その日は日曜日だった。
別に特に変わったことはなかった。
変わってないと言っても八満の日常そのものが、
変わっている断言できる。
本人自体も変わっているが。
ともあれ笠置八満にとったら変わった日ではなかった。
うるささが2倍と化した同居人(?)に起こされる日曜の朝。
「あーー!!うっせぇな!まだ11時じゃねぇか!!」
最近はこの時間でも寝ている者も多いが一応起きるべき時間帯である。
八満にとったらこの時間は早いと言える。
だが二人の同居人は構わず泣き続ける。
そうすると下からもう一人の同居人が上がって来る。
そして一発。
「あんたいい加減に起きなさいよ!!」
これもまたいつものことだ。
しかしそんな変わらない日常も唐突に終わりを告げる。
まあ少し前までに行われていたことが異常過ぎたので
このことは実に小さいこととも言えるかもしれない。
またはこの八満にとって普通通りの日常などありえないのかもしれない。
「たくっよ!」
ぶつぶつと言いながら八満は少し冷めた朝食を暖める。
テーブルについて自分の朝食を見てみると何かが足りないような気がする。
果物が足りていない。
八満は冷蔵庫の中を捜してみる。
まあそれなりに買い揃えてあるようだ。
その奥の方に袋に包まれた何かがあった。
「なんだ?」
お客用のなんかか、八満はそう考える。
そう思った時、普通は食べないようにして別の物を取る。
しかしこの八満という人間がそんなことをするはずがない。
珍しい物だったら売ってやるか。
この考えが今彼の頭の中にあるに違いない。
袋の中から出てきた物は・・・。
これまた少し前に空から送られて来た果実だ。
シアンの父親が送って来た物で珍しい模様の上、
意外においしかったりもする。
ちなみに珍しい模様と味はなんの関係もない。
前にこれを食べた時はなぜか次の日の記憶がなかった。
否、高熱を出して苦しんだ記憶しかない。
だが地上の人間の上にこの果実の効力を知らない八満にとったら
まさかこの果実と自分の高熱が関係しているなど夢にも思わない。
事実、自分の両親がともに口にしているが別に変わったことはなかった。
言い換えるとなぜかいつもの理由で倒れていただけだ。
決して熱で倒れていたわけではない。
そういえば、なんかすごく勿体ないことをした気もする。
だが思い出せない。
改めて果実を見てみる。
すると部分的に傷み始めているようだ。
さすがに長く冷蔵庫の中に入っていたせいだろう。
「ま、傷んだ所食わなきゃ大丈夫だろ。」
野菜や果物というのは肉や魚と違って少しくらい
食べるのが遅くなっても大丈夫なものである。
よって考え方は間違っていないと言える。
が、この考えには致命的なミスがある。
これは地上にある普通の果物ではないということ。
この果実は食べることが目的とされていないこと。
この二つだ。
そんなことも知る由もなく八満は皮を剥いて食べやすい大きさに切っていく。
そして一人席についてちょっと遅めの朝食を食べ始める。
問題の果実を頬張っていると、
となりの部屋からポン太が飛んで来る。
「みーみー。」
どうやら前にこの果実を食べた時、
ポン太は食べることができなかったのが心残りだったらしい。
あの時なぜかシアンは止めた。
その理由は前述の通り八満は知らない。
ポン太が果実を食べたがっている様に果実を指していつものように鳴く。
別に断る理由もないので一切れをくれてやる。
するとポン太は喜んでそれを食べ始める。
少ししてヴァイスが同じ様に飛んで来る。
