++ 第52話「帰還」 ++






「ま、よろしく頼むわ。」
二匹の神獣を連れながら八満は言った。
巨大な壊れかけた船と謎の巨大ロボが学校へと向かっていた。

第52話「帰還」

八満たちが戻った学校は、
既に大陸の人間たちで埋め尽くされていた。
「シアン!大丈夫だったか!?」
「シアン、お姉ちゃん心配したんだからね。」
「ちゃい姉さまーー!」
ここで約一名がいなければ美しい図が完成したのだろう。
が、その構図をぶち壊している本人が一番泣いている。
そのため余計に美しい図などとは想像もつかない。
「たくっ、いちいちうっせぇな。」
「神獣様がお二人もーー!!」
こっちはこっちでうるさい。
昨日と今日の出来事でさすがの八満も疲れている。
何度かは危うく命を落としかけたほどだ。
溜め息をついていると窓の先の方からチャートとシェンナが向かってくる。
「シェンナ!!?」
そこには、まるで何事もなかったかのような、
とまでは行かないが以前よりも
何か満足しているようなシェンナの顔があった。
二人の学校内に入る。
「お前シェンナが消滅したとか言ってたじゃねーかよッ。」
八満がチャートに向かって叫ぶ。
「あれはヴァイスを救うための方便だ。
この私が有能な部下をそう簡単に手放すと思うのか?」
フードを被っているため正確な表情はわからないが
恐らくは表情ひとつ変えずにサラリと言いのけたに違いない。
「お前な〜そういう事ばっかやってっといつか後ろから刺されるぞ。」
「ああ、後ろも見えるから心配ない。」
これまたサラリと即答する。
もう何も言うまい。
八満は何かを言うのを諦めた。
チャートが来たことにより大陸の人間は次々とチャートの元に集い始めたようだが、
八満は手近な教室へ入って傍にあったイスにもたれ掛かる。
会話が聞こえるような位置に座ったのは別に意図したことではなかったが、
少しばかりこれから大陸の人間がどうなるのかを知りたいと言う気持ちもあった。
シアンがシェンナに向かって何かを言っているようだが、
どうせ八満が聞いたことと同じだろう。
「問題は解決した。大陸のことを知らぬ人間からはこのことに関する記憶も消した。
大陸はいつもの様に浮遊している。」
そうチャートが言うと何人かから歓声が上がる。
ヴァイスの力で浮かせてたんじゃなかったのか、
そう八満は思ったがよくよく考えてみれば
ヴァイスの力を使う以前は誰が大陸を動かしていたのかを考えると
チャートしか思い浮かばない。
そうなると、チャートは少なくとも現在のヴァイス以上の力を
持っていると言うことになる。
殴り込みをかける時は気を付けねばと、
できもしないことを考える。

しばらくチャートは大陸の人間たちに向かって
今回起こったことについての事情を話していた。
八満はこのことについては当事者なので嫌と言うほどわかっている。
「では、ここで問題の解決祝いにお祭りでもやりましょう!」
何かに付けて馬鹿騒ぎをやりたがる奴というのは
どこにでもいるものだ。
まぁ別に悪い気はしないが、
とにかく今は疲れている。
少しは休ませてくれよ、と心の中で叫ぶが
当然その声に気付いてくれるものなどいない。
「みーみー。」
ポン太が誰かを探しているようだ。
ヴァイスかもしれないが・・・。
ヴァイスは何故だか知らないが急にしゃべれなくなった。
清丸の話だとチャートの体を使っていたためだろう、と言う。
声帯の関係がどうのと言っていたが八満には理解することはできなかった。
ちなみに神獣はそんなこともできるのかとメモを取っていた様だったので
あとで授業料を清丸からふんだくらなければならない。
そう決心する。
話を戻すとポン太がまず探しそうな人物などもう決まっている。
八満かシアンだ。
この場合、この教室のすぐ前にいるシアンをわざわざ探すハズがない。
となると八満しか考えられない。
「なんでこんな時まで相手しなきゃならねぇんだよ。」
と、誰に言っているのか全く不明なことを口走りながらも
教室のドアを開けてやる。
「みーーー!」
すぐにポン太が飛び込んで来た。
ヴァイスもいっしょにいるようだ。
「八満・・・?」
ドアの向こうに集まっている大陸の人間たちの視線が
一気に八満へ集中する。
「・・・・・。」
視線と言ってもなんだか良くわからない仮面を被っている奴が多いので
どんな表情をしているのかはわからない。
まあ、その仮面があるので余計に怖いとも言えるが。
その時仮面の男その一が八満に向かって話し掛ける。
後で聞いたことだがそいつは以前に、学校へ来た連中のリーダーをやっていたらしい。
だから?と言われると困るが。
「八満君ッ!お祝いをしようじゃないか!
準備に少しばかり時間が掛かるから君たちは休んでいてくれたまえ!」
後ろの方で八満の担任である下加毛先生が何やら騒いでいたが
シアンの父親に睨まれて(?)大人しくなる。

