読  書  日  記  '04


『虫けら様』 秋山亜由子:青林工藝舎:1300円
『生命をあやつるホルモン』 日本比較分泌学会:講談社:880円
『虫けら様』 秋山亜由子:青林工藝舎:1300円
古典や民話から着想を得たものからオリジナルまで、様々な虫の御伽噺。視点は人であったり 虫であったり、その目に広がる世界が細かく瑞々しく描かれる。ファンタジックとか幻想的と いうと何か違う気がするが、西洋的なおとぎというよりは現実と分からぬものがごく自然に 交じり合った東洋的な御伽草子の世界。話によってタッチが色々変わるのもまた楽しい。 この漫画の世界の雰囲気を言葉にするのは難しい。作者は小さきものが好きでたまらないと いっているが本当に虫が好きなんだなぁ〜と思わせられる。

古い日本画でよく掛け軸などになっている図柄で、小さな虫達が立派な道具を担いで大名行列 をしているのを美しく精巧に描いたものがあって私はそれが大好きなのだがこの人もきっと 好きだろうなと思った。

『生命をあやつるホルモン』 日本比較分泌学会:講談社:880円
ごくごくわずかな量で生命の形を変え、機能を変え、細胞一つ一つに精密な指令を出す魔法の物質 ホルモンについて、様々な専門領域からの解説がされている。ホルモンを追う面白さは、その作用 自体のすごさだけではない。それが進化の過程のダイナミズムを追体験することに他ならないからだ。

気ままな一つの細胞だった頃、多数の細胞と協力する必要が生まれてきた頃、形を変え、より複雑な 機構に「変身」すること、性の発生、水から上がること、季節を読むこと・・・そのたびに全て0 からリニューアルしたわけではなく、同じ化学物質を使いまわし、担当の臓器を少しづつ変え、 引き起こす機能も追加・削除を加えている。ちょうど内分泌内科の実習の頃に読んでいたのだが、 医学部で教わる「人間限定の」内分泌機能からは知りえない秘密が満載で、ドキドキわくわくの一冊。

代謝をあげるホルモンである甲状腺ホルモンがカエルでは変態の調整ホルモンであり、母乳を出す プロラクチンはおたまじゃくしのしっぽを養分としてコントロールするホルモンである。昆虫の ホルモンもまた非常に興味深いトピックが多い。今、人間の血液のカルシウム濃度を上げる ホルモンは首のところから出ているが、これは進化上の「えら」の位置がそこだというだけで、今は 首でなければいけない理由は全くない。だから手術の都合で場所を変更せざるを得ないときは、 その腺を腕の筋肉などに埋め込んで引越しさせるが、別にこれといって困ることはない。 この本を眺めていると、自分がいつも何億年もの歴史とともにあるんだということがより実感できる。


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