どうせヴァイスも食べたがるだろうと八満は一切れをヴァイスに渡す。
ヴァイスが今にもそれを食べそうになった時。
「あああーーーー!!!!!!」
シアンがとんでもない大声で部屋に入るなり悲鳴を上げる。
「別にそんなに驚かなくたってまだあるぜ。」
八満は何か根本的な勘違いをしているようだが、
シアンの表情は変わらない。
「あんた、こ、これ・・。」
「ん、ああ。冷蔵庫に入ってたんでな。
少し傷んでた様けど大丈夫だろ。」
(まだ残っていたなんて・・・。)
シアンがうつむいて蒼白な表情をする。
おろおろしていたヴァイスも取りあえず
自分が今持っている果実の切れ端を食べてしまおうと思ったのか口を開く。
「ダメッーーー!!!」
シアンが乱暴にヴァイスから果実の切れ端を奪う。
「あんたも!それ以上食べちゃダメ!!」
八満の手にあった物とテーブルの上にあった皿を強引にひったくる。
「ポン太も・・食べちゃったの・・・?」
「みっ!」
シアンは血の気が引いた顔で八満に振り向き直り、
急に顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なんてことすんのよッーーー!!!」
必殺の鉄拳で八満を粉砕する。
八満も即座に立ち上がり反論する。
「てめぇ!果物やったくらいでなんで殴られなきゃいけないんだよ!!」
「あれはダメだって言ったでしょ!!」
「んなこと言われてねぇよ!」
とりあえずシアンは八満たちから取り上げた果実を生ゴミとして袋に詰める。
そしてこれから本気でどうするかを考え始める。
もうあんな八満は見たくない。
シアンは心の中で叫ぶ。
その上八満は高熱を出して苦しむことになる。
タイムリミットはあの果物が消化されるまでだろう。
今食べて果実が一番最初に消化されるのは2〜3時間後。
少し消化されて効力が発揮されるのか。
完全に消化されなければ発揮されないか。
それとも寝てからか。
そもそも傷んでしまったのでもう効力を発揮しないかもしれない。
全く見当がつかない。
もう誰かに聞いてみるしかない。
「八満!どこにも出掛けないでよ!!」
急いで自分の部屋へと戻る。
「なんなんだ、あいつ・・・。」
自分の部屋に戻ったシアンはカードベルトを引っ張り出す。
前は一枚しかカードを持っていなかった。
それも使ってしまったが。
だが今は違う。
様々な効果を持ったカードを多数チャートや姉から受け取った。
その中に大陸との通信機能が備わったカードがある。
大陸では地上の電灯などをカードの力を使っている。
これは平たく言えば大陸版の電話と言ったところである。
急いでその力を使う。
「はーい、ホーウィなのよー。」
出たのはホーウイだった。
「ホーウィ!?私。シアンよ。」
「し、シアン様!何かご用?」
「うん、パパがこの前送って来た果実のことなんだけど。」
ここで少し何を聞くかを迷う。
無効にする方法、腐ってしまったらどうなるか、
いつ効果が発揮されるものなのか。
迷っているとおしゃべり好きなホーウィは自分から切り出す。
「もっと欲しいってことなのー?
じゃあ、パパ様に聞いてみるのよー。」
「ち、違うの!もしあれを間違って食べちゃった人がいたら
どうすればいいのか、教えて欲しいの!」
一応八満とは言わない。
千里眼を持っているチャートがいるのでこの行為は無駄かもしれないが。
「一日だけだから放っておけば大丈夫なのよー。」
「でも高熱がでちゃうじゃない!」
「そんなに悪い人なの?