その後大陸の連中と2−Dの生徒が学校全体を縁日へと変化させていった。
「ごめんね。疲れてるのに。」
教室で一人と二匹で準備を見ていた八満へシアンが話し掛ける。
「全くだぜ。空の連中は何を考えてるのかわからん。
どうせ祝うなら現金を持ってこいってんだ。」
シアンのいつもの何よそれ!とか言うツッコミは返ってこなかった。
溜め息をひとつ付いて続ける。
「まあ、良かったんじゃねぇの?
みんな無事だったんだろ。」
「うん。」
窓の方を向いているためシアンの表情は八満にはわからない。
「ねぇ、八満。」
「あん?」
これを機にとシアンの方へ向き直る。
「あの時、八満私に向かって言ったよね。
私の本当の気持ちはどこにあるのか?って。」
「ああ、そうだな。」
否定はしない。
本気で思っていることについて否定することはない。
「お前さ、いつもいつもポン太や他人のこと心配している様だけどよ、
たまには自分のことも考えろよ。
こいつらだって子供じゃない。
お前の気持ちがまとまるくらいまでなら待ってくれるんじゃねぇのか?
だからよ、
・・・お前の好きでいいんじゃねぇの?
これからあいつらといっしょに大陸の復興の手伝いをしに行ってもいい。
こいつらの傍に残ったっていい。
神獣のタマゴを渡されてからずっとそれの事ばかり考えてたんだろ。
自分の好きにできるんだから好きにしろよ。」
しばしの沈黙。
「・・・・・。お、お前!言っておくけどな。
俺は決してお前がいなくなったのを良いことに
ポン太たちを使ってテレビに出て出演料を頂いて、
こいつらには金に関する知識がないのをいいことに
全部自分の物にしちまおうなんて、考えてねぇからな!!」
自分の計画の一部だったのだろうか、
何か内容が生々しい。
そして最後に付け加える。
「お前が帰って来るまでくらいは我慢してやるよ。
まさかポン太たちを放っておくなんてことはしねぇだろ。」
一度シアンの方を向いたが結局視線を外してしまう。
「ありがとう。
でも、それじゃあヴァイスとの約束破っちゃうことになっちゃうでしょ。」
「だから・・。」
反論しようとするがシアンがまだ続けているようなので黙り込む。
「それに八満は私がいること邪魔だと思ってないんでしょ?
なら、これからもお願いしようかと思ってるんだけど。」
俺に何をお願いするんだよ?俺じゃなくて父さんたちにだろ。
と、思うが口には出さない。
「別にいいんじゃねぇの?
それがお前のやりたいことならな。」
「ありがとう。・・・あ、そうだ。
私の本当の気持ち聞かせろって言ってたよね!」
「ああ?今のが本当の気持ちじゃねぇのかよ。」
まあいいか。
そう思って八満は黙って聞くことにする。
「あんたさぁ!前代未聞の地上の人間が神獣の親ってことの上に
同じく前代未聞の神獣二匹の親なんだからね!
ちょっとは真面目になってよね!!」
・・・・・・・・・。
一瞬の沈黙。
「ふざけんなーー!!」
八満が急に席を立つ。
「人が折角お前のためを思って下手に出て忠告してやったつうのに!
言うこと欠いてそれか!!?」
「誰がいつ下手に出てたのよ?
だいたい自覚を持つことくらい当然じゃない!」
「んだとッ!?俺はポン太を負に傾かせてねぇ!
そいつはつまりこの俺が優秀な父親だからに決まってんだろ!」
「最悪最低のダメ父親だから子供がしっかりするしかなかったのよ!!」
この口論はしばらく続くかと思えたが唐突に終わりを告げる。
「お祝いの準備できましたよーーー!!」
八満は口論をやめてポン太たちに振り向く。
「行くぞ、腹が減った、食いまくってやる!」
「「みーー!」」
そうして八満は勢いよく教室から出て行く。
「ありがとう、八満。」
シアンは八満が出て行った後のドアへ向かって一言、
自分の本当の気持ちを言った。

