていて 休筆中だといったことは噂には聞いていたのだが、読んだことがなかった。で、事故直前に連載終了したもの が了承を経て7年ぶりに登場。あんまり評判がかしましいので読んでみようとしたらまあ、都内の大手書店 をめぐっても売り切れ売り切れで、手に入れるのに苦労した。(その後増刷されたのでまた並ぶように なった)

軽やかなおしゃれ系の絵柄。全身整形で完璧な美を手にしたスター、「りりこ」。スターを取り巻く虚構の 作り手達、徐々に切れてくる魔法、崩壊していく精神と彼女の世界、違法臓器売買の犯罪に絡む医師たち、 それを追う刑事。流行の流れの中でたいくつな消費を続ける平凡な市民達。とっぴな題材のようでいて、 すごく普遍的な根の深い話をなぞっている。絵もあっさりした普通のコマ割の漫画風から、時折一転抽象的 な絵に詩のようなモノローグがのたくっていて、この辺は好き嫌いがあるだろうけど私にはすごくツボだった。 それに7年前とは思えない絵の新鮮さ。確かに携帯電話がないんだけど・・。大変満足な1冊。

『片目を失って見えてきたもの』  ピーコ:文春文庫

変な老眼、と思っていただけなのに。すぐに目を摘出すれば命は助かるかもしれません、どうしますか? 青天の霹靂の中での心情やたくさんの友人達との交流、闘病、これまでの自分。とても読みやすい率直な 文章で病気を宣告された一人の人の変わっていく内面が描かれている。患者から診た医者や病院と言う 視点でも、色々な意味で面白い。両目で見られる最後の日の夜、病院の窓から、遠くに鮮やかな花火が 音もなく上がるのを見つけ、一人眺めるシーンは映画のようで印象的だった。

何となく、この人は家族に愛されて育ったんだろうなぁと思っていたのだが、母や姉達の話を読んで それも納得。

『きもの』  幸田文:新潮文庫

久しぶりに正統派小説を読んだ、という気がした。著者の自叙伝的な物語で、明治後期に生まれ、大正 を生きる女性の少女時代から娘時代が「着る」ということを中心にきめ細やかに鮮やかに描かれる。ファッ ションに関心のある人はたくさんいるが、こんな風に背筋を伸ばし、一端の布からボロになるまでの隅々に 心と手間と感性を惜しみなく使う人なんて今はどれほどいるのだろうか。

また、彼女を中心に様々な身分、考え、 立場の人がまるで息遣いが聞こえそうな生々しさで登場する。とりわけ優しく、きりりと賢く、温かい祖母の 存在感は穏やかな家庭時代から戦争の混乱の中まで一貫して抜きん出ている。

3姉妹の三者三様ぶりも見事だし、父母や、魅力的な(特に内面が)父の妾の描写も見事。主人公から見た 母への視線は同情や思いやりにあふれてはいるが、娘ならではの冷ややかな軽蔑と諦観もあって辛辣。男 性作家ならもうちょっと違う描き方だったと思うけど・・。

作者が「未完」といっていたそうだが、確かにラストはまとまってはいるけど味わいがなさ過ぎだと思った。

『ラッキーマン』  マイケル・J・フォックス 入江真佐子(訳):ソフトバンクパブリッシング

若年性パーキンソン病という難病に侵されたハリウッドスター。ある朝、一本の指がぴくぴくと不思議な 動きをしていた。でも殆ど気にすることもなく忙しい日々が続く・・という出だしから、じわじわと現れる 異常、次第に膨らむ不安、何度医者を替えてもなかなかつかない診断、治療が始まってからの絶望と葛藤と 心境の変化、希望。かけがえのない温かい家族。本人の人柄のにじむ率直な文章で病気の事からハリウッドの 内情や、役者という仕事の事などが綴られ、引き込まれる。別にファンではないのだが、バック・トゥー・ ザ・フューチャーは(初めの)大学生のころ流行った娯楽映画で、映画で、テレビやビデオで、パロディー でとおなじみだし、彼自身のニュースも良く見かけていたので、あのころ既に病気は始まっていたんだとか、 あの撮影のころはこんな苦悩の中にいたのかとか、そのころの記憶と共に感慨のようなものを感じた。

また、新しい治療法(現在は更に進んだ方法もある)による劇的な効果やその様子などは、医学書からは 得られない色々な情報がたくさんあり、非常に興味深かった。それにしても若年発症はきわめて珍しい この病気が、ある撮影所で同時に働いたスタッフに3人も発生しているというのはちょっと怪しすぎる。

『帝都東京・隠された地下網の秘密』  秋庭俊:洋泉社:1900円

都内の地図を見ていて発行元によって地下鉄の交差のしかた食違いがあることを発見した著者が、その疑問を 解決すべく、調べ、探検してみるとそこに浮かび上がるのは。一般に知られている以外に明治の昔から政府 もしくは軍によって進められていた(らしい)膨大な東京の地下の工事、今もなおのこる(らしい)闇の網 の目。といった内容で、実に色々な資料に当たっているし、毎日都内の地下鉄や地下道を通っては色々不思議 に思ったりすることの好きな人には非常に面白いネタがたくさん。

建設の公的な資料も多いが、結論のないそこにいた係員の人に聞いた話など(国会議事堂前の駅はそれまで の駅より桁違いに深く潜っていて地上に出るのが大変だが、公開されている議事堂の地下の深さと、駅の間 にある何フロア分かの空間に何はあるのかはなぞで、駅の人に聞いたら言葉を濁されたとか)が色々出てくる。

書きたい気持ちがほとばしった感じで、データがやたらめったら羅列だとか、話がぼんぼん飛ぶとか、 文章がときにすっきりしてないとか、どこまでが作者の思い込みなんだかよく分からなかったり、 結論がなくて思わせぶりだったりはするのだが、面白かったので満足。

『ナンシー関の記憶スケッチアカデミー』  ナンシー関:角川文庫:476円

雑誌に連載していた、「何も見ないで出されたお題の絵を描く」シリーズ。絵の苦手な人の作品が断然面白い。 カマキリ、自転車、スフィンクス、ドラえもん、アトム・・その実に個性的な絵の数々も面白いが、 それだけではこんな面白い本にはならない。これに付けたナンシー関の突っ込みコメントが実にいい味で 爆笑。

で。これは単に絵が下手なのを笑いもんにするというだけの企画ではなかったのだ。お茶らけているようで きめ細やかなコメントと考察を読むと実に深い。人の心や記憶というものに実にストレートに切り込んで いて、彼女は脳の専門家でもなんでもないのだがその考察も非常に鋭く、後ろのまとめのコメントなども 爆笑しながらもうなってしまうのだった。

丸い、ポケット、鼻、目、鈴という各パーツはあっているのにどう見てもドラえもんではない代物を描く人の 記憶と、各パーツはむちゃくちゃで全然違うのに、全体としては確かにドラえもんと分かる絵が描ける人の 記憶の仕方の違いとか、年齢によって変わっていく線の使い方とかきっと専門家が見ても面白いのでは。

高校生の頃、非常に優秀で記憶力抜群、絵は苦手という友人が「絵を描ける人はただうまく手を動かせる だけじゃなくて、ものの形を具体的に良く覚えていて覚え方が違う。幼稚園の頃ライオンを描かされたとき、 タテガミや顔は分かっても、おなかがどうなってるかなんて分からなかったけど、描ける人はそれを覚えて いる」と話していて、へぇ〜と感心したのを思い出した。(幼稚園でそんなこと考えてる彼女もすごいけど)


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