でも、一応聞いてみるのよ。」
早くお願い、そう最後に伝えて一旦効果を消す。
そしてカードベルトをしてその中にそのカードを入れる。
(何か嫌な予感がする。)
普通は予感など意外に当たらないことが多いものだが、
こんな時の予感というものはなぜか良く当たってしまうものである。
シアンは八満の所へ急いで戻る。
八満は丁度、朝食を食べ終わったところだ。
シアンは八満が何も異常のないことを確かめるように観察する。
(よかった。今はなんともないみたいね。)
ホッと胸をなでおろす。
「何やってんだ、お前・・・?」
「え?」
振り向いたシアンと八満の視線が完全に重なる。
「・・・・・・。」
顔を紅く染めてシアンが視線を外す。
「シアン、お前今日ちょっと変じゃないか?」
少しムッとくるが考え直す。
そこでシアンに迷いが生じる。
本当のことを話してしまうか否か。
さすがに、話せば八満は怒るだろう。
だが、このまま放っておけば解決法を見つけても協力してくれない可能性がある。
ここはホーウィに頼んだことを含めて話してしまうのが
得策だろうとシアンは結論づける。
「八満!」
急に大声を出したため一瞬八満がたじろぐ。
「な、なんだよ。」
「あの果実のことなんだけど、最後まで怒らないで聞いてね。」
話し終わる。
「・・・・・・おい。」
「な、何?」
八満は今まで座っていたイスから思い切り立ち、
その反動でイスが倒れてしまう。
「俺をお前の親父の所まで連れて行け!
この俺をあんな目に合わせたらどうなるか、思い知らせてやる!!」
そう言って自分の掌を拳で叩く。
そして何やら計算機のようなものを握り締める。
「何やってんのよ?」
シアンが言うと、さも決まっているかのようにフッと冷笑して叫び出す。
「治療費と慰謝料を請求するに決まってんだろ!!」
「お金が勿体無いとか言って医者に行かなかったくせに・・。」
燃える八満をよそにシアンはひとつ溜め息をつく。
「さっき、話したけどホーウィに頼んだから大丈夫、
熱が出ずに済む方法があればそれが一番いいでしょ。」
さすがにあの高熱をもう一度出すのは嫌なのか八満は急に黙り込む。
シアンはわかってくれたのかと期待を持つ、しかし。
(少し残ったこの果実とあの鳥が持ってくる解毒剤を合わせれば商売になるぞ。
熱出したくなければ解毒剤を買え・・・。
いや、品行方正になれる果実・・・。
売れなければ清の所へ持って行けば買い取るだろう・・・。)
ちなみに完全に犯罪行為が混じっている。
しかも解毒剤を持ってくるなど言ってはいない。
そんなことはお構いなしに計画を決定する。
「フッ、まあ少しくらいは待ってやるか。」
八満の目は明らかに信用できない目だが
まあ、恐らくは大丈夫だろうとシアンは考えておく。
「で、どのくらい待てばいいんだ?」
「さあ。ホーウィからの連絡待ちになるかな。」
「・・・おい。この果実の効果はいつ始まるんだ?」
「知らない。」
シアンだって知りたい。
「いつ効果が切れるんだ?」
「よく知らないけど、果実の効果を本人の性格が上回った瞬間らしいわよ。」
少なくとも前回は。
一度は落ち着いた八満から再び炎が現れる。
「やっぱ、今すぐ殴り込みに行ってシアンを人質に解毒剤と金目の物を奪うしかねぇ!!」
ドガッ
そこにあった御盆で一撃。
シアンは至って冷静に。
「でも、本当に早くしないと・・・。」
空の上の方からホーウィが飛んで来る。
シアンが笑みを浮かべて叫ぶ。
「ホーウィ!」
「たくっ、やっと来やがったか。」
八満、シアン、ポン太、ヴァイスは揃って空を見上げる。
現在1時50分。
この後10分後。
事態は急変することになる。
「遅くなったのよー。」
ホーウィがシアンの所まで到達する。
「ホーウィ、どうすればいいか聞いた?」
「それがねシアン様。」
ホーウィは一言、方法は無い。
そう告げた。
あの果実の効果を上回るような人間と言うのはそう多くいない。
その上その場合は「悪人」と見なされるため、
特に処方薬は作らなかったという。
八満が後ろからホーウィを掴み取る。
「おいホーウィ!食ったのが俺だからってウソついてるんじゃねぇだろうなッ!」
「違うのよ!違うのよ!いくら最低最悪のひねくれたやつと言っても
なんの因果か神獣の父親になってしまったのだから一応真面目に探すのよ!!」
ここからは二人がいつものような会話を繰り広げ始める。