すでに学校中が完璧に占拠されていた。
お祝いなどと言っていたわりには唯のお祭りである。
前に教室を使ってやったのと同じようなものだ。
しかし、今回は前空でやっていたこともここでやっている。
内容は前にホーウィが話していた人間大砲、チキンレースなどだ。
警察がよく来ないな、と八満は思ったが
それを考えるのはなぜだか恐ろしいような気がした。
適当に回ってポン太とヴァイスにあんず飴を一つずつ、
自分は腹が減ったため、焼きそば2つ、お好み焼き超特盛り、
大判焼きにたこ焼きetc。
ただと言う言葉に釣られてとにかく貰いまくった。
その全てを平らげてしまう八満も異常と言える。
「相変わらずだな八満。」
焼きそばの3つ目を頬張っていた所に清丸が現れる。
なんだ清かよ、と思うが口の中の焼きそばのせいで言葉が出せない。
そんなことはお構いなしに清丸が話を続ける。
「ふっ、まさか神獣が二体になって戻って来るとは、
さすがの僕でも予想できなかったよ。」
帰り際に言ったものと似たような発言をする。
(まあ、僕にとったらものすごく好都合なんだけどね。
一体がダメになっちゃっても大丈夫になったわけだし。)
「何を考えてやがるバカ清。」
焼きそばを飲み込んだ八満がまるで清丸の考えを
読み取ったかのように突っ込む。
この状況で清丸の考えそうなことなど誰にでも簡単に読める。
「いや、今すぐにやるってわけじゃないよ。
そう避けることないじゃないか二人とも。」
ポン太とヴァイスが揃って八満の後ろに隠れている。
それよりも今すぐはやらないってことは、
いつかはやると言うことなのだろうか?
「まあしばらくはね。大陸に入る方法も見つかったことだし。」
「・・・・清丸、お前・・・!?」
「そうさ、八満が入った方法を使えばあんなバリア簡単にクリアできる。
まあ他に方法が無いって分けじゃないんだけど、
今ある方法の中ではこれが一番確実な方法だしね。」
清丸は含み笑いを浮かべているが目が完璧にマジだ。
「金目のものがあったら持って来てくれ。
それとチャートの野郎の弱点があったら調べてきてくれ。」
「フッ。小さいね。でもそれくらいの事なら暇があったらしてあげよう。
この僕に大陸との繋がりをくれたのは他ならぬ八満なんだしね。」
「クックックこれであのチャートの野郎の弱みを握れば!!
今までの恨みは100倍にして返してやる!!」
神獣二体はあとずさりしていた。

そして夜が明ける。
「シアン、本当に地上に残るのか?」
「もう決めたのパパ。」
「ちゃい姉さま・・・。」
エルが今にも泣きそうな顔をしてシアンを見つめている。
「大丈夫よ。いつでも遊びにきなさいエル。」
「二度と来るんじゃねえよ。」
八満はエルに付き合わされて酷い目にしか合っていない。
「まーたく、神獣の親が最低最悪、金にしか目が無い、
もうどうしようもないダメ人間だと困るのよー。」
「誰がダメ人間だ!」
八満がホーウィの首を締める。
「違うの私はみんなの意見を代表して・・・。」
「ではみなさんお時間です。」
シェンナが大陸の人間たちを集めた。
「じゃあ、元気でねー。」
「バイバーイ。」
一瞬で大陸の人々の姿が消える。