「それにしてもよく残ってたのよ。」
「少し傷んでたけど食ったんだよ。」
「え!?」
急にその場の空気が凍りつく。
「な、なんだよ、傷んだとこ食ったわけじゃねぇよ!」
「どういうこと!?ホーウィ!」
シアンがホーウィに向き直る。
「私もよくは知らないのよー。
でもパパ様が傷んだり腐ったりしたら絶対食べるなって言ってたのよー。」
「そ、それ本当なの?」
「間違いないのよー。」
ホーウィは羽をばたつかせてから続ける。
「でも、どうせ効果は一日だからあまり心配する必要はないと思うのよー。」
確かに、一日だけというのならまあ自業自得ということにして
仕方の無いの一言で済ませても構わない。
しかし、シアンは胸の中に何か引っ掛かるものがある。
それが不安でならない。
「ねえ、もう少し詳しく聞いてきてくれない?」
そう何度もあのカードを使うわけにはいかない。
魔獣のカードという物は力を使い過ぎると消滅してしまう。
シアンは大陸にいないため、交換を行うことができない。
なので、できる限り緊急の時のみ使うようにしたい。
「じゃあ、もう一回行ってくるのよー。」
ホーウィが今まさに空へと飛び立とうとしたその瞬間。
時間にして2時丁度。
八満があの果実を食べてから約3時間。
効果が現れ始めた。
飛び立とうとしたホーウィを八満が掴む。
「おい、さっきは誰が最悪男だって?」
八満がいつも金のことを考えている時の目つきをさら厳しくして
ホーウィを睨む。
「焼き鳥にしてやろうか?」
至って冷静に八満はそう告げる。
「ちょっと、やめなさいよ!」
八満はホーウィを掴んだままシアンに振り返る。
「ああ!?てめえ、居候のくせにいばってんじゃねぇよ!
だいたいてめえがいるからいつも迷惑してるんだろ、
いつも人を叩きやがって、さっさと空へ帰れよ!」
「!」
言葉の衝撃がシアンを貫いた。
シアンにとって最も気にしていることと言える。
自然に涙が溢れてくる。
「ちょっと、それは言い過ぎなのよー!!」
「うるせぇ!!」
八満はホーウィを放すとおもしろくなさそうに一瞥する。
「いくぞ、ポン太!」
「み゛ーーーー。」
ポン太の目も何やら尋常ではない。
八満とポン太はどこかへ去ってしまう。
シアンはうつむいたまま呆然と立ち尽くしていた。
そのシアンを元気づけようというのかヴァイスが
シアンの肩に止まってみーみーと鳴いている。
「なんか変だったのよー。」
八満が去った方向を見ながらホーウィがポツリと言葉を漏らす。
「もしかしたら大変なことになってるかもしれないのよー。
シアン様早くパパ様に連絡した方がいいのよー。」
「え?」
サッと顔を上げるシアン。
どうやら聞こえていなかったらしい。
「今のことパパ様に報告した方がいいと思うのよー。」
「う、うん。」
少しうつむきぎみにシアンが答える。
そして、カードベルトから朝使ったカードを取り出す。
結局使うことになってしまった。
大陸へと繋ぐ。
「あ、パパ?シアンだけど・・・。」
「おお!シアンかあの実を食べてしまった人は大丈夫だったか?」
「実はあれを食べたのは八満とポン太だったのよ。」
電話の先で何やら燃え上がるのが聞こえる。
しかも何やら歓喜の声が聞こえる。
やつが苦しむ姿を見に行かねば、とかなんとか。
「ちょっと、聞いてるパパ?」
「ああ、聞いてるよ。シアン。」
「それでね、その実なんだけど少し傷んでたみたいなの。
それで八満、少しおかしくなったみたいで・・・・。」
最後の方は少し声のトーンが低い。
わずかに目が潤む。
「なーーーーーにーーーーーー!!!」
天地がひっくり返ったような声が辺りにこだまする。
「それは本当か?シアン。しかも神獣も食べたんだな。」
「う、うん。」
「わしはすぐにチャート様に報告してくる。
その一口食べれば品行方正になる実はな、
傷んだりしてから食べると全く逆の性質を持ってしまうんだ!」
シアンは絶句する。
おしゃべりなホーウィまで沈黙している。
辺りがまるで凍りついたように。
「う、うそでしょ、パパ・・。」
「本当だ、くれぐれも気をつけろシアン、
わしもすぐそちらへ向かうからな!!」
カードから反応がなくなる。
「どうするの、シアン様・・。」
シアンが決心したように立ち上がり、
ホーウィに向かって告げる。
「八満を止めてくる。」
「そんな、無理なのよー!
神獣が付いている上に元からあの性格なのよー。」
「大丈夫神獣はもう一匹いるんだから・・・。」
そう言ってヴァイスの方へ向き直る。
「力を貸してくれるよね、ヴァイス。」
「みー!」
シアンとヴァイスは八満とポン太が過ぎ去った方へと走り出す。
ホーウィはひとしきり慌てた後、大陸へ報告に向かった。
シアンとヴァイスは走りながら八満とポン太を探す。
商店街に差し掛かりそうになった時、
どこからか悲鳴が聞こえてくる。
遅かった、その思いがシアンの脳裏をよぎる。
急いで悲鳴の聞こえた方へと走る。
息を乱しながらシアンが見た先には
無差別破壊があった。
電信柱も、ポストも、家の塀も、
何か物理的な力で押しつぶされたようなそんな後が。
これはポン太がやったことなのだろうか、
ポン太は確か火を出すことしかできないはずである。
しかし、これをしたのはポン太以外に考えられない。
するとポン太はまた新しい能力に覚醒したことになる。
早く止めなければ大変なことになる。
「行くよ、ヴァイス!」
シアンは再び走り出す。
「やあ、シアンちゃんどうしたの?」
クラスメイトの三太と岡本が歩いている。
「あ、八満とポン太見なかった?」
「え、見てないけど。」
「それよりどう?今からどっか行かない?」
その時、またもや悲鳴がする。
シアンはそちらへ向かって全力で走る。
「「・・・・・・」」
ちょっと気まずい沈黙が残った二人。
そこには同じくクラスメイトの相田千津がいた。
尻餅をついた格好で。
「どうしたの?」
「し、シアン!?」
恐る恐る指を何かに向ける。
シアンは指の先に向かって振り向く。
「ん?なんだよ。」
八満だ。
ポン太もいっしょにいる。
「みーーー。」
ポン太がなにやら光輝く物体を収束させる。
「あれは!氷!?」
そうシアンが言うまでには直径1メートルはあろうかと言う巨大な氷が
ポン太の前に出来上がっている。
「みっ!!」
掛け声と共にそれがシアンに向かって放たれる。
「!」
一瞬声にならない言葉を発して相田を突き飛ばして
相田だけでも当たらないようにする。
そして自分は直撃を受ける覚悟をする。
ボッ
その巨大な氷が一瞬炎に包まれたかと思うと
全てが水蒸気となって空気中に四散する。
「み!」
ヴァイスが得意げに胸を張ってみせる。
「ありがとうヴァイス。」
シアンは立ち上がって相田の方へ向かって叫ぶ。
「相田さん!早く逃げて!!」
相田は少しここに残って事情を確かめたい気分もあったが
それには命が情報料になる可能性があることを悟り
シアンの言う通りその場から立ち去る。
そして八満の方へ向き直る。
「なんだ、なんかようか?」
「なんだじゃないわよ!何してるのよあんた!!」
「ポン太に社会ってやつを教えてるんだよ。」
「こんなこと教えていいと思ってるの!!」
「俺は俺が正しいと思ったことを教えてるだけだ。
文句があんなら実力で止めてみな。」
そうしてポン太を自分の元へ戻らせる。
(く、あまり攻撃的なカードは使えない。
でも、生半可な攻撃じゃポン太を止めることはできない。)
シアンはそこまで考えてふっと気が付く。
ヴァイスだ。
ヴァイスにポン太を止めてもらえばいいのではないだろうか。
そう考えてみたがその後が思いつかない。
勢いに任せてここまで来てしまったが