「ふう、わいらももう空へ戻るとするか、スミ―。」
クリムソン船長とスミ―及び船員が現れる。
「あ、おっさんいたの?」
ガー―ン
急にクリムソン船長の所だけが暗くなり落ち込み始める。
クリムソンの船は八満を大陸の中に入れるために大破してしまったが
チャートが元通りにしてくれたようだ。
落ち込みながらクリムソン船長は去っていった。
恐らくは自分の船を大破させてまでがんばった(?)のに、
いたの?は酷いだろ、とかなんとか言っていたのだろう。
「全くバカなやつだ。」
オーキッドことJr.が一言。
「って、なんで残ってんだよ。」
オーキッドはさも当然のように。
「ふっ、神獣が二体に増えた所で変わらん。
お前を倒し、神獣二体とシアンさんを助け出すのが僕の目的だからな。」
神獣が二体になっているところが変わっただけだ。
「まあ、今日のところはこのまま戻るとするが、
必ず神獣は手に入れる。」
オーキッドもなんだかんだ言って疲れていたのだろうか?
そう言い残して去っていく。
2−Dのメンバー達もバラバラと帰り始めた。
「じゃあ、また明日な!」
「明日宿題あったっけ?」
本当に適応力のある連中だ。
これだけのこと(一部のみ)が起こったと言うのに
平然と帰っていく。
おまけに明日の宿題があることを八満に思い出させて。
まあ知っていたところでやって行く八満ではないが。
「たく、結局うるさいのが一体増えただけかよ。」
八満がみなが帰って寂しくなってしまった校庭で一人呟く。
「うるさいのって何よ。」
横にいるシアンが突っ込む。
(まあ、金ヅルが一体増えたと言う言い方もできる。)
「・・・・・。」
シアンが冷めた目で八満を睨んでいる。
「な、なんだよ。別に何も考えてねぇって!!」
「ま、いいけどね。帰ろうポン太!ヴァイス!」
二人と二匹も帰路につき始めた。
校庭の隅の方で下加毛先生が邪魔なので撤去された
机、イスその他諸々の山の前で立ち尽くしていたが
そんなことは関係ない。
あるとすれば明日の授業が少し遅れるかもしれないということだけだ。

八満、シアン、ポン太、ヴァイス。
二人と二匹は八満の家まで戻ってきた。
「おいヴァイス。」
唐突に八満がヴァイスに向かって話し掛ける。
「今日からお前の家はここだ。
ここには俺の父さんも母さんもいるし俺たちもいるからな。」
一拍おいて。
「それと自分の家だと思って壊すなよ。
まあ、それくらいのことはわかると思うが。」
ヴァイスは嬉しそうに八満の周りを飛び回る。
壊すなよと言ったのはこの家の窓をヴァイスが
粉々にしてしまったからである。
「ただいまー。母さんメシはいいや。」
八満は玄関にあがった。
さすがにあれだけ食いまくともう食べられない。
「八満。」
シアンが後ろから呼び止める。
「なんだよ、早く入れよ。」
シアンは一度目をつむってから。
「ただいま!」

「クックックック。」
妙に薄暗い部屋の中で一人の少年がパソコンを打っている。
少年の横には何かの残骸かと思われる物体がいくつもあった。
破片からすると船のようなものの破片に見える。
「あの神獣型飛行船はなかなか成功だった。
でもあれはまだまだ完成じゃあない。
あの程度の機動性ではたかが知れているからね。」
カチャカチャ
薄暗い部屋の中にパソコンの音だけが響く。
「さて、ここに今までとったメモを入力・・・。」
少年はポケットを探ってみるがメモが見当たらない。
(そんな!この僕がメモをなくすなんて!!?)
ポケットの中に手を入れて探してみると
一枚の紙が入っている。
『乙部清丸君へ
なかなか神獣のことが詳しく書いてあるようなので
しばらくの間預かってデータ入力の参考にさせてもらうことにする。
チャート』
「・・・・・・・・・。」










レオンさんより頂きました♪♪
最初のところで、うちの落書き漫画の一部を使って頂きまして
〜〜〜vvv ιι 光栄でございますvvv
シアンに「好きにしろよ」という八満、めっさオトコ前です!!
…と思ってたら、その後ミョ〜に微に入り細に入った表現で
よからぬ計画がバレバレですが……(爆笑)
でも、八満のいいトコはちゃんと分かってますよねシアンにもvv
(まあ、本人認めないかもですが…って、八満も同じか・笑)
しかし、侮りがたしチャート様(もともと侮ってませんが…)。
あの清丸が一本取られてます。
(しかし、この二人…どっちがウワテなんでしょうかねぇ…笑)

レオンさん、有難うございました〜〜〜!!
53話もよろしくお願いします!!! (^o^*)/ (←をい)





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