八満を止める方法がない。
そうこうしている内に八満がポン太に指示を出す。
「いけ!ポン太!!」
「ヴァイス!お願いポン太を止めて!」
ついつい最後に考えていたことを口走る。
ヴァイスがポン太に向かって火柱を放とうとするが
その瞬間に何かがヴァイスに命中する。
それのせいでヴァイスの気が一瞬削がれる。
ポン太はその瞬間に得意の火柱をヴァイスに向かって放つ。
「ヴァイス!」
とっさにカードの力を解放する。
カードから放たれた吹雪がポン太の炎を相殺する。
何かが足に当たったので見てみるとそれは野球ボールだった。
どうやら先程ヴァイスに当たった物らしい。
おそらく八満が投げたものだろう。
「ちっ、妙なもん持ってやがんな。」
もう一度ポン太を自分の所まで来させるとそっと耳打ちする。
「大丈夫、ヴァイス。」
「み、みー。」
ボールが当たった所が少し赤くなっている。
なんにせよ早く八満を止めなければならない。
(なんとか方法を考えないと)
シアンがそう思うと。
「行くぞ!シアン!!」
シアンの作戦が決まらない内に第二波を繰り出してくる。
シアンが八満の声に身構える。
「いけ、ポン太!」
いつの間にかシアンの頭上にいるポン太が
またもや巨大な氷の塊を作り出していた。
そしてそれを自らの力で砕く。
シアンとヴァイスの上から雹のように降り注ぐ。
それと同時に金属バットを持った八満が突進してくる。
ヴァイスがそれに気付いたのか八満へ向かって氷の槍を作り出す。
ポン太のよりも格段に精密なそれはあきらかに殺傷力を持っている。
「ダメ!!」
シアンがヴァイスを止めたため、氷の槍は地上へ落ちる。
しかし、八満が突進をやめる気配はない。
打たれるのを覚悟し目をつぶって衝撃に備える。
ドガッ
八満は倒れた。
「ふう、なんとか間に合ったようだな。」
そこにはシアンの父親が立っていた。
「パパ!!」
「うむ、無事だったかシアン。」
全く、そう言いながら八満の持っていた金属バットを持って軽々とへし折る。
「あの・・・。」
父親の後ろから声がする。
見てみるとシェンナがいる。
「シェンナ!来てくれたの!」
「はあ、来るのは私のはずだったんですけど・・・。」
「・・・・・・・・。」
シアンは父親の方へ向き直る。
「また勝手に来たの?パパ。」
「でも、大丈夫です。チャート様から見つけ次第連れて帰るよう言われていますから。」
「はは、ははははは。」
一挙に緊張が解けたため思わず笑い出すシアン。
二人に別れを告げてシアンは八満を背負いながら家へと向かう。
ちなみにポン太はヴァイスが運んでいる。
これはシェンナが一時的に気絶させてくれた。
帰路を辿りながら心の中で八満の言葉を反芻する。
『だいたいてめえがいるからいつも迷惑してるんだろ、
いつも人を叩きやがって、さっさと空へ帰れよ!』
「・・・・・・・。」
しかしここでもう一つ思い出が頭の中に現れる。
『俺がそう思ってないのに
お前が気ィつかったって誰も同意してくんないぜ。』
(今日は疲れたな。早く帰って寝よう・・・。)
明日になればいつもどおりの八満がいる。
シアンはゆっくりと家へ戻って行った。
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